第9話:鏡花の夢
多分、鏡花のイメージが大分と変わってしまうと思います。
それが嫌な方はこの話しを読み飛ばしてくれても大丈夫なようにしたつもりです。
グロを待っていたという方には、ようやくっぽい感じになったかと……
では、どうぞ……
母が死んだ日からだろうか?
多分その日から私の世界はより一層おかしくなった。
いつだって傷付くのは私だった。
姉はいつも優秀で。
劣等感を抱き続ける私。
終わる事の連鎖、例え私が良い成績をとっても父は歯牙にもかけない。
私のやること全てが姉と競べられた。
姉は優しかった。そして強かった。
私の出来ない事が出来た。
私の出来る事はもっと出来た。
私の憧れで私の理想形。
でも私にとって唯一人、優しくしてくれる姉が、
そんな姉が大好きだった。
もちろん私は心の奥底で嫉妬もした。
私に向いた称賛はすぐ姉の称賛に取って代わる。
姉が太陽のように輝く光なら、私は影。
光を畏怖し、光に居場所を奪われ、それでも光焦がれる闇、それが私なんだと思う。
私は姉以外の全てに悪意を抱かれ、当然私も姉以外の全てを嫌悪した。
姉は私に向けられる悪意に気付く事はなかった。
それを怨んだことがないとは言わない。
それでも、どうしても嫌いになれない。
姉を嫌う事が出来ない。
ならせめて姉が気付かないよう、無樣に、不器用に、一人芝居を続ける。
この劇を唯一人踊り続ける。
果たして観客の居ない劇は劇と言えるのか?
初めから体裁を取り繕う相手はなく、誰に必要とされる事もなく、私のエゴのみで踊り狂う。
やがてそれは私の『日常』となる。
その『日常』という名の非日常を二年、踊りに踊った。
幾度、意識が挫そうになった事か。
その度、私は私の中の姉への確かな愛と、姉以外の憎悪で乗り切った。
あるいは逃避。
姉に見られたくない。
私の心が既にどうしようもない程に腐敗している事に気付いて欲しくない…。
その想いから。
気持ち的には踊り疲れて、継ぎ接ぎだらけの身体で終わりの知れないステップを踏む人形。
一歩踏むと姉への愛が増し
二歩踏むと私の身体は腐り出し
三歩踏むと世界への憎悪に身を裂かれ
四歩踏めば私は少し死に近付いた
止まる事なく。
また、止める気もない。
ボロボロの身体でバラバラのステップを踏む。
それでも私は幸せだった。
姉と居る時、確かに私は幸せだった。
永久続くとは思ってはいなかった。
腐りきった世に唯一人、姉だけが輝いていた。
それだけで満足だった。
意識が浮上する。
お腹に痛みを感じ、殴られたのだと気づき現実に帰る。
(……あ……れ? ……由……愛ちゃ…ん?)
どうにも現実が認識し切れない。
(……由愛って誰だっけ?)
私はいつもの様に体育館の倉庫に呼び出されていた。
独特の臭いにここが何処か思い出す。
周囲の男達は毎回飽きる事もなく私に暴力を振う。
しかし、痛みは一度慣れてしまえば、どうと言う事はない。
唯一つ顔だけは殴らせる訳にはいかない。
そんな事をすれば姉に気付かれてしまう。
幸い彼等の言う事さえ聞いていれば目立つ所に傷をつけられる事はなかった。
大柄の男達は周りに見せ付けるように私に迫る。
私は抵抗する事もなく捕まる。
私の身体の中にヘドロを詰め込まれる気分。
ニヤケた顔に反吐が出る。
(……死んでくれないかな?)
そう想った。
私を掴む男も、周囲の血走った目をした男も
皆、みんな死ねばいい。
(何でコイツらは生きているんだろう?)
