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第3話:学校での一日

すみません。

魔術設定のせいで内容に辿り着くまでに時間が掛るので殆ど削除しました。



「姉さん。起きて、姉さん!」

 朝の日差しの差し込む部屋に俺の声が響く。

今ベットでだらしなく着崩れた服を体に巻きつけ布団を抱っこして寝ているのは安藤(あんどう) 鏡花(きょうか)その人だ。


人間、慣れとは恐ろしいものだと思う。

初めの頃はドキドキしたこの光景も今となってはただの日常、ちっとも起きない鏡花さんこと姉さんに毎日、頭を悩ませる日々だ。


実際には姉じゃないんだけど。

以前、寝ぼけて姉さんと呼んだ事がツボに入ったらしく。それ以来この呼び方が定着した。

それにしても俺が来るまで一体どうやって起きていたのか不思議なぐらい起きない。


本人曰く。

「時間が来れば勝手に体が起きるのよ」

 とのことらしいのだが、その言葉を信じて一度放っていたら、見事としか言いようのないくらいに仕事に遅刻してくれた。

本人曰く。

「たまたま、今日は起きれなかっただけよ」

 と言っていたが、姉さんの同僚の人に聞いたところ

「それは嘘だな。彼女がまともに遅刻せずに来る方が珍しかった」

 との事。……よくクビにならなかったよな姉さんも。


いつもは根気良く呼びかけたりして起こすんだけど、今日はそうも言ってられない。

手っ取り早く魔術を使って無理矢理に姉さんの頭を覚醒状態に持っていく。

もそもそとゾンビのごとく起き上がる姉さん。


「……ちょと。これ本当に気持ち悪くなるんだから止めてって何度も言ってるのに……」

 姉さんの恨みがましい目もいつものこと。

「なら、自分で起きることだね。俺を頼りにするならこれぐらい我慢我慢」


 俺の使う魔術はこの世界の魔術と微妙に違う。

何処が違うとか言われると説明が長くなる。

簡単に言うと、この世界の魔術は自分の体の中に生成される分を使って魔術を使用する。

一方で、俺の使う魔術は体の外、つまり空気中にある物を使って魔術の使用が出来ること。


 二日酔いの人みたいに頭を押さえて呻いていた姉さんが、弱々しく微笑み俺に挨拶してきた。

「……おはよぅ。由愛(ゆめ)ちゃ……んぅう頭イタイ」

「おはよう。姉さん、気持ちのいい朝だ。下に飯作ってあるから、ちゃんと食えよ」

「……ありがと。……でも由愛ちゃん。『食う』じゃなくて『食べる』……分かった?」

「へぃへぃ。んじゃ、先に行くから。……行ってきますっと」

「……いって、ら……ひゃぃ」

 背後に姉さんの欠伸混じりの挨拶を受けて、俺は家を出た。


 4年前に姉さんに拾われた時に

「名前を覚えてない」

 といったら一日部屋に篭り、次の日に『ゆめ』と名前を付けてくれたんだけど……。


 夢みたいな場所にいるから夢で、まぁ安直でも良いんじゃないかと思った。

姉さんが一生懸命に考えてくれた名前だし……。

もっとも、姉さんは夢見がちから付けたって言ってたけど。


 しかし、実際に初めて名前を書くことになった時は驚いた。

てっきり、『夢』だと思ってたんだけど、実際に漢字にすると『由愛』だったのだ。

当然、俺は抗議した。だってそうだろ、夢でも十分に可愛らしい感じの漢字なのに由愛だなんて……。


もちろん姉さんが俺の意見に取り合ってくれるわけもなかったが。

「『夢』でも『由愛』でもどっちでもいいじゃない。両方可愛いんだし」

「変わるっての鏡花さん。漢字見た時の印象が全然違うだろ!」

「そっかなぁ。……後、鏡花さん禁止。興奮するとすぐ戻るんだから。ほら、さん、はい。お・ね・え・ちゃ・ん。……Repeat after me?」

「言わねえよ!」


 なんて感じでグダグダの内に決まってしまった。

もっともこの時点で役所に俺の名前として安藤(あんどう) 由愛(ゆめ)と既に記入されていた事は後から知った。




「おはよう、由愛ちゃん」

 ボーっと歩いているとそう言って呼び止められて、俺は背後を振り返る。

「……あぁ、おはよ」

 返事を返すと足早に学校に向かう。


「相変わらず無愛想だね」

 クスクス笑う声なんて聞こえない、聞こえない。

そうそう、俺はまた学校に通うことになった。姉さんのお金で通っていて、そのことを少しばかり心苦しく思っている。まぁそのお陰で、スカートなんてもんを身に着けないといけないわけだが。流石に3年も穿いていると慣れてくる。もっとも、穿く瞬間は未だに変態になった気分だけどな。


