危機と友人
フェルシアと白が教室の真ん中で睨みあった。
両者、神託力こそ使っていないが気迫だけで周りを圧倒している。
白の猫耳パーカーで若干緩んでいる気もしなくないが。
しかし、睨みあいで先に下がったのは白の方だ。
右腕につけてある時計を見て、
「そろそろホームルームの時間ですね、それにこれ以上の会話は意味がなさそうです」
と言って自分の席に戻った。
フェルシアが白の言葉をフンと笑って教室から出て行ってしまった。
(なんで教室から出ていくねん!ホームルーム言ったやん!?)
とか思わずツッコんでしまったのは仕方ない。
ちなみにフェルシアは、捲を三度踏んでから出て行った。
その後かなり険悪なムードでいたクラス内だが、それでも授業はあるわけで。
朝のホームルームが始まった瞬間に担任教師が一つの事に気付く。
「あれ、天賦は今日休みなの?」
実は住宅街にぶっ飛ばしました、などいえるはずもなく。
雅は冷や汗をかきつつ、担任教師と目を合わせないように努力をしたことは言うまでもない。
捲はちなみに放課後までドア前で蹲っていた。
◇◇◇
黎人は結局放課後に教室に慌てて戻って来た。
放課後に教室に戻ってくるのは遅すぎる気もする。
雅が冷めた目で掃除をしていると黎人に声を掛けられる。
「雅! ちょっと助けてくれ!!」
「無理」
「ちょ、聞け!?」
無視すると、雅はちりとりでゴミを集めてゴミ箱にスタスタと歩いていく。
黎人はそんな雅の肩をガッシリと掴むと怖い顔で凄む。
「朝したこと忘れたわけじゃねえよな!」
「知らん。で、なになんか用件教えて?」
「おい! はぁ、実は………」
内容を軽く纏めるとフェルシアの取り巻きズ双子が黎人に対して依頼をしたそうだ。
フェルシアの護衛として戦ってほしい、ということだ。
それでフェルシアをこっそり護衛しようと思ったら途中で見失ったらしく、寮にも戻ってきていないらしい。
ということは、
「僕にフェルシアを探せっていうことやな?」
「頼む!」
「そもそも護衛のくせに見失うとか終わってるだろ」
「本当に面目ない………」
雅が顎に手を当てながら少しだけ思考する。
(むぅ、僕自身が探知系じゃないから人探しは難しいなぁ。ん?)
雅が黎人に対して思いついた疑問をぶつける。
「そいえば双子の神託力は何なん?」
「双子の名前はレヴィルとソナーって言うんだけど、レヴィルは獣化とソナーは機械化だった。」
「名前は聞いてねぇし。つーか、獣化できるなら匂いたどればええし、機械化なら探知あるでしょ」
雅は思わず突っ込んでしまった。
この二つがどういう神託力か説明をすると、
獣化は単純に獣になる能力の事、基本的に回復力が高めだ。
機械化は体の一部もしくは全身を機械に置換する能力でピンキリが激しく、強いのはエグイほど強い。高層ビルを一撃で完全に砕く神託力持ちもいるほどだ。
雅のツッコミに黎人は首を振って答える。
「レヴィルの獣化はカメレオンだから無理だし、ソナーは攻撃特化のせいで1Mしか探知できないらしい」
「全く意味ないやん」
雅は思いっきり肩を落としてがっくりする。
というか、
(1Mって一歩歩くだけの範囲やん!?)