(みんな、みんな死んでしまえばいい……)
どれだけ思っても声には出さない。
そんな事をしたら顔を殴られるかもしれない。
私はこの日常を守る為なら自分の身体なんて、どうでも良かった。
代わりに心は冷めていく。
心の中で見下す。
所詮世間のクズ。
私が自衛民の人に駆け込めばどうとでもなる。
せめてそう心の底で抵抗し私が私である事を保つ。
でも私の意思とは別に呻き声が洩れる。
(……あぁ……早く……早く終わらないかな……)
そんないつもの『日常』はたった一つの音により脆くも崩れ去った。
ガラガラガラガラ
ドアの開く音が聞こえる。
音が聞こえた方へ、此処にいる全ての人間が振り返る。私もまた扉を見遣る。
そこに居たのは
「……お……姉、ちゃん」
私の予想は最悪の形で現実の物になった。
私の胸をよぎるのは驚愕? 後悔? それとも落胆? または安堵。
(また、繰り返すの? ……もう、もう許して)
ショックで記憶が混乱している。
自分で思った事の意味が分からない。
私の舞踏は、初めてその存在を観客の目に曝し、喜劇から悲劇に……否、悲劇から喜劇に取って代わる。
姉が叫んだ。
「……鏡花を離しなさい!!!」
私の名前が叫ばれる。頭にノイズが走る。
姉が室内に引き込まれる。
現実として実感出来ない。
私を押さえつける男たちの力が強くなる。
そこで、ようやく意識が姉に向かう。
姉が一人で男達に立ち向かって一体どうなると言うのか。
澱んだ室内で濁った思考の男達にとって、
私と姉は自分達の欲望を満たす為の器でしかなかった。
そして、姉の悲鳴が私の耳にこびりつく。
ヤメテ……タスケテ……
口を塞がれて声が聞こえなくなってなお私の耳にこだまする。
ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ
舞台を降ろされた道化は新たな舞台の観客と相成った。
一人茶番を演じた道化は再度舞台に上がろうともがく。
「やめてー!!! 私なら何をしても良いから! だから、だから! お姉ちゃんを放して!」
もちろん道化の叫びなど届かない。
私は張り倒され腹を蹴られた。
堪らずに嘔吐する。
口に足を入れられていて、行き場を失った吐瀉物が出口を求めて暴れ回る。
胃液で喉が焼け、鼻の粘膜が荒れる。
「うわっ。汚ねぇ。」
そんな言葉と共に顔を蹴り上げられる。
衝撃で口の中が切れ首から
ゴキリ…
と異音が鳴る。
それでも諦めず足に縋り付く。
手を踏まれる。
髪を掴まれ頭を引き上げさせられる。
首に激痛が走り口から勝手に悲鳴が洩れる。
痛みに意識が飛び、痛みで意識が戻る。
アカイ光がフラッシュする。割れた額の血が目に入り右目が開かない。
視界はアカク点滅を繰り返す。
右肩からイヤな音がする。痛みに意識をやられる。
右肩を庇った左手にライターの火が押し付けられる。
肉の焼ける臭いが辺りに漂った。
私の悲鳴が男達の笑い声に掻き消される。
ジンジンした痛みはすぐに別の痛みに取って代わる。
止まない暴力の狂演。
私の意識は身体と切り離れていく。
痛みを痛みとして感じるが、どこか遠い。
口からの悲鳴は自分の声と信じれない。
アカイ視界の中唯一点、他の場所より、さらにアカイ場所を見付ける。
私は上がらない頭で目だけを上に、そのアカを見る。
そこに見てはならないモノを見た。
横に倒れた人影の胸元、頭、腹部がそれぞれアカイ。
それを、見た。
激痛を堪え顔を持ち上げる。
上がらない。それでも身体ごと上を向く。
視界に入った。
そこに、
瞳の力を失った姉を……
衝撃に痙攣する姉を…………
腹に穴の空いた姉を………………
口から血を吐く姉を……………………
そして、何より動かなくなった姉を
私は、わたしは…………みた。
「…………ぁあっ、ぁあああああぁぁあぁぁぁ!!」
(なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!)
矛盾。
目の前がアカイ。
矛盾、矛盾、矛盾。
周囲のざわめきが遠ざかる。私という存在が落ちて……堕ちて、逝く。
矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾――――――――――
何処かで私の何かが壊れた音を聞いた。
「こ…………ゃる。……して……る」
喧騒の中小さな声がやけに耳につく。
今まで殺した殺してないとクダラナイ事を言い争っていた男達が振り返る。
男達が彼女の瞳に見出だした物は深淵。
黒に黒を重ね闇とし、闇に静寂を加え夜色を作り、
そこに絶望を掻き混ぜるたような色。
彼女の瞳は何も映しておらず。また、全てを見ていた。
消え落ちた能面の表情から呟きが洩れる。
「こ……して……る。殺し……てやる」
「殺して……殺して……殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――――」
静寂。
段々ボリュームを上げていた彼女の声が唐突に止む。
時間が静止する。
開ききっていた彼女の瞳孔が絞られる。
辺りが暗くなったような錯覚に陥る。
彼女の表情は無く。
そこからは何も読み取れない。
彼女の両目から流れ出ているアカと透明の涙がやけに不釣り合いだ。
静まり返った中、彼女の小さな声が静かに
「……お前ら……皆」
だが絶対の力を持って響き渡る。
「……殺してやる……!」
絶対的な殺意が部屋に充満した。
部屋がアカに満ちていく。
彼女から零れた血が、肉が、涙が物理の法則を破って部屋に広がった。
私が考えるは怨嗟、想うは憎悪、呟くは呪詛。
頭の中は純粋な殺意。
どのように殺すか?
