女性の縁と友人
「今回はこの程度にしといてあげますが、次はないですからね? でわ、ごきげんよう!!」
戦闘終了後、フェルシアが舌打ちをしつつ黎人に吐き捨てるようにセリフを言って去っていった。
それに合わせて、双子の取り巻きが慌ててついていった。
フェルシアは女子には見えないような大股で校舎の方へと戻って行った。
その様子に黎人が不満そうにしていた。
「………なんか納得いかねえ」
一つため息をつくと、神託力を解除し、黎人がズカズカとこっちに歩いてきた。
そして、黎人は雅に向けて手を出す。
「おい雅、スマホだせ」
「なぜゆえ?」
「俺の神託力使ってる時の姿とってるからだよ!!」
「えぇ~」
有無を言わさず、黎人が雅の持っていたスマホをひったくった。
手早くさっき撮った写真を消してから投げてスマホを返す。
雅は片手でキャッチすると頬を膨らませる。
「あの厨二スタイルは強いからええやん!」
「そういう問題じゃない。見られるの嫌なんだよ!」
「へいへい。それは良いとしてクラス見に行こ」
「それって言うな! ったく」
下らない会話をしながら、雅が掲示板まで走っていくと黎人が歩いてそれを追いかけた。
やっと学校が始まるのだ。
◇◇◇
掲示板に書かれていたクラス分けでは結果を言えば、雅と黎人は一緒であった。
これは中学生3年間一緒だったため特に何の感慨もわかない雅である。
仕組まれているのでは?と疑いたくなるのだが、唯の友人である雅が深く知るわけがない。
兎にも角にもクラスで入学式後のホームルームが始まる。
そして数時間が経ち、放課後となった。
自分の作業が終わり、雅がクラスに残っていると一人に声を掛けられた。
「あの……」
声に気付いて、雅が振り返ると朝にみた白い髪の美少女が立っていた。
現在も制服の上に猫耳パーカーを着ている。
彼女は律儀にも二回目の自己紹介を丁寧にしてくれた。
一回目はホームルームの時である。
「えっと確か君は朝起こしてくれた…」
「はい。さっき自己紹介もしましたが、改めまして鬼川白といいます。」
「どもども」
白が軽く頭を下げると、雅もそれに倣う。
白はほんの少しだけ微笑を浮かべながら雅を見た。
「聞いていたよりもずっと小柄だったんですね」
「え、僕のこと知ってるん?」
白は首を縦に振って答える。
「はい、あの天賦黎人の右腕だと言われているのを聞いたことがあります」
「いや右腕ちゃうし」
「あら、違ったのですか? パワー系統の神託力で薙ぎ払うと聞いたけど……」
「パワー系統に間違いはないけど、だれがそんな噂ひろめてるねん」
結構身に覚えの多い雅は渋い顔をする。
そのまま雅は黎人がいるであろう寮の方角を向いて言った。
「ただの友達。その時にあいつのトラブルに付き合わされているうちに戦っていただけ」
中学生時代に何個もの悪の組織を潰してきたか分からないほどだ。
倒した理由のほとんどは、捕らわれた嫁候補様を助けるためだったとは言うまでもない。
雅が相手にしたのはあくまで手下だけで、親玉を倒すことはあまりしていなかった。
「大した自慢にもならへんし、黎人の方がずっと強いで」
「そうなのですか………」
「うん」
雅が即答すると、白は口元に手を当ててこう言った。
「篠倉さんは、天賦黎人のことをどうお思いですか?」
「え?」
雅はその言葉の意味をほんの少し考え、両腕で体を抱く。
「鬼川さん……僕は男ですよ?」
「いや、それはわかってますよ!! ズボン履いてるじゃないですか!」
白が首をブンブン振ってちゃんと言い直した。
その前に雅が何かを思いついて、戦慄する。
「じゃ、じゃあ、あなた腐ってるん!?」