「昨日、家の犬がさ大暴れして大変だったんだよ」

 学校って言っても普通の学校じゃない。なんと、魔術を教えているのだ。っと言っても魔術だけを教えているわけじゃなくて、一般科目なんかもある。

言ってみれば理系か文系かぐらいの違いで、その中に魔術系が加わった感じだ。


「……でさぁ………………これがまた」

 俺の場合一般科目のみは一度やった事があったので比較的楽に授業について行ける。……歴史以外は、という条件で。

歴史においては大分と変わってしまっていて、自分の世界の歴史とごちゃ混ぜになる事が偶にある。それでも、勉強する事柄が歴史と魔術の授業だけで済むってのは他の人達より有利だ。


「……………………」

 当然俺には、その分の時間が空く事になる。

俺は魔術を鏡花さんに教えて貰う為やその他の勉強をする為に、その空いた時間を当てている。

何の勉強かと言えば元に戻った時に、必要になるものだ。


「………………」

 基本的に俺ぐらいの年になるともう皆働いているだろう。留年とかしてない限りはだけど。だからと言って就職するために技術を身に付けようにも、こっちの世界と元の世界じゃ技術力が違い過ぎて話しにならない。過去の産物に触れるという点では良いかもしれないけど。


「…………」

 だから、俺は技術面を高めるのでなく。職場の雰囲気や流れを覚える為に会社を体験的に受けようとした。しかし、俺のような学生を受け入れてくれる所なんて数が少ない。

結局俺は姉さんの居る魔術組合にお世話になっているわけだ。これなら俺が問題を起こした時、……いや、姉さんが問題を起こした時に俺が駆け付け易い。


んで、この魔術協会ってのが…………




「ああ! もう! 服を引っ張るな! 伸びちまうだろうが!」

 今の俺よりまだ身長が小さい男が、学校指定のブレザーを身に(まと)い涙目で見上げてくる。顔は女顔の童顔でこいつが14歳だなんて信じられない。思わずまだ小学校だろっと言いたくなる。


 名前が(ひいらぎ)  (つばさ)という、これまた男か女か判断がつきにくい名前だ。いろんな意味でインパクトが大きく学校内でファンクラブなるものが出現してしまっている。


しかも、そいつが

「……無視は……イジメの一種だと、僕は思います……」

 なんて潤んだ瞳で言って来る。変声期をまだ迎えていない中性的な声が耳をくすぐる。

だが残念ながら俺はこんななりでも一応男だ。

姉さんやこいつのファンクラブの連中ならいざ知らず、

まともな男の心を持った俺には野郎の潤んだ目を見ても気持ち悪いだけだ。




……まぁ、少しぐっと来る部分がないわけじゃないこともないわけじゃ……。

って違う違う。危うくこいつの魔眼にやられる所だった。

……いや、実際に魔眼があるわけじゃないんだけど。

でも、そう思わないとやってられない。

「あんまりくっ付くな。またお前のファンクラブになんかされたら堪らないからな」


 以前、こいつのおかげで嫌な目にあった。

といってもファンクラブの一部の連中が靴の中に画鋲を入れたとか、そんな系統のチンケなもんだ。


靴を隠されたりとか、消しゴムが無くなってたりとか、

「あっ、あのこれ。調理実習で作ってみたんです!」

 みたいな期待させるような事を言って、致死的に変なもん食わされて3日ほど腹を壊したとか。そんなくらい。

その時は、なんで女ってこんなことすんだろうな。とあまり気にしなかったわけだが。


ある日偶然に俺の靴に画鋲を入れている現場を目撃してしまった訳だ。

見てしまったからには注意でもしようかと近づいて驚いた。

息を切らして一生懸命に俺の靴に仕込みをしていたのは、男だったのである。


しかも、そいつは仕込み終えると辺りを見渡しツツーッと俺の靴に涎を……

「って待てぇ〜〜〜い」

 慌てて飛び出して、両足に無意識的に魔術を発動。

思わずそいつを蹴り飛ばし、防火扉に勢い良くぶつけてしまった。


当然、皆駆け付けてきて先生達に事情を聞かれるんだけど、駆け付けてくれた人達はいい人ばかりで、皆口を揃えて

「あの変態が安藤さんに襲い掛かってました」

 と言ってくれたわけだ。


いや、この学校はいい人達が多くて助かる。

「……ってだから、服を引っ張るなっての!」

「あのね。由愛ちゃんが忘れてるようだから、また言うけど…確かに僕にもファンクラブがあるって聞いた事があるよ。でもさ、その話って明らかに由愛ちゃんのファンクラブの人達だよ」


