第11話:鏡花の決意
笑う『私』と叫ぶ異形を、まるで人事のように上空から見ている私が居る。
私はそこからこの『由愛』という人が気になった。
何故この人を私は意識するのか?
それが分からずに私は『私』がやっている事をただ傍観している。
私はただ見ているだけで、体はこの人に対しての攻撃を止めない。
私の体は意識するまでもなく動き続ける。
工夫する事なく、純粋にただ愚直なまでに直線的な動き。
子供が駄々をこねているようにしか見えない。
『私』は男の人が避けるのを面白がっている節があり、
徐々に速度を増してどこまで大丈夫なのか遊んでいる。
避けるのに必死になっているように見えた男の人が不意に、
見えるはずの無い上空にいる私の方に目が向けられた。
その決意に満ちた表情を見て私は思う。
(あぁ、ようやく終われるんだ)
だから、その後の事は私にとっても、『私』にとっても、
異形にとっても予想外。
私の指先から飛んでいった一つのエネルギーの塊が、彼のお腹に吸い込まれる。
大きな穴が、彼のお腹に出来てしまった。
それはどこかで見た光景。
それを見て、私と『私』と異形は一つに解け合った。
再び思考を、記憶を取り戻す。
記憶を探しても彼の姿は無い。
でも、『由愛』は居た。
私がエゴで自分の妹にしてしまった子。
その子の意見なんて聞かずに、連れて帰った子。
ただ、姉の代わりに勝手に私が必要とした子。
その子に瞳の強さが似ていた。
私は無意識に声に出して呼んでいた。
「……由愛……ちゃ、ん?」
彼は口の端から血の雫を流しながら微笑んだ。
「また、寝坊か? まったく、俺が居ないとダメな姉さんだ」
彼は……由愛ちゃんは私に手を伸ばして言う。
「帰ろう、姉さん。ここは姉さんのいる場所じゃない」
由愛ちゃんの言葉に思わずその手にすがり付きそうになる。
でも、ダメだ。私は首を振る。
「それは、出来ないの。……ここは私の世界だから」
右腕を見る。
今や異形と化したこの右手で、人を殺した。
左腕を見る。
血に塗れた左手で、人が死んだ。
「違う! ここは鏡花さんの夢なんだ。居場所はここじゃない!」
由愛ちゃんは、そう言ってくれるけど、私のような人間はやっぱり『外』に憧れちゃいけなかった。私のように歪んで育った人間には、救いなんてあっちゃダメだったんだ。
夢が現実か現実が夢か。
なんて、誰の言葉だったっけ?
そんな事、どっちでも同じ。
夢で辛い思いをするか、現実で痛い思いをするかの違い。
こんなにも汚い私が由愛ちゃんと生きていこう……なんて。
思い違いも甚だしい。
一人殺せば殺人者で、十人殺せば異常者。
百人殺せば殺人鬼で、千人殺せば英雄。
……じゃあ。同じ人を千人とか一万人殺したら?
それは最早、人間や生き物ですらない。
ただの機械。心の無い、機械。
「由愛ちゃん……きっとね、私の心は……もう壊れてる」
この手で人を殺す事に、その温もりを奪い去る事に、もう何の罪悪感も感じない。
「由愛ちゃんの……ううん。貴女の事も姉さんの代わりでしかなかったの」
それしか生き方を知らなかったから、完全に私を頼ってくれる人が欲しかった。
「だから、帰って。貴女はここに居るべき人じゃない」
壊れるのは私一人で十分。
「もう要らないの……ここには姉さんがいるから」
だから、
「貴女は邪魔なの!!! 私の前から消えて!!!」
ゴ メ ン ナ サ イ。
お読み下さり有難う御座います。
終わりに近づいてはいるのですが、伏線らしきもの? の回収がほとんど出来ていないので、気になる部分がありましたら、言って頂けると助かります。
本編終了後に何とか番外編で出しますので。