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第8話:夢の中へ

次の話しの前置きみたいなものですので、読み流して頂いて構いません。

では、どうぞ…

 翼と別れた後、俺は姉さんの病室の前で立ち尽くしていた。

姉さんの病室から誰かのすすり泣く声が聞こえたからだ。


扉を少し開け覗き見る。

別に邪魔をするつもりは無かった。

ただ、時間が掛るようなら夜にでも、こっそりと入ろうと思っていた。

一体どれくらい掛るだろう? とそう思ったんだ。




 しかし、中の人を見てその考えも霧散する。

その人が看護士で、さらに何所かで見た気がした。

だからそっちに意識を持っていかれたんだ。


(…………何処で見たんだ?)


 どれ程記憶の海を彷徨っただろう。

その人とばっちり目が合ってしまった。

涙に濡れた頬が哀愁を感じさせる。


そうして、甦る頬の痛みと心の痛み。

あの医師から説明を受けた後に俺を(なじ)った看護士だった。


その看護士は頬を拭いもせずに俺に言う。

「入るなら入る、出て行くのならさっさと出て行きなさいよ」

 キツイ眼差しから放たれるのは、やはりキツイ言葉。

察しの悪い人でも、彼女が俺を追い出したいのが解かる。


しかし、俺は中に入り後ろ手に扉を閉めた。

閉めると同時に彼女の眉間にあからさまに皴が寄る。


「ここに、何の用よ。……死にたいのなら一人で勝手に死んで、鏡花さんを巻き込まないでよ」

 そんな痛烈な言葉を聞きながら俺は鏡花さんのベットの脇に、看護士の前に立つ。

姉さんを俺から守るように座っている看護士に……いや、俺がそう感じるだけかもしれないが一言、声を掛ける。


「……どいてくれ、一つ試してみたい事がある」

 今思い出せばその言い方は無かったと反省している。

しかし、緊張と不安で一杯だった俺に彼女からのプレッシャーまで加わり正常な判断を下せなかった……そう思いたい。


当然こんな言い方をされてどく奴なんているわけがない。

「〜〜〜ッ!!! バカにしないで!!! 医者でもないあんたに何が出来るっていうの! 遊びたいなら他所で遊びなさいよ!!!」


 この怒鳴り声で人が来なかったのは奇跡か偶然か、とにかく人は来なかった。

「………………」

 俺は暫く言葉を捜したが語彙(ごい)の少なさに返す言葉も浮ばない。

それに言葉にするより行動した方が解かって貰える……はずだ。




「もう一度、姉さんと歩みたい。それだけなんだ。」

 彼女の目には怒りに呆れが混じった。

「歩みたい? ……冗談! 意味分かんない! 勝手に一人で歩きなさいよ! あんたは鏡花さんを一度見捨てたんだ! 一体あんたの何処を……」

「信じなくていい。」



 彼女の言葉を被せるように俺は言う。

「あなたはここで俺を見張っていてくれて構わない。俺が何かしたら、どうしてくれても構わない。」

 彼女は一旦表面上だけでも怒りを静めると、俺の話を聞く体勢に入ってくれた。


「俺のことの何一つ信じてくれなくて良い。……だから、姉さんの…………姉さんを信じていて欲しい」

 俺の事なんて、どう思ってもいいから。

姉さんの意識が戻る事を信じて、姉さんと彼女自身の絆を信じて、

姉さん自身の強さを、心の持ちようを、そして何より姉さんの笑顔を信じて欲しかった。

その気持ちと共に俺は深く、深く頭を下げた。


「……そんな事、あんたに言われるまでも無いわ」


……やはり、ダメだった……か?

