交差する主人公と友人
少年の合図により、機械人形たちが雅と絆に向かって突進してくる。
二手に分かれて、攻撃をかわすと雅は起き上がりざまに人形の一体を蹴り上げた。
小気味のいい音ともに遠くまで飛ばすことに成功する。
「……流石に金属を素手で倒すのは無理やわ」
しかしかなりの強度らしく、人形に小さな凹みを生み出すだけで破壊には至らなかった。
追撃してトドメをさそうと追おうとすると、その前に他の人形たちが立ちはだかる。
「しかもこんだけ固いのに数が多すぎるし!!」
ダメージを与えた人形に攻撃を届かせることができないまま、後退することを余儀なくされる。
だが愚痴を言っていても敵の数は減ることもなければ、状況が好転することもない。
唯一幸いなことは精々相手が遠距離武装をしていない点であろうか。
雅は人形たちの攻撃を受け流しながら、絆の方に目を向ける。
「絆の方にも同じぐらい数が来てるから、あんまり悠長にもしてられへんしな……」
絆は【神託力】を使って、数体を切り刻んでいる。
数はまだ雅より少ないが、絆の方には武器付きの人形なのでかなりキツイはずである。
すぐに助けに行きたいのだが、雅と絆の間には人形の肉壁が分厚く配置されていた。
それに人形たちを沈黙させる手段がなければ絆の元にいっても邪魔になるだけだろう。
打開策を練りながら、雅は周囲を見回していると細長いものが目に入った。
「お、あれは……」
独りでにそう言うと、攻撃を躱しながら真反対の目当ての物の場所まで辿り着くと同時に破壊する。
「丁度ええもんがあるやん」
真ん中ほどで、それを叩き折ると肩に置く。
そして、悪い笑顔で追いついてきた機械人形たちに向けて振るった。
◇◇◇
所変わって、絆は剣や銃を持った機械人形と襲ってきた二人と相対していた。
数こそ多いが機械人形たちは、絆にとって足止め程度にすらならない。
迫る大量の敵にも怯まず、それどころか戦いを楽しむかのように【神託力】を発動させる。
「いくよ!【血統崩牙】!!」
絆は爪で自分の指に傷をつけ、溢れ出す血を人形たちに放つ。
「≪血統解放:爆裂針≫!!」
放たれた血が人形たちに直撃すると人形たちを貫き、体を爆散させた。
絆は同時に傷口から出てくる血を操ると、深紅の剣を生成する。
「≪血統解放:吸月≫!」
自分の体よりも長い刀を振り抜いた。
それだけで残っていた人形たちを一刀両断する。
ついでに近くの廃ビルも一緒に断ち切った。
絆の【神託力】である【血統崩牙】。
それは自身の血液の成分を変化させることができる能力である。
己の血液を武器替わりにも変化させることができる≪生命≫の【神託力】の一つだ。
ちなみに攻撃力だけで言えば、雅を遥かに上回っている。
最初は静観しようとしていた二人組も人形の全滅に流石に焦る。
「な……!?」
「ちょっと、やばいっすねぇ」
敬語っぽいような口調の方の少年は焦るというよりは驚きの方が大きいようだが。
絆は血の刀を体の中にしまうと胸をそらして言う。
「ふふん、こんなぐらいでボクを倒せると思ったら大間違いさ!!」
ちなみに未だに雅が戦闘中であることを絆は既に忘れていた。
フードを被っている方の少年は絆の様子を見て、ポツリとつぶやく。
「……予想の数分ほど早いっすねぇ。主人公相手に雑魚じゃ時間稼ぎにはならないっすか」
「主人公?」
「いんや、こっちの話っす」
絆を称賛すると、少年は自ら名を名乗った。
「絆さんの強さに感服しましたよ~。初めまして、俺っちの名前はエアとでも呼んでください」
「どうも。ところでエア、君はどうしてボクを殺しにかかってきたんだい?君たちに恨まれるようなことをしたかい?」
絆が疑問そうに聞くと、エアはからから笑う。
「まさか。善良な貴方にはなんの恨みもあるわけないっすよ~」
「じゃあどうして?」
「えっ、理由聞くんすか?」
エアは頭をかきながら、困った顔をする。
普通は悪人に対して、悪事をする理由を尋ねるとは考えていなかったからである。
絆の言葉はエアにとってはあまりに予想外過ぎたのだ。
なので、頭を捻って出た答えを絆に簡潔に伝える。
「んー、強いて言うなら、うちの相方が雅のことが大嫌いなぐらいっすね」
「おい、エア!!」
「……そこの君が?」
突然話題を振られた少年はエアに向けて怒るが、その前に絆は少年の方を向くと目を合わせて尋ねた。
「ねぇ、どうして雅のことが嫌いなの?」