いかに殺すか?
どれだけの時間で殺すか?
そこに一滴の感情が混じる。
姉の心配。
私は姉の元に行こうとしたが身体が震えて動かない。
震える足を叱咤し姉の元へ向かう。
男達は鬼気迫る彼女に道を譲った。
膝をつき脈を確かめる。
そこに命の息吹を感じ取る事が出来なかった。
私が思ったのは怒り? 悲しみ? 憎しみ???
……否、そのどれでもない。
そう、ただ
(良かった……これで憂いは、もう……ない、よね?)
安堵した。
私は男達に振り返る。
まるで息の合った雑技団のように一歩下がる男達。
その様は不様で滑稽。
男達に今までの驕り昴りはなく、その顔に、その瞳に映るのは怯え。
男達の本能は訴える。
アレは絶対の捕食者、たかだか魔術を齧ったぐらいの人間ごときが敵う相手じゃない。
私は近くの男に手を翳そうとして右腕が上がらない事に今さら気付く。
(……動かないは、いらない。動かなければ動かせればいい)
――――改変
私が思うと右腕が弾けた。
血潮を浴びて私の血肉を元に姿を顕したのは異形。
大狼に似た姿形をしていた。
そいつは大きく口を開ける。
その口の中に小さな口が見て取れる。
異形は私と繋がって私の右腕と化す。
私の歓喜が異形に伝わる。
異形は叫んだ。
「「ぅぅおがああぁぁぁああぁぁあああああああああ!!!」」
人間が口から出す声の限界を超える。
心地良い。
まさに獣の咆哮。自分で唇が吊り上がるのが分かる。
獣は私を駆り立てる。
―殺せ、喰らえ、殺し喰らえ!喰らい殺せ!喰らえ喰らえ喰らえ!!!殺せ殺せ殺せ!!!―
(……もう、止まらない、よ? ……止める気も、ないけどね!!!)
私は嗤ながら命を下す。
「GO AHEAD! (さぁ、お喰べ?)」
近くに居た男は、右腕の小さな牙で脇腹を刔られる。
そのすぐ後で外の大きな口が閉じる。
悲鳴は一呼吸遅れて放たれた。
快楽、そう圧倒的な快楽が押し寄せる。
右腕の獣に体が、脳が、私という存在が…………犯される。
「……くすっ。……くくっ……くすくすくすくす。……ふふふっ、……ふふぁは。……ぁは。……ははは、あははは、あははははははは!!」
私は沸き上がる嗤いを抑え切れない。
右腕は男を咀嚼する。
右腕を通じて感じる食感は甘美。
上がる悲鳴は極上のスパイス。
右腕で軟らかい肉を喰らい、血で渇きを潤し、腹を蹂躙する。
今まで感じた事のない悦楽に骨の髄まで溶される。
もちろん簡単には殺さない。
腹に突っ込んだ右腕より魔術を伝達する。
痛覚をより鮮明に、意識は途切れさせる事なくギリギリを保つ。
だって……
(こんなに、美味しい)
渦巻いた感情が昇華する。
結果、殺す事に変わりないとしても、もはや目的は喰らい、遊び、なぶる事。
ゆえにそこに一片の慈悲もなく、一欠けらの容赦もない。
恐慌に駆られた何人かの男達が出口に駆け出す。
(…………無駄なのに……)
私は左腕を改変させる。骨格ごと変えて筋肉を張り詰めさせる。
左腕が胴体より太くなる。
同時に身体全体を改変させていく。
改変途中の身体を無視し、右腕で喰らっている男の肋骨を左手で無造作に掴み出す。
男は声なき声で叫ぶ
「……ぁぁ……ぁあぁ」
喉が切れて血を吐き出し、肺を潰されながらも悲鳴は止まない。
どれほど身体を壊されても死なない。
……いや、殺さない。
その絶望に彩られた悲鳴は私の背中をゾクゾクさせる。
アカイ肉を所々に貼付けた骨を根本から舐める。
少し塩気の効いた鉄味のそれは右腕で喰らった時と比べあまり美味くない。
それを見た男達から悲鳴が上がる。
異形が喰らうのと私の元からある口で喰らうのには印象が異なるんだろうか?
