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第32話【季節の移ろい】

 家を出て学校へ向かった。

 3月になり少しずつではあるものの寒さも和らいできて、季節の移ろいを感じるようになった。

 俺は冬が嫌いだ。だけど、こんな季節の移り変わりの時期にはいつも一種の寂しさのようなものを感じる。

 季節が移り変わってしまったら、その季節に体験したことや思い出も本当に過去の物になってしまったのだと自覚させられるから。

 来年また、冬は戻ってくると皆思うかもしれないが、全く同じ時は二度と戻ってこないから……。

 なんだかんだ、寒くなってから色々なことがあった気がする。水族館に行ったり、初詣に行ったり……。

 全ては過ぎてしまったものだけれど、唯一まだ、続いてるものがある……。そう、紫乃しのとの問題だ……。


「はー」


 話しかけようにも休み時間はだいたいアイツ星宮ほしみやといるし、帰りはホームルーム終わったらすぐ帰っちゃうし、避けられてるのかねー……。

 いや、この間決めたはずだ……。こういった時くらい自分から行動できるようにしなければと、成長しなければと。仲直りをすれば今の変んなモヤモヤもなくなるだろうし……。だから……。





        **********



  


 教室に入り、自分の席についた。

 後ろの席には、普段ならもう来ているはずの紫乃の姿はなかった。

 だが、その事に少し安堵してしまった自分がいた。

 ダメだな……。こんな心持ちじゃ……。

 にしても紫乃が休むなんて珍しい……。風邪かね……。あんまりひどくなければいいけど……。

 頬杖をつき、そんな事を考えていると、ポンっと肩を叩かれ声をかけられた。


「よう。しょう


 反射的に声のする方を振り返ると、尚志ひさしが立っていた。


「おう、尚志……」


 俺がそういうと、尚志は俺の席の前まで来て俺の机に手を置きその場にしゃがんだ。


「相変わらずだな……。紫乃も今日いないみたいだし」


 尚志は紫乃の机を見てそう言った。


「ああ、まあ……。そうだな」


「仲直りは出来そうか?」


「どうだろうな……。自分から行動しないとな……。とは思ってるけど」


「そうか……」


 無意識に紫乃の机を眺めながら、そう答えた。


「そんなに心配なら今日見舞いにいけば?」


 尚志は俺の表情を見てそう言った。


「ええ??なんで」


「なんでって心配なんだろ?」


「いや、そうだけど……」


「なんかさっきから、そんな感じの表情してたし、ちょくちょく紫乃の机の方気にしてたし……」


 完全に無意識だった……。


「いや、でも風邪で寝込んでる女子の家に男一人で行くってのもどうかと……」


「なんなら俺もついてくぞ?」


「いや、男子が行くってのが問題の気がして……」


「そうか?俺が休んだときだってお前星宮も連れてきたじゃん。それとなのが違うのさ……」


「あれは俺が行こうとしてたときに星宮と会ってその時に星宮が付いてってもいいか?って聞いてきたから……。第一男女一対一じゃなかったろ?」


「いや、お前ら幼馴染みだし、お前なら変なことしないだろうし、紫乃の親もそこまで心配しないだろ……」


「だとしてもだよ……」


「謙虚だね……」


「まあ、後でメールくらいしとくわ」


「そうか……。とにかく早く仲直りはしろよ。お前ら喧嘩してからあのSNSのグループもまた会話殆どなくなっちゃったし」


「おう……。すまんな……」


 前にも一度、会話が少なくなったことはあった……。尚志が星宮に振られてしまった後だ……。

 でも尚志のお見舞いに俺と星宮で行ってからはあの二人もまた、それなりに話せるようになったからまた、グループでの会話もそれなりに増えたが、そこで俺と紫乃の問題が出てきてしまい、また少なくなってしまったという訳だ……。


「それより尚志。時間大丈夫か?もうすぐチャイム鳴るけど……」


 俺がそう言うと尚志は教室の時計に視線を向けた。


「あ!やべっ。とにかく翔、色々頑張れよ」


「おう……。お前もな。星宮のこと」


「それはお前もだろ。じゃ、後で」


 そして尚志は急いで自分の席に戻っていった。


 





       ***********






 放課後、また、いつもと同じように尚志と喋りながら帰っていた。


「本当にいいのか?行かなくても」

 

 尚志は再び朝と同じ事を聞いてきた。


「ああ。いいって。朝も言ったろ?それに今の状況で行ったとこでだしな……」


「そうか……。別にお前が良いならいいけどさ……」


「さっきも言ったけど、メールくらいは送っとくよ」


「そうか」


 まあ、それすら返信来るか分からんけどな……。

 そして、そんな会話をしているうちに家の近くまで来ていた。


「じゃあな、尚志。また!」


「おう」


 そして俺は道を左に曲がり尚志はそのまま、まっすぐ進んでいった。

 そして俺はスマホを取りだし、一人そのの画面を見ながら考えた。

 んー。なんて送るべきなんだ……。あの日以来会話はおろか、メールすらしてなかったからな……。

 そしてメールのアイコンをタップし、送信先を紫乃に設定した。

 まあ、とりあえずは……。風邪大丈夫か?とかでいいかな……。

 メールの内容でここまで悩んだのは初めてだ……。まあ、返信が来なくても最低見てくれれば……。

 そう思い、送信ボタンを押した。

 冬とも春とも言えないような、季節移ろいを感じる。そんな日に……。案の定、紫乃から返信が来ることはなかった。


 

 

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