「なんでもいいだろ……」
「……」
絆の何の打算もない真摯な瞳を向けられて、ポンチョ少年の方は罪悪感にかられる。
お互い黙ったままで少しの間が開く。
しばらくの間、壊れた人形の破片が転がる乾いた音だけが響く。
先に沈黙を破ったのは絆の方だった。
「言いたくないなら、無理に言う必要はないよ?」
「……ああ」
「誰にだって、人が苦手な理由ぐらいあるしね」
少年の謝罪に絆は快く受け入れた。
しかし、絆は顔を曇らせると少年に説得を試みる。
「でも雅はとてもいい人なんだ。だから、もっと喋ってみてくれないかな?」
「……」
「ボク自身そんな喋ったことはないけどさ、接しているうちに分かると思う」
絆はポンチョ少年の表情の変化には気づかないまま、言葉を続ける。
「彼は強くはないけれど誰よりも強い心を持っている。ボク自身が憧れる人さ」
絆は少年の無言を肯定と受け取り、笑顔で提案をする。
「ボクたちは戦う必要はないんだ。今ならもう追いはしないし、君が誰なのかも尋ねない」
「……絆」
少年が小さく名前を読んだことに絆は気づかない。
いや、気づくことは難しかっただろう。
さらにはエアが必死に笑いをこらえて居ることも。
そして、絆の次の一言が彼の琴線に触れることすら。
「雅なら、きっとそう言うはずだしね」
「……ずっと」
急に少年が握りこぶしをつくって、激昂する。
「ずっと雅雅雅雅、うるさいんだよ!!」
「ふぇ!?」
突然少年は〖原罪〗を発動させると、絆に向けて〖原罪〗により召喚した剣を振るう。
絆はギリギリで刃を躱すと驚きの表情を浮かべた。
「あ、危ないな!!いきなり何するのさ!?」
「さっきから黙って聞いていれば雅雅雅……そいつの話ばっかじゃないか!!」
「だから何だっていうの!?」
少年の表情は怒りと後悔と、哀れみを合わせたような複雑なものであった。
「やっぱり雅のせいなんだな?お前がすっかり変わってしまったのは……」
「なんでボクのことを知ってるの……?」
「もちろんだ」
少年は荒っぽく被っていたフードを脱ぐ。
煌めくような金髪に青い瞳。
洗練された体つきはまるでアスリート選手のようであった。
ひとたび笑顔を振りまけば、見る女性を虜にするような容貌である。
しかし、今は絆に向けて怒りの表情を浮かべていた。
「久しぶりだな、絆」
「え……嘘、だよね?もしかして朝?」
絆は表情を完全に強張らせる。
それは無理もない。
昔からの友達である少年が目の前で敵として立っているからだ。
「その微妙な感じはなんだよ。俺のことを忘れたっての言うのか?」
「そんなわけないでしょ!!」
朝の言葉に絆が反論すると、再び怒りを込めて叫ぶ。
事情を知っているエアはニヤついたままだ。
「前にも言ったよな!俺は絆が戦うことに反対しているって」
「……そうだね」
「あの時、お前を強く留めなかったことを後悔してたんだよ」
剣を握る腕が震えるほどに朝は怒りを爆発させていた。
「絆が、不幸なお前が無理に元気に振舞うのはもう見たくないんだよ!自分が傷ついても笑っていることに俺は腹が立っているんだよ……!!」
「ボクは自分の意志だから後悔なんて……」
「黙れ!!」
絆の言葉にも一切耳を貸さずに朝は怒ったまま、絆との距離を詰める。
「お前の気持ちなんて知らねぇ!俺は絆が戦場にいることが許容できないんだ!!」
「……ッ」
絆は突然の友人の言葉に動揺してしまう。
普段なら突進してくる敵を躱すのなんて、余裕のはずだった。
だが、動揺のあまり動くことができなかった。
「だから負けろ!絆!!」
「あ――――――」
朝は剣の腹で絆を殴打しようとする。
絆が気づいた時にはもう躱しようがなかった。
完全に命中する距離。
今から絆が防御姿勢をとるにしても、回避するにしても時間が足りな過ぎた。
この攻撃は成功するはずだった。
だが、朝も状況を楽しんでいたエアも完全に一人の存在を忘れていた。
さらには警戒が薄くなっている側面から飛んでくる攻撃に朝は対応ができないのも当然だろう。
「ぐえっ!!」
長い棒状の物体が朝の頭部に直撃し、カエルのような声を出させながらエアのいるところまで殴り飛ばした。
突如の横槍に絆が驚いて後ろを振り向くと、そこには雅が立っていた。
「ああ、もう心配したら敵倒し終わってるし……援護は余計やった?」
呑気そうに雅は絆にそう尋ねた。




