第6話【彼は突然そう告げる】
テストが終わって、約2週間後の休日……。
俺と尚志は約束した水族館に行くために、駅で柴乃と星宮を待っていた。
この辺りはそこまで大きな水族館もないので、せっかくだから名古屋まで行こうという事になった。
季節は11月にさしかかっていた。
この時期になってくると昼間も冷えだすので、今も風が冷たかった。
「いや~、遊びにくっていって、まさか水族館になるとはな~」
尚志が少し笑いながらそんな事を言っていた。
「しょうがないだろ~。星宮が乗れるものが少ないんだから」
「まぁ仕方無いか~」
そんな会話をしていたら2人が来た。
「お待たせー。待った?お2人さん」
柴乃が手を振りながらこっちに来た。
星宮の私服を見るのは初めてだったので、つい見いってしまった。
膝が隠れるくらいの長めのスカートを履いていてアンサンブルを着ていた。なんかオシャレで今時の高校生って感じだ。
柴乃も、星宮に似たオシャレな格好をしているのだが、こいつの私服は見慣れていたので、なぜか星宮ほどの感動はなかった。まあ、俺からしたら“いつものあいつの格好”って感じだった。
すると星宮が、申し訳なさそうな顔で言った。
「ごめん……。遅れちゃって。準備に手間取っちゃって……待った?」
と聞いてきた。すぐ謝ってくれるなんて、なんていい子なんだ。柴乃にも見習って欲しいな。
そして俺はとっさに、答えた。
「いえ、まっっっったく、待っておりません!!」
ホントは嘘です。実は緊張しすぎて、一時間くらい前から来てました。絶対に言わないけど。尚志もホント五分くらい前に来たとこだったし。
すると星宮は、
「そっか。よかった!」
と笑顔で言ってきた。
俺はつい、ドキッとしてしまい、顔をそらしてしまった。
今の笑顔を見せたときの星宮の周りに俺はアニメとかの、キラキラっていうエフェクト的な何がが見えた。
それでも俺は平然を装って、
「じゃ、行くか」
と言って、皆で電車に乗り込んだ。
電車の席は俺と尚志。
柴乃と星宮という風に別れてしまった……。
まあ、こればかりは流石に仕方がない。まぁ、そのおかげもあり、移動中は俺は尚志と、星宮は柴の乃とで会話をしていて時々、柴乃が俺達の会話に入ってくる程度だった。
約1時間で俺達は目的地に到着して、水族館に入場した。
水族館の中の雰囲気とは、どこか不思議で、動物園に行ったときにはなぜか感じない、どこか自分達の世界とは違う世界のような、そんな不思議な雰囲気が立ち込めていた。
まあ実際、海というのはある意味別の世界な訳だけれど。
俺はこの、どこか静かな、落ち着いた、そんな雰囲気が好きだった。
俺達はそれから水族館を順に廻っていた。
俺達の少し前を歩いている星宮と柴乃は二人で水槽を指差しながら、お互い笑顔で会話していた。
内容までは聞き取れないけれど、そんな二人の姿は、どこか微笑ましく。俺もそんな二人を見て少し笑みがこぼれる。
そんな俺を見た尚志が、話しかけてきた。
「どうした翔?急に笑い出して」
「別に、何でもないよ」
「そうか? 急に笑い出してちょっと怖かったぞ」
「思い出し笑いだって」
「ふーん。そーか」
そんな話をしながら到着したのはトンネル水槽だった。俺は水族館のなかでも、ここが特に好きだった。
俺達はここでしばらく立ち止まって、水槽を見ていた。
自分の右手側を泳いでいたエイが頭上を通って左側の水槽に泳いでいった。この光景は何度見てもどこか不思議な感覚で、この水槽に色々の種類の魚がいるのもあるけれど、本当に自分がまるで海の中にいるかのような感覚になる。
水槽に夢中になっていると、右に立っていた星宮が話しかけてきた。
「なんか不思議だよね。私たち今までクラスで喋ったこともなかったのに、この間はじめて会話して、今は休日に一緒に水族館に来てるなんて」
俺は緊張しつつも平常心を保って答える。
「まあ、そうだね。まあ星宮と柴乃が仲がいいから、一緒に来れてるんだよ。」
「守山くんと 柴乃ちゃんだって、昔から友達なんだよね?小学校から?」
「いや、幼稚園から」
「へえ、スゴいね!ホントにそんな頃から一緒ってあるんだね」
「まあ、俺も正直驚いてる」
そういえば、あいつ俺なんかよりもずっと頭いいのに何で俺と同じ高校来たんだろうか?
そんなことが一瞬、頭をよぎったが、すぐにまた星宮が話を続ける。
「いいなー。私もそんな頃から柴乃ちゃんと出会いたかったなー」
そんな会話をしていた俺たちをずっと、尚志が寂しげな顔で気にしていたことに、俺は気づいていなかった……。
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それからしばらく館内をまわりると時間は16時を過ぎていて、俺たちもそろそろ帰ることにした。
「いやー今日は楽しかったねー。」
と水族館の出口からでて柴乃が言った。
「俺も、水族館なんて久しぶりに来たよ」
「また、このメンバーで遊びに行こうぜ!」
と尚志。
「そうだね」
と星宮は笑顔で答えた。
次はいつになるだろうか?期末が終わってからなら冬休みか……。
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自分達の町の駅に到着して、星宮たちと別れたあと、俺と尚志は2人で歩いていた。
「翔、話あんだけど」
と突然尚志が言い出した。
「なに?」
「俺さ……、星宮さんが……、星宮が好きなんだ……」
彼はそう言い放った。あまりに突然で俺は固まってしまった。
ラブコメの展開なんて現実世界に起こり得ない。なんて言ったけれど、どうしてこういう事に限ってはラブコメと同じ展開が起きてしまうのだろうか? 本当にどこまでも、現実ラブコメは甘くない。
彼が俺に告げたその言葉は、決して大きな声でなかったけれど、その目と声には確かな信念があった。
こんにちは夜山なつめです。
高校のテストの都合で1周間ほど投稿をできまんでした。申し訳ありません……。
今回は男2人特に尚志の心情を書くのに、結構苦労しました。ああいうシーンを考えるのって難しいですね。この話は今後の展開のためにも重要な話になります!
それでは最後に、読んでくださった方、ありがとうございました。 次話以降もよろしくお願いします。