第21話【風邪】
長かった1月が終わり2月に入った。
冬休みという長期休みがあって休み明けということもあり1月がすげー長く感じたが……。
そんなことを考えながら、その日俺は学校に向かっていた。
というか俺もそろそろ尚志を見習ってなにか行動を起こさないとな……。でもそもそも俺はチキンだからなかな……。まあ、いつもいつもこんな風に逃げてばっかだからダメなんだろうけど……。
「はー」
ため息をつくと口から漏れた白い息は一月の頃よりも少し薄くなっていて、段々と暖かくなってきているのだと感じる。それでもまだ少し肌寒い風が吹いていて、季節の移ろいはまだ少し先なのだと教えられる。
そんなことを考えふと腕時計に視線を移すと時刻は八時半を指していた。
今日は寝坊してせいで家を出る時間がいつもより遅くなっていたのだ。
「あっ。ちょっとマジーな……」
そして、そこから少し小走りに俺は学校へ向かった。
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学校に着いた時には途中からマジで間に合わないと思い本気ダッシュをしていたせいで、かなり息が上がっていた。
「はー……。なんとか間に合ったな……」
そう呟き教室に入ったのとチャイムが鳴ったのはほぼ同時だった。
あっぶねーマジでギリギリだったな~。って、ん???
ふと、尚志の方に視線を向けるとそこには誰も座っていない尚志の席があった。
あいつ、 いつも俺より来るの早いのに……。なんで……?あいつ寝坊か?いやでも尚志に限ってそれはないかな……。となると欠席なのか? 珍しいな……。
と思いボーっと突っ立っていると先生から声をかけられる。
「おい守山早く席つけ」
「はいー。すみませーん」
そして俺は急いで自分の席についた。
すると後ろから紫乃が声をかけてきた。
「翔ギリギリだったねー」
「ああ、本当にマジで危なかった……」
「遅刻ギリギリなんて珍しい……」
「ちょっと寝坊してな……」
そして、くあ~っとアクビをした俺を見て紫乃は不思議そうに聞いてきた。
「走ってきてるのにまだ眠気覚めてないの?」
「ああ、昨日の夜遅くまで今日提出の課題やってたからな……」
「ギリギリまで課題に手つけないからそうなるんだよ」
「なんか危機感がないとやる気がでないんだよ……」
「そうかな?」
「そうだよ」
「それで?無事終わったの?」
「ああ、なんとかな……」
「なんとかって……。途中で寝落ちしちゃってたら、課題も終わらず遅刻もするっていう最悪のシナリオが待ってるかもしれないのに……」
紫乃にそう言われて気づいた。そうじゃん……。俺は奇跡的にどっちも回避できたけど下手したら最悪の展開じゃん……。 徹夜の課題、恐るべし……。もうここまで来ると徹夜の課題って何かの陰謀……。
「ところでさ、今日尚志来てないよね」
そう言う紫乃の声で意識が会話に戻る。
「そうなんだよ……。俺もさっき気づいたんだけど……」
「風邪でも引いたのかな?」
「そうかもな」
「愛香ちゃんもさっき、ちょっと心配そうにしてたしな……」
「あっ……あ~、そなの……」
星宮が尚志をねー。まあそりゃ、あんなことがあった後なら少しは気にするか……。
「まあ、俺帰り尚志の家に様子見に行ってくるわ」
「そーなんだ!じゃあ、お大事にーって伝えといてね」
「あいよ」
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――放課後――
今の時期は部活も比較的早く終わるので部活が終わるとすぐに帰る準備をして学校を出た。
あいつインフルエンザとかじゃないといいけど。こんな学年末テストの前に一週間休むなんてことになったらちょっとヤバイしな……。
そんなことを考えて歩いて、ふと前を向くと星宮が歩いているのが見えた。
……こういうとだよ俺。俺も少しは行動をせねば……。
俺は星宮の方へ追い付いて話しかけた。
「星宮~」
「あ、守山くん」
俺の声に気づいた星宮が振り替える。
