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現実ラブコメはアニメのように甘くない  作者: 夜山なつめ
第3章 【それぞれの決断】
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第17話【取り繕った言葉よりも】

――休み時間――

その日、尚志ひさしみなみは別段、普段と変わった様子はなく、いつも通り一日を過ごしている。

 二人とも、「放課後待っていてほしい」とお互いを呼び止めることはなかった。

 きっと、二人とも同じことを考えているのかもしれない。

ここで相手にそう言ってしまえば、多少なりとも、放課後に何の話をされるか察する事ができてしまう。

そうすれば、その時の相手の表情なんかでも答えが出てしまうかもしれないし、場合によっては呼び出しても来てもらえないかもしれない。その場合告白しなくても結果が分かってしまって、告白する前に終わってしまう。

だからきっと、それを避けているのだろう。 例え断られても自分の気持ち話伝えたいと。

 だから二人とも帰り際に呼び止めるつもりなんだろう。 


 俺は窓から外を見ながら隣に立っている尚志に話しかけた。


「緊張とかしてないわけ?」


「そりゃ、緊張くらいするさ。てかスゲー緊張してるよ」


 尚志は窓からどこか遠くを見て、少し微笑みながら答えた。


「お前のことだから、あんまし緊張とかしないで落ち着いてるのかと思ったよ」


「告白するってのに緊張しないわけないだろ~」


「まぁ……。そうだな」


「今日は何か1分1分がスゲー長く感じるんだよ……。 でも今さら何かしたとこでもう結果は変わらんしな。後は放課後まで待つだけって自分に言い聞かせて、落ち着こうとしてるだけだよ」


 いつになく真剣な表情で尚志はそう言った。

尚志はずっと、大人びた目で遠くの景色を見つめていた。




 南もきっと尚志と同じだけの決心を抱いているはずである。

けれど……。

 まぁこれも、俺が考えてもどうこう出来る問題では無いのだが、それを考えずにはいられなかった。

星宮ほしみやが尚志に対してどういう答えを出すかは分からないが、南がこれだけの覚悟のある尚志を動かすのは難しいかもしれない。尚志が告白する前ならなおさらだ。

じゃあ、仮に尚志が告白して振られてしまったとして、その後だとしたら……。

 いや……最低だな俺。仮にも親友が振られたら、なんて考えるなんて……。

 そんな考えても意味のないことを俺は授業中、延々と考えていた。











          ******












――放課後――



 

 星宮は、委員会か何かの仕事で職員室に呼ばれていたため教室にはいなかった。


「尚志、どうする?このまま教室で待つか?」


「いや、このままここで、じっと待ってても無駄に緊張するしさ、ちょっと校舎内歩きに行かないか?」


 休み時間に話してたときよりも緊張した様子の尚志がそう言った。


「ああ。いいよ。行くか」


 教室には南の姿もなかったので、尚志と同じことを考えて少しでも緊張を和らげようと校内を歩いているのかも知れない。


 南と星宮は部活には所属していなかったし、俺達は今日は部活が休みだ。

この時間帯、帰宅していたり部活に行っていたりと校舎内に残っている生徒は少ないので普段は全く聞こえない自分達の足音なんかも響いて聞こえる。 

そんな校舎内を俺達2人は適当に歩き回っていた。

 こういう時何と声をかけるのが正解なのだろうか?

南から相談されたことを優先させるべきと考えてきた。だからって目の前にいる尚志に応援の言葉を掛けないなんて事は俺には出来なかった。その考えが正しいのか正しくないのかは分からないが。

 今まで暁斗あきとの恋愛相談くらいしか聞いたことなかったが、あいつは高校が違うので直接 暁斗の恋愛にか関わった事も無かった、こういう時、経験とコミュ力のすごくある人は羨ましい。

きっと、その状況に合った言葉を瞬時に見つけ出して、少しは安心させられることなんかも出来たのかもしれない。

 それに、南のことも重なった状態で複雑な心境だった俺には凡庸な言葉しか思い浮かばなかった。


「頑張ってな。」


「おう……サンキュ。」


 尚志の表情と声には決心の意がこもっているように思えた。

 それ以上何か応援の言葉は思い浮かばなかったが、むしろ’’頑張って’’の一言で十分だったのかもしれないと思えた。 色々な言葉を使って取り繕った言葉よりも、なによりシンプルで何よりストレートなその言葉の方が、俺と尚志の関係性では十分すぎるほど相手に伝わる言葉なのだと。

 



 それからも少し歩いていると尚志も少しは落ち着いたようだった。

そして曲がり角のT字の通路に差し掛かった時、その曲がり角を曲がった少し先に星宮が歩いているのが見えた。先生からの用件は済んだのだろう。

俺達がいる方とは逆方向に向かい歩いている。きっと教室に戻る最中なのだろう。

 すると尚志は呟くような声で


「わるい、しょう行ってくる」


 とだけ言って、俺が何か言葉を返す前に小走りで星宮の方へ走っていった。

いざとなっても「やっぱり無理だ」とかおじけつくことなく、むしろ自分から走っていく。

そんな尚志の様な行動力は自分にはなくて、自分にも欲しくて本当に凄いと思った。


「星宮~。ちょっと今いいかー?」


 そう声にしながら尚志は星宮に追い付いた。


「いいけど、何?尚志くん」


そう言って星宮が尚志の方へ振り返る。


「俺さ……」


 尚志がそう口にしたとき廊下には窓からの夕日が差し込んできていて、廊下は橙色だいだいいろに染まっていた。それと同時に床にはいくつもの窓の影が出来ている。そこは昼間とは別の空間のように感じれた。


 そして、その尚志たちの立っている通路の少し奥には……。

 

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