第25話【諍いにより二人の距離は】
昨日の事を引きずって暗い声で尚志と話をしていると、
「翔今日どうした?元気ないけど」
と、尚志が気にかけてくれた。
「ああ、んー実は……」
少し迷ったが、俺は昨日の紫乃とのことを尚志に話して相談することにした。
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「ああー、なるほどな……」
尚志は腕を組み、考えるように言った。
「まあ……、それだけだ……」
「いや、それは殆どお前が悪いだろ……」
「それは分かってるけど、アイツにも非はあるだろ……」
「まあ、そうかもだけどさ」
尚志は腕を組むのをやめ、ため息混じりにそう言った。
「第一、始めに態度を変えたのは紫乃の方だ。あいつから謝ってくるべきだろ」
「それじゃぁ、いつまでたっても解決しないぞ」
「それならそれでいいさ、向こうに和解の意識がないのなら俺もそうするまで」
「……」
尚志が呆れたようにこちらを見ている。
「なんだよ……」
「いや、頑なだなと思ってさ。本当にこのままでいいと思ってるのか?」
「……」
即答できず、不意に尚志から視線をそらしてしまう。
本当にこのままでいいと心から願っていたら、きっとここまで気にしていないし、目をそらすこともなく即答できたはずで、第一、四六時中紫乃のことなんて気にしてないし、ここまで落ち込むことも無……
そこまで考えてふと気づく。
どうして俺は紫乃と諍いをしただけで、ここまで気にして、そして落ち込んでいるのだろう……。
紫乃とすれ違ってしまったところで、ここまで自分が落ち込むなんて思ってなかったしここまでモヤモヤするとも思っていなかった。
その理由が分からず、その違和感が心に引っ掛かった。
はー、何だよ。ただでさえここ最近、尚志や星宮、そして南の事があって色々思い詰めてたのに……。そうだ、ここ最近、色々思い詰めていた、だからそこにさらに紫乃の事が加わってそれでモヤモヤしているだけなんだ。そう自分の心に言い聞かせることにした。
それなのに、その違和感や心に引っ掛かっている何かが消えてくれることはなかった。
「おーい、翔。どーした?」
尚志に再び声をかけられて意識が会話に戻される。
「ああ……。わり、ボーっとしてて」
「ホント、そこまで落ち込んでんなら早く解決しろよ」
「あいつが、謝ってきたらな」
「ん……」
尚志が呆れた様に俺の方を見ている。
その直後尚志は教室の時計に目を移すと、
「あ!やべ、もう授業始まるな。翔、ちゃんと解決しろよ」
そう言って自分の席に戻っていった。
尚志が自分の席に戻って数秒後、授業開始のチャイムが教室に響き渡った。
それを合図に、仲良くおしゃべりをしていた女子や、グループでかたまって会話をしていた男子たちも一斉に各自の座席の戻った。
そして、すぐに先生が教室に入ってくる。スーツを着て眼鏡をかけている短髪の若い男の先生だ。
授業は英語。
「はい、では始めます」
と言う先生の声を合図にクラスの室長が始まりの号令をかけ、クラス全員が立ち上がり「お願いします」と挨拶をする。
全員が再び席につくと先生が話を始めた。
「今日は先日予告した通り二人ペアで会話のテストをするからな。ペアは俺がくじで決めるからなー」
テストか……。そういえば、なんかそんな様な事前言ってたなー。ちょっとプリント確認しとくか……。
俺がプリントを確認していると、遠くで先生が話している声が聞こえてくる。
「いいかー。正しい文法で、ハッキリと、相手の目をみて、の三つを意識してやれよー」
ああー。二人ペアか……。星宮とペアになれないかなー。こういうの漫画だのだったら絶対ペアのなれるパターンなんだけどなー。俺の今の心に少しでも癒しを!
「じゃあ、最初のペアは……」
最初はちょっと嫌だな……。まあそれはないか。さすがにこれだけ人数いるんだし。
「はい、守山とー……」
おっと、願い届かず……。まぁ、最初に終わるんだからそれはそれでいいか……。あとはペア……。
「ほい!守山のペアは……七瀬」
は!?マジかよ……。え……。ホントに!?最悪じゃん。なぜこういう時に限ってペアが紫乃なんだよ……。
星宮とペアに……とか呑気なこと考えてる場合じゃなかった。紫乃の方をみると紫乃も、うげ……。という表情をしている。
「はい、それじゃぁ、二人は廊下で会話テスト。他のやつらは教室で自習な。この二人が終わったら次のペア呼ぶからー」
と言って先生は廊下に出た。
まぁ、こうなっては仕方ない。いさぎよく諦めよう。そんで、ちゃちゃっと済ませちゃおう。
そして俺と紫乃は廊下に出て評価をつける先生の前に立った。
「はい、じゃぁ二人とも始めてー」
うわー。すげー気まずい……。どうしよう。
一秒一秒が長く感じられて、気まずさからお互いなかなか会話を始められない。
いや、いつまでもこうしていても仕方ないな。俺から会話を切りだそう。そうすれば後は流れでなんとかなるはず。多分。 きっと? だと……いいな……。
そして俺が、
「ハ、ハロー……」
と遠慮しがちに言うと紫乃は少しビクッと驚いたような反応をした後、
「あ。うん、ハロー……」
と紫乃の方も遠慮しがちに言った。うん、とかとっさに日本語出ちゃってるし……。最後の方なんて声が小さくなりすぎてるし……。
そういえば先生がさっき目を見て……。とか言ってたけど、これ絶対無理だろ。無理ゲーもいいとこだ。
お互い、気まずさから目を見て会話することができず、その後も自分の手元や床を見ながらの会話がずっと続いた……。
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そして数分後、地獄のような時間はやっと終わった。いや数分と言っても本当にたたが二~三分位くらいったんだろうが体感時間は三十分くらいだった。
よし、今日からこの教室前の廊下は“精神と時の廊下”と呼ぶことにしよう……。
「んー、二人とも文法はいいんだけど、声のボリュームと……特に目線がね……。ちゃんと相手を見るように意識してほしかったな……」
と、先生。
いや、だから無理ですよホントに……。そんなことを考えながら、「はぁ……気をつけます」と先生に言って俺たちは教室に戻った。ふと時計に目を移すと本当に三分くらいしかたっていない……。
やはり、あそこは精神と時の廊下だ……。