「どうしたの?守山くん」
「いや、尚志の家に様子を見に行こうと思ってたら見かけたから」
どうしよう。尚志のいない時に星宮に話しかけることに若干の罪悪感……。
「そうなんだ。守山くんと尚志くん仲良いしね……。その…突然なんだけど守山くんは知ってたんだよね……。その……この前のこととか……」
星宮は少し下を向いて言った。
この前のことってあの事だよな……。
「まあ……」
「私、今までこういうことなかったから、どうしていいか分からなくて……あの後も、ちゃんと話さなきゃって思ったけどなかなかで……」
「そっか……」
「紫乃ちゃんが心配してくれて相談したんだけどね」
紫乃も星宮の様子に気づいたのか。あいつにもいつも通りの光景に見えてるなんて思ってたけど、俺が思ってたよりも周りをしっかり見てるんだな。いや星宮と友達だからこそ些細な変かにも気づいたのか。
「あのさ、守山くん」
「なに?」
「私も尚志くんの家、付いていってもいいかな?」
「え?いや、いいけど……」
予想外の言葉に少し驚いてしまった……。
「ちょうどいい機会だし、私もちょっと心配だし……」
「そうか」
「うん……」
そして俺達は2人で尚志の家に向かった。
*********
尚志の家に到着し、インターホンを鳴らした。
すると少したってから反応があった。
「はい……?」
インターホンに出たのは尚志だったがその声には若干元気がなかった。
「俺だけど、尚志大丈夫か?」
「ああ。翔か……。ちょっと待っててくれ」
そうして数秒後、尚志が寝巻きを着た状態で玄関の扉を開けて出てきた。
「おう……。まあとりあえず……えええ???」
尚志は俺の後ろに立っている星宮に気づいた。
「だ……大丈夫?……」
「え??な……なんで??」
こいつかなりテンパってるな。まあ仕方ないか。
「まあ。色々あって一緒に来たんだよ」
「そ……そうか。まあとりあえず入って……」
そう言って尚志は俺達2人を家に入れ、自身の部屋に連れていった。
「空いてるところに座ってくれ」
「おう」
「うん」
………。数秒間沈黙が続く。
わー。苦手だなーこういう気まずい空気。まあしょうがないけどさ……。
「で……尚志、体調は大丈夫なの?」
沈黙が続くのに耐えられそうになかったので一番聞きたかったことを聞いた。
「ああ、とりあえずインフルじゃなかった。熱も今日一日寝てたからずいぶん下がったよ」
「紫乃もお大事にーって言ってたよ」
「そうか」
「もうたぶん明日からは学校行けるから心配かけて悪かったな」
「まあ、思ったより元気そうでよかったよ」
「ホントだよ。起き上がれないくらい体調悪かったらどうしようかと……」
星宮も心配げにそう言った。
「おう……悪かったな……2人とも心配かけて」
尚志は星宮に心配されて照れているのか顔をそらして言った。
星宮も尚志とちゃんと話したいって言ってたし俺がいない方が話しやすいかな……。
「じゃあ、俺先帰るよ」
そう言って荷物を持ち立ち上がると尚志と星宮が同時に 行かないで。という視線を向けてくる。
なんだよお前ら仲良しかよ。まあ、さすがにいきなり2人っきりで話すなんて方が無理か。分かったよ……。そして再び荷物を下ろした。
数分後。
俺達も、もう帰ることになり玄関先で尚志に見送られていた。
「今日はありがとな。翔、あと星宮も……」
「おうまた明日な」
「じゃあ、また明日」
そう言って尚志は玄関の扉を閉めた。
「じゃあ、帰るか」
「そうだね」
そう言って俺達は日の沈みかけた街の歩道を歩いていた。
「あいつ思ったより元気そうでよかったな」
「そうだね」
そうして歩いていると手前の曲がり角からこちら側に曲がってくる人がいて、ぶつかりそうになってしまった。
「あ……すみません」
俺がそう言うとその人も謝ってくれた。
「いえ……私も前見てなく……あれ?愛香?」
「へ?」
思わず変な反応をしてしまった……。
俺が前を向くとそこには、星宮とよく顔が似た大人びた雰囲気の女性がたっていた。