とかめっちゃ思ったが口には出さない。
特にあの双子たちに罪はないのだ。
雅がメンドクサそうな顔で黎人に話しかける。
「つーか、朝のフェルシアの話聞かへんだん?」
「知らねえよ!お前のせいで人様の風呂につっこんだんだよ!!」
「………うらやましいわ、ボケェ!」
「あっぶ!」
雅は目の色を変えて黎人に向けて全速力で拳を振りぬく。
真正面からの直球の拳なので、さすがの黎人も見切って受け流す。
数分後、雅は黎人に一通りの説明をした。
話を聞いて黎人は納得のいったかのように何度も頷いていた。
「なるほどな、道理で機嫌が悪かったわけだ」
「そうなん?」
雅は思わず首を傾げてしまう。
いつも機嫌悪そうにしているのに良い時もあるような言い方だったからだ。
(いつもムスッてした顔でおること多いから分からへんだな………)
だが考えていても仕方ない。
嫁候補のご機嫌取りは友人の役割ではない。
そう思って雅は教室の外に出ながら黎人に言う。
「ん、じゃあお転婆娘を探してくるわ」
「俺の方でも探しとくから見たら連絡よろしく!」
黎人は用件だけ言うと教室の外側の窓から出て行ってしまった。
相変わらずカッコよく見せる男であるが、
(………ここ3階なんだけどなぁ)
とは言わない雅であった。
直後に下の階で悲鳴があったことは言うまでもない。
◇◇◇
数時間後、現在雅は学校外の都市部を走っていた。
無論特に何も見つかりそうにもない。
もう少しで夕方も過ぎて夜になるので雅も一旦帰ろうとする。
「結局どこにいったんやろなぁ?」
帰り道をトボトボ歩きながら都市部の喧騒な通り道を過ぎる。
独り言を言っていて悲しくなってきたので頭の中で考える。
(まだ帰ってないってかなり怒ってるんかぁ。めんどくさ)
基本的にめんどくさがりの雅は楽に色々済ませようとする。
だがお人好しな面もあるため断れないのが偶に味噌だ。
裏道を通って帰っていると急に悲鳴が聞こえた。
「!?」
雅は辺りを見回すがビルの間の道のためかなり視界が悪かった。
仕方なく神託力で体を強化すると壁蹴りでビルの屋上まで上がる。
誰かがいる気配を感じた雅は、登るとすぐに身を隠した。
そろりと見ると違うビルの屋上に黒服の二人がいた。
2人組の足元には半分ター●●ーターみたいな生物と体の一部が緑に変色している少女がいた。
(確か………黎人の言ってた双子か!?)
能力的に合っているに違いないはずだが、しっかりと見てないため確証がない。
そんなことを考えていると黒服の片方が言った。
「おい、フェルシアって言う奴はどこだ?素直に吐けば命だけは見逃してやらぁ」
「誰がいう……か…」
「強情な奴だな」
ソナーは口から血を流しながら声を振り絞ってそう言った。
黒服の一人は手元のナイフをソナーに突きつけながら考え込む。
もう一人の黒服は周辺の警戒しているようで余裕がなさそうだ。
雅はスマホで位置情報を黎人に送ると一息つく。
「すぐに殺す気なさそうやし、たぶん黎人が先に着くやろ」
無理に殴り込みに行けば雅自身が大けがを負うリスクがある。
状況が分かったからと言って主人公のように猪突猛進できるほど強くはない。
一旦様子見をしようと一息ついた瞬間に状況が一変する。
バシンという音と同時に雅の隠れている方にナイフが飛んできた。
レヴィルが無理やり立ち上がってナイフ持ち黒服の手を蹴ったのだ。
そこまでは良かったが警戒していた黒服が神託力を使いレヴィルに肉薄する。
「………刃化」
「ぐぅっ!」
黒服のコートの右側が破け、右腕で手刀を作りレヴィルの肩を貫く。
レヴィルが痛みで顔を歪ませつつ真横に跳んで距離を取る。
その時にソナーが叫ぶ。
「レヴィル、後ろ!」
「え?………きゃあああ!?」
蹴り飛ばされた黒服がレヴィルの背後から回し蹴りを決めてきた。
レヴィルはまともに防御もできず布雑巾のようにされてしまった。
黒服が唾を吐き捨てながら不機嫌そうに言う。
「クソが。大人を怒らせるんじゃねえガキ」
「そんなカッカしない………マスターに怒られますよ?」
「ッチ、だるいこったよ」
レヴィルの後頭部を靴でグリグリ踏みながら、刃化の黒服は淡々という。
「………ですが、ここまで反抗的だと他の人から聞くのが一番ですね。殺しましょう」
もう一度腕を刃化させるとレヴィルの顔に容赦なく振り下ろす。
ソナーが何とかしようとするが、もう一人の黒服に口を塞がれ体を拘束されてしまった。
凶刃がレヴィルに迫る。
1秒後見える未来は、顔を真っ二つにされたレヴィルだと思った。
しかし………1秒後ソナーが見た景色は黒服の刃が屋上の床に突き刺さっているものであった。
そして奥には黎人の近くにいる黒髪の少年。
彼はレヴィルを荷物担ぎで背負いなおしながら汗をダラダラ流していた。
黒服達は警戒を強めて静かに聞く。
「お前は何者だ?」
「………さぁ?誰やろうな」
拳を構えながら雅は不敵に笑う。
「しいていうなら、ハーレム主人公の友人………やな」