第34話【成長】
「なぁ、紫乃……」
俺がそう聞くと紫乃は小さな声で下を向いて答えた。
「何……?」
「いや、あのさ……」
話を切り出したはいいものの何を言えばいいのか……。
俺がそんな風に考えていると紫乃は小さなため息をつき、くるりと後ろを向き俺に背を向けた。
「用がないなら私帰るから……。じゃあね……」
そう言って紫乃は歩きだしてしまった。
マズイ……。学校でも最近話していないし。メールだって昨日までのは風邪だったから返信できなかったとか言ってたけど、明日以降だって返信が来るなんて保証はない。いや、むしろ来ない確率の方が大きい気がする。 となれば、次のチャンスはいつになるかわからない……。なら……。
「いや、紫乃、ちょっと待ってくれ……」
そう言って俺はこの場から去ろうとしていた紫乃の手を掴んだ。
「話あるんだけど」
「……」
俺が手を掴んだ瞬間、紫乃はその手の方に視線を移し、瞬間少し驚いたような表情を見せ頬を紅潮させたように見えたが、すぐにまた元の冷たく、それでいて寂しげな表情に戻った。 そして何か言いたげに黙っていた。
だが……。いつまでも紫乃の返答を待つわけにはいかない……。
何度だって思っていたじゃないか、普段自分から動けないから、行動に起こせないから、だからこんな時こそ自分から行動できるようにしなければと。
いつだって屁理屈ばかりを並べて、それを自分のなかで正当化して……。
しかし、それは所詮逃げなのだ……。自分自身からの……。現状からの……。そして紫乃からの……。
だから、その一歩を……。
「紫乃、今時間いいか?」
俺は終始黙っていた紫乃にそう聞いた。
「なんで……?」
紫乃は小さな声で俺にそう聞き返した。そう言った紫乃は複雑な表情をしている。
「なんでって……。話があるからだ」
「話……?」
そう言った後紫乃は何かを言い出そうとしたのか口を開いたがすぐに口を摘むんだ。
「そうだ……」
「あ……。うん……別にいいけど……」
「そうか。よかった」
断られたら次はいつチャンスがあるかも分からないしな……。
「それで、話って何?」
「いや……。ここじゃなんだし、俺の家でいいか?本屋でするような話じゃないし。ちゃんと話したいことだから……」
「え……?あ、うん。いいけど……」
あとは、謝って許してもらえるかだけど……。まあ、そればっかりは分からんからな……。
**********
いつからだろうか……?いつの間にか紫乃と遊ぶことも、家に呼ぶことも減った気がする。
昔はよく一緒に遊んでいた。特に幼稚園の頃なんかは毎日のように。まあ幼稚園の頃なんて10年以上も前のことだけれど……。
それでも、小学校の高学年、中学校へと進学するにつれその機会も減っていった。俺は男友達と、紫乃は女友達と遊ぶことの方が多くなっていったから。まあ、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。
中学校ではクラスが同じになる機会もあった。勿論それによって必然的に会話する機会が増えたし昔のようになんの隔てなく話せていた。だからといってプライベートで遊ぶ数は相変わらず以前のようには戻らなかった。
それでも、まあ仲良くやっていけていたと思っていた。
しかし、きっと俺はその隔てなく話すことができるという所に甘えていてしまったのかもしれない。確かに隔てなく接することができるというのはとても心地がよい。でも、いつしか俺はそれを何を言っても大丈夫。と、勘違いしてしまっていたのだ。そこに甘え、そしてそれを当たり前だと思い、思ったことをそのまま口に出してしまっていた。
普段、誰かと接するときは相手の事を考え、言葉を選び会話している。けれど、紫乃なら大丈夫だとそれを怠ってしまっていたのだ。
そう、本当は昔から知っているから大丈夫なんてことはない。昔からの仲だからこそ、それ以上に大切にしなければならないことがあったはずなのに……。
それに気づかずにいつまでも甘え続けていた自分がひどく嫌になる。 後悔のないように。なんて思っていたのに自分は何も成長していないのではないだろうか……。こんなんじゃ、いつしかまた大切なものを失ってしまうのではないだろうか。
いや、仮にこれで紫乃に許してもらえなかったとしてもこれからは、こんなことは絶対にないようにしなければならない。紫乃に許してもらえなかったからといって現状を、自分を変えようとしなければ、それこそ本当に成長できていないことになってしまう。失敗して、それを次に繋げられないのなら。そこから何も学べていないのなら、失敗の意味すらなくなってしまう。
でも、まあそれ以前に誠意を見せて許してもらえるようにしなければならない。
そのためには……。
「着いたな……」
再び本屋から徒歩10分ほどかけて俺の家まで到着した。
ここに来るまで紫乃との会話はあまりなかったが……。
「ただいま……」
玄関のドアを開け俺がそう言うと紫乃もその後ろについてくる。
「おじゃまします……」
紫乃がそう言うとすぐに母が反応した。
「あれ!?紫乃ちゃん。久しぶりー。元気してたー?」
「あ……。はい……」
紫乃は若干戸惑いながらそう答えた。
「行こ……」
俺はそう紫乃に言って自室へと向かった。