「誰が腐女子ですか!!」
「ごめんごめん。今までそんな女の子ばっか周りにいてねぇ」
「………!?」
なんて遠い目をしながらいる雅に、白は同情の目を向けることしかできなかった。
冗談ならば、本当にそれで良かったのだが現実は残酷である。
ちなみに雅は中学時代モテた女の子は、ヤンデレと腐女子のみである。
ある時に、腐女子軍団に囲まれたときに男子(イケメン<黎人ではない>)と無理やりカップリングさせられそうになり神託力で脱出したこともある。
だから彼の思考回路には、自分に話しかけてくる女性=腐女子=ヤンデレ、という方程式が確立していたのだ。
まぁ、今回はそこはおいといてだ。
雅はうーんと悩みながらやや困惑気味に質問に答えた。
「黎人かぁ、あいつ、モテるし顔良いし神託力強いし、勉強以外完璧ですげえよ」
「なるほど、…それ以外の部分は?」
白は何とも反応できないまま雅の次の言葉を促した。
雅は日頃の恨みををすべて吐き出すかのように、顔を歪めて続ける。
「しかもさ~ただモテるだけじゃなくて、たくさんの可愛い女の子とか美人の年上にもてやがって………」
「あ、あの」
「その上に家に義理の妹が3人いるだぁ!? そこまでブラコン集めて何になるんだよクッソタレ!! 僕も欲しいわ!!!」
「ちょ、しのくらさ…」
「さらには甲斐甲斐しく世話してくれる姉が2人いるなんて、なんて世界は理不尽やねん……それだけでなくモテて大変だと? モテない男の気持ちなんてあいつには、あいつには分からないでしょうねぇええ!!」
「篠倉さん、とりあえず落ち着いてください!!」
「ガッ!」
あまりの言葉に白からの平手打ちを雅は貰うが、言葉を無理やり続ける。
理不尽な暴力には負けないとでも言うかのように。
「だから、この二ホンを変えたい……その、その一っし……アァッー!」
「それ以上はOUTでしょうがぁあああ!」
白が続けざまにムエタイ式膝蹴りを加えて、何とか自主規制を免れる。
蹴られて雅は正気に戻ったのか、白にすぐに謝る。
「ごめん、我を忘れてたみたいやわ」
「そこまで感情的になる人初めて見ましたよ……」
「あはは……」
雅は乾いた笑みを白に笑顔を向ける。
だが、白の若干雅を見る目が白くなったのはご愛敬だ。
雅が顔を真面目に戻して正直な感想を言う。
「正直言ってしまえば、あれやな。 住んでる次元が違う⦅友達⦆って思うな」
「次元が違う?」
「うん」
困惑したような、でも楽しそうな表情で雅は続ける。
「普通の人なら経験しない日常を送らせてもらってるからやろなぁ」
「なるほど」
「主には悪の組織潰したり、お姫様助け出したりやな。ま、あいつが強すぎるから僕の出番なんてほぼないよ」
「――悪の組織、そう……ですか……」
白の声がかなり下がったのに気づき、雅が心配そうに声を掛ける。
雅には最初の白の声は聞こえなかったみたいである。
「ん、どうかした?」
「い、いえ、何でもありません。ではそろそろ時間なのでお暇します。」
「そう?」
雅の心配にやや急ぎ気味に返事を返すと、白は慌てた感じで教室から出た。
「じゃあね〜……ってもういないし。ほんま嵐みたいな子やったなぁ」
雅が初日の疲れを隠さないまま、窓際にもたれかかる。
ふと、窓を見るといつのまにか日が暮れて夕焼けが綺麗に映っていた。
雅は寮の方を向いて白には全く見せなかった弱気な声を漏らす。
普段は強気な彼が見せた一瞬の弱さ。
「僕にも黎人のような力があればな……」
今ここにはいない人に向けて言葉をかける。
「ティア姉どこにいるの………」
夕焼けの光が雅の頬照らす。
そこには涙が伝っていることに雅はしばらく気付かなかった。