それでも俺は頭を下げ続ける事しか出来ない。

俺には彼女を説得出来る言葉も、知識も、持ってなどいない。




と、そんな俺にイラだった彼女の声が聞こえる。

「……何してるのよ! やるのならさっさとしなさいよ!」

 顔を上げると先程の言葉が嘘のように険しい表情をした彼女がいた。


しかし、それが嘘で無い証拠に彼女は、俺の為に今まで自分が座っていた席を空けていた。

「…………ありがとう」

 そう俺は彼女に御礼を言った。


すると彼女はさも不快そうに言う。

「勘違いしないで、あんたの言葉を信じた訳じゃない。あんたの後ろで、あんたが何かしたら直ぐに息を止めてやるわ。……安心なさいな、あんたなんか殺してもあげない……良かったわね? ここが病院で」


 俺はこの時、姉さんが確実に目覚める保障もないので、彼女の『殺してもあげない』と言うその言葉にむしろ、

(死なないのなら、次の方法を試してあげられるかなぁ)

 とまで思っていた。




 だからこの時俺は、彼女に振り返って微笑む。

そうしてもう一度言った。

「ありがとう……」




 まぁ、彼女が混乱するのも無理ない事だと思う。

なにせ脅しを掛けたつもりの相手に何故かお礼を言われたのだから。



「な、なな!! なに言って…………バ、バッカじゃないの!? 頭おかしいんじゃない!?」

 顔を真赤にして言う彼女の言葉を俺は素直に受け止めた。


確かに馬鹿だった。もっと早くに姉さんをどうにか出来たはずなのに。

そんな事すら考えなかった俺の頭はきっと彼女が言うようにおかしいのかもしれない。


いつまでもこんな事を気にしていたら時間がない、という事に気付いた。

これ以上彼女を怒らせない為にも、今は集中しよう。

俺は意識をいつもの準備運動のように集中させながら翼の言葉を思い出す。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


<要するにね。由愛ちゃんの魔力を見る力の応用なんだ。>

<見る力? の応用?>

<そう。由愛ちゃんは鏡花さんと暮らして来たよね? その数年で鏡花さんの魔力の流れがどんなものか、いつも見ていたなら解かるよね?>


<それは……まぁ。>

<なら『由愛ちゃんが鏡花さんの止まっている魔力を循環』させてやれば良いんだよ。>

<『循環』? それは一体どうやれば良い?>


<ん〜と、ね。…………簡単に言うと、由愛ちゃんが良く準備体操みたいに魔力を体に行き来させてるじゃない。あれを広げる感じ。>

<ん? ……えっと、つまり?>


<だから、由愛ちゃんがしているのを鏡花さんにもすればいいんだよ。>

<……つまり遠隔操作みたいな形で鏡花さんのエネル……魔力を回せって事か?>

<うん。そう>


<……魔術、みたいなもん、か>

<…………そこまで行くと半分『魔法』の域だけどね>

 小声で言われたその部分だけは聞き取れなかった。


<うん? なんか言ったか?>

<ううん。何でも。それより気をつけて。由愛ちゃんの魔力を鏡花さんに伝えて、鏡花さんの魔力を由愛ちゃんに伝える事には一つ問題があるんだ>


<問題って何だ>

<そう。一時的にではあるけど同じ魔力が流れる訳でしょ?それを世界が誤認して二つの精神を結びつけてしまうんだ>

<……はっ? …………世界? ……誤認?>


<あぁうん。……ゴメン忘れて……。簡単に言うとね。由愛ちゃんが鏡花さんの『夢』に入り込んでしまう可能性が…………ううん、まず間違いなく入り込むから>

<夢に入り込む? と、どうなるってんだ?>


<う〜、と。……そうだね。もし、夢の中で鏡花さんを連れて返れないと大変な事になる。ってだけ覚えといてよ>

<……果てし無く、不安な言葉なんだが……>

<あはははっ。確かにね! でも、そうなったら僕が何とかしてあげるから心配しないで良いよ!>


<……不安の大きい事で>

<そこは信じてもらうしかないね。……他に何か質問とかある?>

<…………一つだけ、いいか?>

<うん。どうぞ?>


気懸かりがあった。

翼が何故、ここまで俺に加担してくれるのか。

何故、『医師も知らない知識を持っているのか』

何故、『俺の練習風景を知っているのか』




迷った末に俺はこう答えた。


<……いや、なんでもない。無事を祈っててくれ>

<……御安い御用で、ご主人様>

 本当は聞いた方が良かったのかもしれないけど。

少し気取ったポーズを取る翼を見て

これで良かった。

とそう思ったんだ。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


意識があらぬ方向へ向かいそうになったのを軌道修正し姉さんへと意識を向ける。

そして、俺の意識は闇へと引き摺り込まれて行った。


お読み下さりまして有難う御座います。


更新が大分と遅くなって来てすみません。

コツコツとやっていきます。

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