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第27話【バレンタインは非リアのための】

 紫乃しのとすれ違い、数日が過ぎていた……。

 今日は、2月14日。そう、バレンタインである。

 結局のあの日以来、紫乃とは会話をしていない。教室では勿論のこと、廊下などで見かけてもお互い目をそらしてしまい、そのまま無言で気づかない振りをしてすれ違ったりと。そんな日々が続いていた。

 

 そうですか……。そっちには和解の意識はないってか……。そっちが謝ってこないならこっちだって……。

 授業中、そんな考えを巡らせ、ぼーっとしていると授業の終了を告げるチャイムが鳴り響き俺の考えを遮った。


「はい、じゃあ今日はここまでだから次回までにちゃん板書しとけよー」


 と日本史の授業をしていた男の先生が言った。若干小太りでカッターシャツの上から黒のカーディガンを羽織っている。お腹が少しズボンのベルトに乗っているのがカーディガン越しでも分かる。

 それだけ言うと先生は荷物をまとめ教室を出ていった。


 やべ……。途中から板書してねぇ……。

俺は急いで黒板を見ながら、ノートにシャーペンを走らせる。

 しまったな……。ボーッとしてないでちゃんと授業中に書いておくんだった……。

 俺が急いでノートに黒板の文字を写していると誰かがいきなり後ろから肩を組んできた。


しょう、やっと放課だなー。授業長かったー」


 反射的にそちらを見るとその人物の正体は尚志ひさしだった。


「おう尚志……」


 そういえば、休み時間のこと放課って言うのは愛知県だけだという事を、俺は中学に入ってからはじめて知った。あと、「じゃん、だら、りん」というのも最初は共通語だと思ってた……。うん、でも、振り返ってみれば、ドラマとかで「~だら」とか言ってるの聞いたこと無いな……。

 小さい頃から、周りの人も同じように、皆そういう言葉を使っていたのでそれが当たり前だと、そう思い込んでしまうのだ……。そして、他の地方からの転校生とかが来たりした時に初めて知る……。

 まぁ人間、自分の目の前に広がっている世界を全てだと思ってしまうのは当たり前の事で、知っているようで実はなにも知らないのだと。

 例えば、テレビなどを通しているので世界のことを知っていると思ってしまいがちだが、実際は、編集されたものを客観的に見ているにすぎない。それでは物事の本質は何も分からない。分かった気になっているだけ。

 だから、主観的に見れば実は全く別の世界が広がっているはず。

 だから俺も、きっと紫乃しのの事を昔から知っているからと、そう彼女の事を分かった気になっていただけなのかもしれない。紫乃の見ていたもの、感じていたものは俺には分からなくて、だからあの日、紫乃しのが何を思い、なぜいきなりあんなことを言ってきたのかも俺には分からない……。

 だからこそ、考えなければならないんだ。

 だからこそ、分からないからこそ人は、他人を理解しようと。そう思えるのだ。


紫乃しのとは、結局まだ仲直り出来てなのか……」


 尚志は俺を心配するような、優しい表情で言った。


「ああ……」


頬杖をつきながら俺はそう答えた。


「もうすぐバレンタインだから仲直りしろよって言ったのに……」


「いざ、廊下とかで会ってもなかなかかける言葉が出てこなくて、教室でもタイミングないし、家にいるときも電話とかも考えたけど、やっぱり直接話すべきだと思ったし……」


「それで、結局バレンタイン当日になっちゃった訳か……」


「別にバレンタインは関係ないけど、紫乃しのも、どうせ今年は用意してないだろ」


「どうかな……」


「だいたい、バレンタインなんてな、カップルがイチャコラ、イチャコラ……。だいたい、なんでこの間クリスマスだったのに、たった二ヶ月でまたリア充イベントがあるんだよ……。俺の豆腐メンタルをそんなに傷つけたいのかよ……」


「いや、それは知らんが……。てか、翔は、かなりメンタル強いだろ」


「まぁ、そうかもしれんな。こういう時は、心を強く持つことが大切だしな」


「どういうこと?」


「例えば、バレンタインっていうのは考え方を変えれば、非リアのためのイベントなんだよ」


「へ?バレンタインが?」


 尚志は少し前のめりになって聞いてきた。

 では聞かせてやろう。俺の素晴らしい持論をな……。


「バレンタインっていうのはな、チョコレート会社が普段モテてる男子にチョコをたくさん食わせて鼻血を吹かせるせるために作ってくれた非リアのためのイベントなんだよ。それを知らず、チョコを貰って喜んでいる男子が哀れであって、そして……」


 俺がそこまで言うと、尚志がそれを遮るようにして言った


「お前もう、ネガティブなのかポジティブなのか分からんな……。翔……今どんな気分だ……?」


 なんで、そんな可哀想な人を見る目で俺を見るんだよ……。

 そして、その瞬間、本音がでた。


「はー。悲しい……」


 本当に哀れなのはチョコをもらって喜んでいる男子じゃなくて、俺の方ですね……。


「てか、尚志は良いよな……。毎年結構チョコ貰えてて……。俺なんて紫乃の義理チョコ以外、貰ったこと無いぞ……」


「はは……」


 尚志はバツが悪そうに笑った。

 チクショー。モテる男子め……。

 はぁー。多少は仲良くなったし、星宮ほしみやから義理チョコ貰えないかな……。

 そんな俺の願いはきっと、泡と消えていくのだろう……。



 

 


 

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