「……またまた、面白いこと言うな翼。俺みたいな男か女か分からないような奴にそんなもんが出来る訳がないだろ?」

 まったく、面白いことを言う奴だ。

「いや、そこが良いって人もいるって考えはないの由愛ちゃん……。それに、ほら。由愛ちゃんが転入して来た時、僕を助けてくれた事があったよね。あれからだよ、何か皆のヒーロー的扱いになったのって」


「……いや、でも人の噂も七十五日と言いまして」

 呆れたという風に肩を竦めた翼が駄目押ししてくる。

「七十五日も待たない内に爆弾発言をしたのは誰だっけ。確か……

『だぁ〜もう。うるせぇ! 俺が野郎なんか好きなるはずねぇだろうが!』

だったっけ?」


 多分、俺の声色を使っているつもりだろう。握り締めた拳が微妙に震えている。

「だってあれは、お前と出来てるだなんて、しつこく聞いて来たからかなりムカついて。まぁ でも、お陰で暫くの間静かだったけどな」

「……水面下の出来事を知らないから、そんな事が言えるんだね。知ってる? 白鳥って見えない所で頑張ってるって事を」

 知ってるけど、何の関係があるってんだ。


「しかも、由愛ちゃん。それまで無口でもボーイッシュな女の子っぽい言葉を使ってたのに、あれ以降、開き直って堂々と今みたいな完全に男の子の口調になったでしょ。あれも原因の一つだよ。」

「……だってよ。それは乱暴な言葉遣いが沈静化に効いたと思ったからで……」

 普通そう思うよな?


 それに姉さんだって『由愛ちゃんは由愛ちゃんでいいじゃない。無理に言葉を変える必要なんてないから』って言うもんだから。

 まぁ、粗野な言葉は許してくれないんだけど。

『それとこれとは話が違います』

 らしい。これも個性のような気がするんだけど。って言ったら、

『それは個性でもなんでもなくて、人としての最低限の礼儀欠く事なの』

 だって、言葉は立派なんだけど……姉さん自体の言葉が乱れてるせいで説得力はほとんど皆無だ。


「それに、だいたいなんで僕のファンクラブの人が、由愛ちゃんにちょっかいをかけるのさ」

「それは翼と仲良く……一見(いっけん)、仲良く見えるからじゃないか?」

「……一見って。それは酷いよ由愛ちゃん」

 シュンって感じの擬音語が聞こえそうなぐらい落ち込んで見せる翼に俺は慌てる。


「あぁ、いや別に本当は仲が悪いとかじゃなくて、その……なんだ。仲が良いんだけど、そんなに仲が良いってほどでもなくて、でも仲が悪いってほどでもなくて、その辺の奴よりも仲が良いというか。いやでも、お前の事が好きって訳でもなくて、いやいやそうじゃなくて、……そう友達として、友達として友情を感じてるんだよ」


 っとそこまで一気に(まく)し立てて、ようやく翼が笑っていることに気付く。

からかわれた事に怒るよりも気が抜けた。

性質が悪い、だから俺はコイツが苦手なんだよ。


「ゴメンゴメン。そう()ねないでよ由愛ちゃん。何度も言うけどさ、その人って『病院送りになった』のに、由愛ちゃんには何のお咎めもないってどういう事か考えたらすぐ分かるよ」

 それが分からないから、こうやって話題に上るんだろうに……。

それに向こうが完全に悪いのに、なんで俺がお咎めを受けるんだよ。その方がおかしくないか?


由愛が必死に考えてる間に翼は思う。

(なんで、由愛ちゃんってこんなに可愛いんだろうね。

僕の事を仲良しだって言い直した時だって、頬を染めてたし、

パニックになった時はチョコチョコと手や足を動かすし、

考える時なんか眉間をちょっと寄せて微妙に口が尖がってるし、

でもこんなこと、本人は気付いてないんだろうなぁ)


 由愛の横でニコニコした顔の翼が見えない黒いオーラを放つ。

(あぁ、これだから由愛ちゃん弄りは止められないよね)

 普段、積極的に動くことのない翼だが、由愛をからかう時だけの行動力は凄まじい。


そんなSっ気丸出しの内面を微妙に外に漏らしつつ、表面上穏やかに二人は登校して行った。

まず、お読み下さった方有難う御座います。

次に、絶望・グロ系を楽しみにして下さった方々へ。

もう少し先になります。

日常を入れた訳はそのほうが落ちた時にどのぐらい絶望を感じたのか?というバロメータになるのでは? っと言う考えの下に入れました。

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