第1話:出会い
いきなり主人公は、5年後の姿で過去を振り返る形でのスタート。
前回の話の後で平行世界に飛ばされた後の話となります。
少し読みにくいかもしれませんがお付き合い下さい。
では、どうぞ。
懐かしい夢だ。
俺がこの体になって約5年の歳月が経っている。
目を閉じて今までを振り返った。
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どうもあの時、この体の持ち主(仮に彼女とする)と俺の精神が結び付いてしまったらしい。
しかもこのままだと、精神同士が融合してしまうという。
だからその直ぐ後に彼女が来た、平行世界? の扉の前で分離・帰還しようとしたらしいんだが、どういう訳か彼女の体と俺の精神だけが何処か違う場所に飛ばされた。
飛ばされる瞬間、俺は確かに彼女がこう言ったのを聞いたんだ。
3日ぐらいで何とかするからと……。
俺は3日ぐらいならまぁ……いいか。
ぐらいの気持ちで3日間遊んだ。
俺が飛ばされた世界は俺の世界に似ているが違う世界だった。
簡単に言うと魔術と科学が同時発展したみたいな世界、ただ文明自体は全体的にかなり遅れているように思う。見たことがある物や無い物の比較が面白かった。
彼女のズボンのポケットに入っていたお金は、この世界で通じたので有難く使わせて頂いた。
ただ一つ困ったことは体が縮んでいることだった。向こうでは、ほとんど俺と目線の位置が変わらなかったから大体170ぐらいはあったはずなのに、今は明らかに小さい。しかし、そんなことも深くは考えず、彼女が迎えに来たときにでも分かるだろうと高をくくっていた。
5日が過ぎても何の連絡もないことに戸惑ったが、なんか理由があるのだろうと思っていた。
しかし、1週間経っても連絡も無く。挙句、でお金が尽きてしまった。
しょうがないので働き口を探すことになったのだが、そこで問題が起こった。
住所がないとか体が小さいとかそんなもんじゃなくて、もっと重要なこと。
自分の名前が解らないことだった……。それはこの体の彼女の名前が分からないとかじゃなくて、元々の俺自身の名前が解らない。何度も必死に思い出そうとしたが、全く覚えていなかった。
それ以外のことなら些細なとこでも思い出せたのに名前だけが思い出せない。
いや、もしかしたらこの名前以外にも忘れているのに『思い出せない』ことが
『分からない』ものもあるのかもしれないが……。
自分の想像に悪寒が走るが気づかない振りをして職を探した。
もちろん住所不定、年齢不明、名前無名で、おまけに子供の体(大体、10歳ぐらいに見えた)では何処も雇ってくれない。
足を棒にして探して、3日後には諦めた。
お腹が空いてしょうがなかった。
途中で何件かに食べ物を頂いたが、そう何回も貰える物じゃないし、それで空腹を満たせる訳じゃなかった。
2週間目、俺は空腹に勝てなかった。
店の外に並べてある客引き用のパンを両の手で抱えて逃げた。
後ろから怒鳴り声と足音が聞こえたが振り返らずに走る。
足音が聞こえなくなっても走り続けて、
顔に衝撃が走っと時ようやく自分が倒れたことに気づいた。
足はガクガクと震えてまともに息が出来なかった。
幸いにも周囲に誰もいなかったので、壁に寄り掛かり息を整えて腕の中のパンを食べる事にする。
口を開けた時に痛みを感じた。
多分転んだ時にでも口の中が切れていたんだろう。
でもそれで空腹に歯止めがかかる訳じゃない。
悔しさと情けなさで涙が出てくる。
カチカチのパンは酷く苦かった。
そこからはギリギリの生活だった。
お腹が空いては何度も場所を変えて食べ物を取ってお腹を満たした。
時に捕まり、殴られ、同情され、悟されたし警官みたいな人(後に、自衛民というボランティアの警察みたいなものと分かった)にも捕まった。
それでも止められなかった。だって生きるにはそれしかなかったから。
そんな生活をしていると、必然的に同じような人間の集まる場所にたどり着く。
まぁただのスラム街だが……。
5ヶ月か半年か。こっちの世界に来て、たったのそれだけの日数でここまで落ちぶれた。
この頃には、少し人間不信になっていた俺は、このスラム街の無関心さがここは居心地が良かった。
でもそんな生活も長くは続かない。
さらに半年が過ぎた頃だったか、俺は盗みをした帰りに誰かに頭を殴られて気を失った。
