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第36話【自分にないものほど】

「そうか。ならよかったじゃん。時間かかったけど、ちゃんと解決できてさ」


 尚志ひさしは優しく俺にそう言葉を返してくれた。

 翌日の放課後の教室、俺は自分の席に座っていて尚志は俺の机の前に立っている。そこで俺は尚志に昨日の話をしていた。


「まあ、たまたま本屋で会えたからさ」


 そう、そのきっかけがあったから仲直りできたのであって、もしもあの時、紫乃しのと出くわしていなかったら仲直りできていなかったのではないだろうかと、そんな風に思う。

 だから、殆どタイミングのおかげではないだろうか……。


「いや、きっとしょうは昨日紫乃に会ってなかったとしても近いうちに、きっと解決してたさ」


 そうだろうか?チキンの俺がきっかけなしにできていただろうか?


「そうか?そんなのわからんでしょ……」


「できてたよ。翔ならきっと」


 尚志はそう言って俺に笑顔を向けてくれた。

 それに俺も笑顔で返す。

 

「それはありがと。まあ、仮定の話はどうであれ、解決できてホットしてるよ。なんだかんだ1ヶ月も引きずっちゃったしな……」


 頬杖つき、外を見ながらそう呟く。


「でもまあ翔はさ、前に進めてると思うぞ。成長できてるって」


「そんなことないだろ……。本当に成長できてたとしたらここまで長引かせることもなく自分の非を認めて、すぐ紫乃に謝って、それでいてすぐに解決できたんじゃないかなって。つくづくそう思う……」


「それは超最短ルートだよ。すぐにそんな風に行動できる人なんてわずかだと思うし。そんな風に考えられてるってことは成長できてるってことだよ」


 こう尚志の話を聞いているとやっぱり尚志の方が俺なんかよりずっと大人に見える。


「相変わらず大人っぽいことを言うな、尚志は」


「そんなことないよ。でもまあ、自分自身が成長できてるかどうかなんてその時は分からないものだよ。自分自身の変化は気づきにくいものだって。それに誰でも相手が持っていて自分が持っていないものほど目立って見えてしまうもんさ。だから翔は今俺がそういう風に見えるだけだよ。自分が持っているものは自分にとって当たり前でしかないから。だから、翔も俺にないものをいくつも持ってるよ……」


「そうかね……」


 俺が持っていて尚志が持っていないものなんてあるだろうか……。

 俺がそう考え少し下を向いていると、


「そうだよ」


 尚志は再び俺に笑顔でそう言った。

 なんて爽やかな笑顔……。

 やっぱり尚志の言う通り自分の持っていないものほど際立って見えるな……。

 爽やかな笑顔。流石モテ男。


「なんか色々悪かったな尚志……。迷惑かけちゃったと思うし」


「気にすんなって。解決できてなによりだよ」


 優しいな……。尚志は。

 何度か尚志にも愚痴をこぼしたり助言してくれたりだとか色々迷惑をかけてしまった気がする。だから……。

 そう考えていると紫乃が、


「じゃあね!翔、尚志」


 と俺の机の近くまで来て声をかけてきた。その後ろには星宮ほしみやもいる。

 どうやら今から二人で帰るようだ。


「また明日ね。二人とも」


 紫乃に続き、星宮もそう言って俺達に笑顔で軽く手を振ってくれた。


「おう、また明日」


 俺達二人がそう返すと、紫乃と星宮は二人で教室を出ていった。

 俺がその二人を目で追っていると、


「どうした?翔。浮かない顔して」


 と俺の顔を見た後、尚志も教室を出ていった二人に視線を移し俺にそう聞いてきた。


「いや、まあ。気にしないでくれ。俺自身の問題だからさ……」


 俺はそう尚志に告げた。

 尚志はそんな俺を見て「そうか」と笑顔で返してくれた。

 これで正しいのか分からない。でも……。

 そう、だからこそ俺は……。今回は自分で解決しなければいけないと思う。

 尚志に頼るのではなく。もちろん誰かに相談したり頼ったりすることも別に間違いではないけれど……。

 俺はこの紫乃に対するモヤモヤとした感情を、自分自身で解決し、答えを導きだしたかった。




         ********




 その日の夜。

 自分の部屋でベッドに寝転がり一人、考えを巡らすも考えれば考えるだけさらにモヤモヤとしてくるだけだった。

 このままずっと同じように考えていても答えは出そうにない……。

 

「はー」


 俺はそう深くため息をつきベッドから立ち上がった。

 少し外でも歩くか……。

 俺は少しでも気持ちを落ち着かせようと少し散歩することにした。

 スマホだけをポケットにしまい、俺は家の階段を降り、玄関で靴を履き家のドアを開けた。

 外へ出ると家の中とは少し空気が違い、それだけでもほんの少し気分が落ち着いた気がした。

 もうこの時期になると夜でもそこまで寒くない。特に昼間なんてそれなりに暖かくて、1年中こんな気候だったらいいのにとつくづく思う。

 まあ、そう言う訳にはいかんのだけど。

 でもこれからは暖かくなっていく一方なので俺からしたら少し嬉しい。冬は嫌いだけど夏は好きだ。

 運動するときなんて冬は寒さで体が動かんかったり、手がかじかんだりとかする。

 だけど夏は開放的な気分になれるし、体だって普通に動く。でも、暑くて外で運動する気になんてなれないんだけど。それに、なんと言っても夏休みがあるしな。まじ最高。今年が高校生活最後の夏休みになるわけだけど。

 そんなことを思い少ししみじみとしながら、俺は夜空を見上げた。

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