(……どっちも私なのに、ね?)
全ての男達が出口に殺到する。
元々私の恐怖心を煽るために無駄に凝った扉の施錠が裏目に出る。
鎖が互いにぶつかり合い、ガチャガチャと耳障りな音を立てる。
「……逃がさない、よ?」
私は男の肋骨を軽く放り投げた。
それらは放物線を描くことなく一直線に男達に突き刺さる。
手、足、胴を貫通し扉や壁に身体を縫い付ける。
そこにあった扉は人の壁に塞がれ男達は出口を見失う。
唯一の出口がなくなる。
窓には鉄格子が嵌められ、例え鉄格子がなくとも人の通れる隙間はない。
ある者は鉄格子に縋り付き、ある者はめり込んだ人の壁に取り付き崩しに掛り、ある者は絶望にへたり込む。
それを見て私は嗤う。
そして■んだ姉に微笑む。
「あぁ……ぁあ! 待ってて、もうすぐ……もう少しで、こいつらを……こいつらを!」
「壊して……殺して……バラバラにして……見せてあげるからね?」
私は嗤う。
■んでしまった姉に微笑み、自分を嘲笑い、男達の愚昧さを哂い、世界に哄笑を響かせよう。
そのために今は踊ろう。
道化として彼等と共に!
「ねぇ、踊りましょうよ?
生ある限り死へのリズムを奏でて
死に堕ちようとも、身体が朽ちるまで滅びロンドを踏み
例え朽ち果てようとも踊り、踊り、踊り狂いましょうね!!!
あはははははははははっ」
私は目の前の事切れた男の口へ、無造作に左腕を突っ込み歯を取り出す。
唾液、血液、肉塊、様々な物を携えてアカく塗れた歯が表れる。
私はその男の歯を投げる。
絶望に打ちひしがれた男に、血走った目で仲間を扉から引きはがす男に、私に赦しを請う男に、それぞれ突き刺さる。
魔術を乗せたそれは男達の意思に関係なく身体を変化させる。
男達の意識を保ったまま、互いに拳を上げて殴り合う。
互いの首を締め上げる。
そして互いの首に歯を突き立て食い破る。
涙を流し、瞳で叫ぶ。
喰らった肉は強力な胃液が己の細胞をも破壊しながら消化しされる。
食い破られた箇所はゴボゴボと血の泡を吹出し再生していく。
人間の限界を超えた自然治癒に引き攣るような激痛が男達を襲う。
やがて喰われる側と喰らう側に分かれ、骨すら残さずに喰らい合う。
しかし、安らぎはない。
強力過ぎる胃液は消化する物がなくとも分泌され続け、腹に爛れた穴を空ける。
穴を塞ぐために再生された皮膚は再生直後、胃液に溶かされる。
痛みは鈍化することなく鮮明に、より激しく男達の身体を蹂躙する。
その光景に他のほとんどの男達が嘔吐する。
床にアカ以外の場所は既に無く、部屋は血、唾液、失禁、涙、吐瀉物など様々な液体が混ざり合い饐えた独特の臭いを醸し出す。
耐えかねた男が私に向かって来る。
目には恐怖と狂気、手には何処から持ってきたのか鉄のパイプ。
それを大きく振りかぶり私の頭に振り下ろす。
ゴッ……ゴキッ……グチャ
そんな音が聞こえた気がした。
鉄パイプは私の左側から頭蓋を砕き、脳漿を撒き散らし、左の眼球を飛び出させて、ようやく止まる。
男は初め唖然とし自分のした事に気付いていなかった。
しかし次第に喉の奥で引き攣るような笑い声を上げる。
「……はっ……はは……ひは……ひひはは」
男は顔を歓喜に歪ませる。顔に私の血を貼付け、笑う。
「……はっ……はひ……やった……俺はやったぞ」
しかし、
「……痛いよ? ……ねぇ? これは少し痛いよ?」
4分の1ほど顔が欠けた私は男の声を断ち切り嗤う。
男が凍りついたのが分かった。
自らの様々な液体で濡れた鉄パイプをゆっくり見せ付けるように引き抜く。
ニチャ……ヌチャ……
「……ひぃ……あっ……ぁ……ぁぁぁああ!」
粘液質な音と共に抜かれた鉄パイプ。
頭蓋骨の白い破片やアカイ粘液質な血を貼付けたそれは見る者に忌避を植え付ける。
再生はしない。そうする事で男の恐怖心をさらに煽る。
腰を抜かした男は後ろ手で必死に這いずり、助けを請う。