ズキズキと痛む頭を押さえて起き上がると、前にこの世界で2度ほど入ったような牢屋じゃなかった。
時々揺れることから何らかの乗り物、多分車それもトラックのよな物に乗っていることが分かる。
周りは子供だらけだった。スラム街にいるような子供ではなく、普通の子供に見えた。
寝ている子もいれば、二人で抱き合い震えている子達や隅で膝を抱えて嗚咽を漏らしている子もいる。
何となく、理解した。このままココにいても殺されるか売られる事になるということが。
ただ、ほっとした。こっちに来て約1年、何もいい事なんてなかった。
長い長い悪夢はようやく終わるんだと安堵した。
幾度となく自殺をしようとしたが、その度色々な理由を自分につけて耐えてきた。いや、死ぬのが怖かっただけかもしれない。
この体は俺のじゃないんだ、とか明日にはこの夢が終わるんじゃないか、とか死ぬ瞬間に彼女が来るかも知れないとか色々理由をつけてきたけど、もう我慢しなくてもいい。
そう思っていた。だから外から悲鳴を怒号が聞こえてきた時も周りの子供達が寝ていた子も含め泣き出す中、俺だけは静かにその時を待っていた。
「もう、大丈夫。助けに来たから」
その言葉を聞いた時に俺の脳は理解を拒んだ。
だって、そうだろ。ここで現れるのは怖い兄さんで言うことを聞かないと殺すとか言われてそれで……。
次々と出て行く子供達の歓声と泣き声を聞きながらようやく理解した。
まだあの辛い現実を生きていくということを。
しかし、一度折れた心は元に戻らない。
俺は、座り込んで涙を流した。
初めてパンを盗んだ時以来の涙だ。
恐怖で腰が抜けたんだと勘違いした男が俺に手を差し出して言う。
「もう大丈夫。安心していいから」
とそう言う。
だから俺は問いかけた。
「……まだ、……まだ生きろっていうのか?」
男の笑顔が固まった。当然だろう。
周囲は助かったとこによる安堵と、いまだに抜けきらない恐怖に泣く子供達のなかで一人生きるとこに泣いているのだから。
その顔を見て思った。
迷惑だよな、本人達はいい事をしたと思っているのにそれを非難すれば。
違うか、実際いいことなんだよな。俺にとって余計なとこだっただけで。
「……ごめん。悪かった、ありがとう」
そう言って俺は、その人の脇を抜けて皆と反対方向に歩きだした。
なんかもう、色々吹っ切れた。最後ぐらい誰にも迷惑を掛けないように死のうと。
十分も歩かないうちに後ろから声を掛けられた。
「君、ちょっと待って!」
そこに居たのは先ほど手を差し出した男ではなく、初めに子供達に声を掛けた女の人だった。
俺は大人しくその場で待ち相手の言葉を待った。
「……あぁ、と。その、…帰る場所は分かるの?」
そう聞かれた。
「大丈夫です。知っている道ですから」
そう言って再び歩き出した。実際、全く知らない場所だったがどうせ後は人気のない所であれば何処でもいい。
すると今度は俺の前にきて言う。
「まぁ待って!それなら車で送って行くから」
「近い所ですから結構です」
「……じゃ、歩いて送って行くから」
その言葉と表情で確信した。この人は俺の家なんてないことが分かっていることに。
腹の探り合いみたいな感じは嫌いだ。だから率直に言った。
「一体何の用です?俺みたいな家のない奴を捕まえて」
一瞬怯んだ女の人は俺を見つめてはっきり言う。
「……私は回りくどいの嫌だから素直に言うけど、君。家に来ない?」
冗談じゃない。一体俺に何をする気だとそう思った。
「憐れみや同情でそんな事を言うのは止めてください。こっちが惨めな気持ちになる。そんなのはただの偽善だ」
俺の口からは強い否定の言葉が出てくる。こんなことを口に出して言ってる時点でかなりカッコ悪い。
女の人はめげずに言い募る。
「そんな良い物じゃないわ。私は君の持つ魔力が惜しいと思っただけ。君が普通の人間だったら声も掛けない。君が思う以上に現実主義なのよ私は」
無理をしているのが一目で分かる。だいたい声も掛けないのなら、さっきの子供達に掛けていた優しい言葉は何なのかと言いたくなる。
いい人だと思う、というかいい人だった訳だが。
この後、2時間にも及ぶ説得(怒ったり、脅したり、泣き落としたりがそう呼ぶならだが)の末に結局おれが折れた。
この先俺の頭が上がらなくなる人、安藤 鏡花さんとの出会いだった。
お読み頂きありがとう御座います。
サブタイトルを変更しました。
また、色々と読みにくい部分や表現のおかしい部分を変更しました。