表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実ラブコメはアニメのように甘くない  作者: 夜山なつめ
第3章 【それぞれの決断】
20/40

第19話【最善と正解】

 本当は自分で気づいていた。俺は尚志ひさし星宮ほしみやの為なんがじゃなくて、本当は自分自身のため、自分が傷つきたくないから。だから今日まで綺麗事の逃げ道をつくり、それを尚志や星宮のためと自分を正当化して逃げていた。それは自己欺瞞じこぎまんだと分かっていても。

 尚志は自分自身のことを抜け駆けして最低のやつだと言っていたが、俺は全くそうは思わなかった。

自分の恋愛のため、真っ直ぐに進むことが出来ていて、自分に嘘をつかず、現状を変えようとそこに向かって自分自身で進むことが出来ている。それのどこが最低なものか。むしろ正しい行動だと思う。

間違っているのは、むしろ俺の方で勇気がなく行動を起こそうともしなかった俺が悪いのだと。

だから本当に尚志はどこまでもいい奴だ。

 俺はそして、ずっと下を向いて神妙な顔をしている尚志に声をかけた。

 

「まぁ、その……元気出せよ。って言っても無理かもしれんが……」


「そうだな。割り切って次の恋愛にって前向きに考えることが出来たらどれだけ楽か……」 


 尚志は呟くような小さな声でそう答えた。


「星宮からは何て言われたの?」


「なんか、気持ちはすごく嬉しいけど、今は誰とも付き合う気がないから……ゴメン。って」


「星宮に好きな人がいるとかか?」


 俺も少しだけ気になっていた事を聞いてみた。


「いや、それも聞いてみたけど、そういう訳じゃないってさ……」


「そうか……。まぁ、言っても“今は”って言ってたんだろ? なら、まだチャンスあるよ」


 俺がそう言うと


「お前もな……」


 と少し笑って言った。


「お……おう……」


尚志に向けて投げ掛けた言葉がそのまま自分に帰ってきて一瞬戸惑っていると。


「なぁしょう、もうお前がやってたみたいに変に気を使うのはやめないか?」


「へ?」


「お互い気を使わず自分自身のペースでやっていこう。俺もまだ諦めてないしな!」


「そうだな。どうなっても恨みっこなしな……」


「おう」


 そして、尚志は俺に向けにグーにした手を差し出して来たので俺も拳を握って尚志に向けて、俺達は前を向いたまま軽くお互いの拳をコツっと拳とを合わせた。








     ***************








 次の日、教室にはいつも通りであっても、それがかえって、いつも通りではないような。そんな光景が広がっていた。

その光景は周りの人たちから見たらきっと、いつもと何ら変わらぬ何気ない光景なのだろう。

けれど、昨日のあの出来事を見ていた俺にそうは思えなかった。

尚志が他の人と笑顔で話している様子は無理にテンションを上げようとしている空元気からげんきに見えるし、星宮は時折、尚志の様子を気にしているし……。みなみも誰かと一緒にいる様子が空元気にしか見えなかった。

そんな様子を眺めていると紫乃しのが俺の肩にポンッと手をおいて話しかけてきた。


「どーしたの?」


「いや、ちょっと……」


 俺がそう言うと、紫乃は「あ、そう……」と言って顔をそらす。


 きっと紫乃にも、この光景がいつも通りに見えているのだろう。

けれど、昨日のあの出来事を見てた俺にとっては、翌日の光景が、尚志達の様子がいつも通りである様子が、それがかえって、どこか偽物のように見えてしまう……。 

無理にでもいつも通りでいようとしているように。











******************









――放課後――

 

 俺は、日直の仕事の日誌を書くために教室に残っていた。


「わるい、尚志。先部活行っててくれ」


「おう、了解~」


 俺が一人で日誌を書いていると、「しょうくんちょっといいかな……」と声をかけられた。 


反射的にそちらを振り返ると、そこには南が立っていた。


「おう……いいけど」


 なんの話なのかは大体想像がついた。だってあれがあった次の日だからな……。

南は俺の隣の席につくと、しばらくの間黙っていた。

教室には俺達二人の他誰もいなかった。

その沈黙が少し嫌で俺の方から話を切り出した。俺も南に言わなければいけないことがあるのだ。


「俺、一つ南に謝らなきゃいけないことがある……」


 俺から会話を切り出したことにビックリしたのか南は少し驚いた様な表情を浮かべて言った。


「え……。何?」



「俺さ、本当は知ってたんだ……。尚志が星宮のことが好きだって。なのにそれを黙ってて……。ごめん」


「あ……いいよ別に。そんなこと気にしなくても。私の方こそゴメンね。翔くん変に板挟みみたいになっちゃて大変だったよね……」


「ああ……別に……」


「私ね逆に、これで良かったと思ってるんだ……。尚志くんのあんな表情を見たら私じゃ敵わないんだなって伝わっちゃったけど、こういう形で終わらせられて変に気まずくならないで済むしさ……」


これで正解なのか? これが最善なのだろうか?

俺が最悪だと思っていた結果は南にとってはそうでもなくて。

むしろそれで良かったと言っている。

何が本当に最善で、何が本当は正解なのかが分からなくて、その時、最善を尽くそうとしても、後になって後悔ばかりで、それでも俺にとって最悪の結果を良しとする人もいるのだと。

なら、俺の今までの後悔ばかりだった結果も、誰かにとっては良かったと思えたことがあるのだろうか?

逆に俺にとって良かったと思えていた結果が誰かにとって最悪の結果だったことも……。

 何が正解なのか分からない状態で行動していかなければならないのは難しいことで、だからこそ後悔も生まれるのだ。

なら、本当の正解はあるのだろうか……? 

誰しもが良かったと思えるそんな結末は……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