「た、た、たす、たす助け、助けて!」
私は素早く男の左目に指を突っ込み、ほんの少しだけ力を入れて目玉をえぐり出す。
あまりの速さに男は抵抗の介入すら赦さない。
腐った果実を握り潰した時のような感触を私に伝える。
アカイ糸や透明な液体、黄色いとアカが混ざり合ったブヨブヨした固まりがオマケでついてくる。
それらが元々あった、今は窪んだ場所を両手で抑え男は呆ける。
男の口は引き攣りまるで笑っているかのよう。
少し形がイビツな球状の目玉を男に見せ付けるように下からゆっくり、ゆっくり嘗め上げた。
ピチャ……チュル……ピチャ……
「……かっ……はっっっ……ひ、ひいいぃぃぃぃ!!!」
男は傍から見てもみっともないぐらい震え後ずさる。
私は口の中でコロコロと飴のように目玉を転がせながら男を見遣る。
私は男を裸に剥き、むずがって逃げられないようにする為に、
肩先に向けて鉄パイプを振り下ろす。
……ゴッ!
手加減したのがまずかった。
一度では男の肩を完全に破壊する事が出来なかった。
だから次は少し力を入れて突いてみた。
……グチャ…………ニチャ
(……むずかしい…………)
今度は力の入れ過ぎで下のコンクリートをへこませ、男の肩に至ってはザクロが弾けたみたな状態で、かろうじて皮一枚で繋がっている。
その後私は反対の肩を鉄パイプで貫通させて、ある事に気付いた。
棒で突くんじゃなくて、棒で叩けばどうだろう、と。
私はすぐさま獣じみた声を発している男の足に叩き付けた。
……ゴッ!
(……うん! せ〜こう〜♪)
自分の才能にうっとりとする。
「……あっ……でもでも、マグレかもしれない、よね?」
私は誰にともなく呟く。
……ゴッ……ゴキッ……
男の身体が一つ跳ねた。
「……くす。……くすくす」
アカイ血液が頬に貼付く。
……ゴッ……ゴッ……ゴッ……ゴッ
断続的に跳ねる身体、舞い散る血液。
「……あは、あはは」
そのアカから目が……放せない。
……ゴッ……ゴッ……ゴッ……ゴキッ……
ゴッ……ゴッ……ゴッ……グキ……グチャ……ニチャ
「あはは、あははハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
いつしか肉を打つ渇いた音は湿った音に変わり、私は心の底から沸きいでる愉悦に嗤いが止まらなかった。
男の顔は涙、血液、汗などでグチャグチャで白目をむき股間から失禁しているのにも、はたして気付いているのか疑問だ。
それを見て鳥肌が立つぐらいの歓喜を覚える。
此処にいる全ての人間の生死与奪が私の手の内にあるという事はどういうことか?
それは生あるギリギリの所で遊び、つまらなければ殺し、気が向けば生かし、無邪気に殺す。
世界で最高の私の愛しい愛しいオモチャ達である事の証明。
「……はぁ……はぁはぁ……。あぁ、ごめんね。……少し……興奮し過ぎたみたい」
当然返事はない。
「くすくすくす。まだ、ねちゃ駄目、だよ?」
さぁ、今からという所でこの場に似つかわしくない扉の開く音が聞こえた。
そこに一人の男が立っていた。
「……姉さん。……帰ろうか」
(姉さん? …………なんでだろう懐かしい気がする)
〔でも、男じゃないか〕
(…………そっか男の人だ)
〔そう男だから〕
(…………残念だけど)
〔例え、親しい人でも〕
(一分の隙もなく完全に)
〔誰でも分かるぐらい完膚なきまでに〕
(あの人は私の)
〔彼はわたしの〕
〔(敵だ!!!)〕
私はその男に殺すために、両方の腕を大きく振りかぶった。
お読み下さりありがとう御座います。
ようやく由愛の登場です。
ことごとく次回予告を外しているので、詳しく言っても仕方ないので由愛が出るのは確実です。
とだけ言います。
………というか、普通に分かりますよね…。
修正ですが、意味不明っぽくなってた四字熟語を消去しました。