絆と雅
「あぁ……めんどくさい約束してもーたし」
詩依と別れた後、雅は再び探索を開始した。
面倒事を抱えたので、さらに気分がどんよりしている雅である。
さっさと用事を終わらせて、おふとぅんに帰ろうと決意して財布をポケットにしまおうとする。
その時に雅は急に立ち止まった。
「あ、そういえば連絡誰かから来てるんやったな」
黎人からの連絡を昨日から全く返していないことに気づいたのだ。
雅は普段は未読が一つでもついていると落ち着かないタイプなのだが、昨日はそれどころじゃなかったので見る暇がなかったのだ。
何気なしにポケットからスマホを開くと雅は顔を強張らせた。
「うえぇぇ、ナニコレ……」
それも無理はないことであった。
なぜならロック画面を開くと、通知が100件以上溜まっていたからだ。
緑のチャットアプリの上にNewのマークが溢れかえっている。
開きたくない気持ちが圧倒的に勝っているものの、開かないと始まらないので雅は渋々画面をタップした。
「うーん、やっぱ黎人だよね」
半分以上が黎人だったのは完全な予想済みである。
主にサフィラとフェルシアの両方からのデートに誘われているという内容であった。
その上ダブルブッキングデートになっているという絶望の追加コメントが書かれていた。
(ダブルブッキングデートってどう対応したらええんや……?え、何体が二つ必要な案件なん?)
別名『同時二股デート』というものは雅は未体験なので思考が完全に停止してしまう。
そもそもデート自体数えるほども言っていない雅にとって、デートに行かせるだけでも胃痛であるのに二人のフォローも考えると余計に悪化するのは自明の理であった。
「うぅ……とりあえず放置」
神経性の胃痛の種を一旦現実逃避して、残りの返信をしようとする。
だが、次の履歴を見て雅は目を丸くした。
「む?こんな人いた?」
ほとんどは他愛ない世話話ばかりであるが、一番上のトーク履歴には『きずぽん』という見知らぬ人の名前があった。
ヴァンパイアが主人公のアニメのキャラのアイコンをしている人のようだった。
雅は身に覚えのない名前に首を傾げながら、チャット画面を開いた。
すると、『今日、バチ公前で13:00集合だよ!絶対に来てね!!一人でだよ、一人!!!』という文面で雅の方にメッセージがついさっき送られていたようであった。
ちなみにバチ公は某犬の石像を模して造られた作品である。
某犬に対して、敬意が全く払われていない醜悪なデザインのせいで『罰当たり』からバチ公と呼ばれている。
蛇足ではあるが、犬の本当の名前を雅は知らない。
「……さすがに今からは間に合わへんやろ」
雅は文面と時間をみて、返信も遅いと思った。
なぜならバチ公前は雅の住んでいる所から約2時間弱かかるのだ。
間に合うはずがないはずだった。
だが、それを裏切るかのようにスマホを見ていた雅の背後に衝撃が走る。
「みーやびっ!!」
「ん、え、むぎゅ!?」
後ろから突進してきた人物のせいで雅は地面とキスをするはめになった。
しかも強烈な負荷で首元に激痛が走り、立ち上がることができなかった。
雅に馬乗りになっている人物は動かない雅に不思議そうに首を傾げた。
「あれ、雅?生きてる?」
「生きてなかったら、お前殺人鬼やわ!!」
「あ、生きてた」
「ふざけるのはいいけど加減を知れ……絆」
「えへへ」
雅は溜息を吐くと、絆は快活そうに笑った。
そして、雅はよく見るとバチ公前に自分がいたんだと後で気づいた。
◇◇◇
バチ公前から少し歩いて、オフィス街を二人で歩いていた。
別に買い物やどっかの企業に用があるわけでは全くない。
ただ雅は絆についていってるだけである。
「結局、『きずぽん』って絆のアカウント名だったのね」
「うん。実名だとダメって怒られた」
「どっちでもええと思うけどなぁ」
「ねー」
他愛もない会話をしながら、特に目的もなく進んでいた。
普段の学校の話や好きな店の話などに花を咲かせていた。
その中で不意に絆はしみじみ言う。
「まーでも雅と再会できてよかったよ。本当はもう出会えないって思ってたぐらい」
「……もう?」
「あっ……しまった」
言葉尻を捕まえて問うと、絆の顔が強張る。
雅は耳ざとく、そしてさらに問い詰めた。
「ふぅん。やっぱりその口ぶりやと出会った時のことが印象強いってことやな」
「むぅ」
「なおかつ、前言ってた『救われた』ってのも嘘やなさそうやな」
「むぐぐ!?」
雅の言葉に絆は驚きすぎて、かなりタジタジになっていた。
絆があまりにも分かりやすいという訳ではない。
だが長年色々な人物と交渉と対話を繰り返してきた雅には慣れっこでもある。
主人公とともにいれば、否が応でも強者と会話する機会が増える。
見た目は完全な子どもなのにIQ300やマフィアのボスとも話したことがあるほどだ。
その際に大切なのは言動や態度ではない。
それは―――――
「絆、一つだけ言ったるわ。『目は口ほどにものを言う』ってな」
人の弱点ともいえる部分の一つである目。
それは表情よりも感情をより伝える。
余裕、恐怖、焦燥、驚愕、怒り、その他諸々。
雅は戦う際に必ず目を見て戦うので誰よりも人の感情の判別に自信があった。
今の絆の目から察するに感情は主に二つ。
尊敬と優しさ。
「記憶ないのは謝るけどさ、結局何がしたいん?」
「……」
雅は頭を掻きながら、絆に尋ねた。
詩依と話せば、何か絆のことについて分かるかもという考えもあったが残念ながら一ミリも分からなかった。
直接話を聞くのは躊躇われたが、もう雅は悩みの種は解決したいのである。
絆は最初は誤魔化そうと頭に手を置いていたが、すぐに観念したかのように手を挙げる。
「結構誤魔化せたと思ってたんだけどなぁ……」
「さすがに他のメンバーの前では言えないだろうから、昨日はやめたけどな」
「う、ご名答だよ。皆にも詳しく話したことないし」
絆は若干上ずったような声で言った。
しかし、すぐに顔を真面目に戻すと次の角を雅より先に曲がる。
「だからこそ……君自身に思い出してもらいたいのさ」
「ん」
絆はそう言いながら、小走りで走り始める。
雅もペースを上げて、絆についていった。
2人は通行禁止の看板を飛び越え、襲い掛かってきた野良犬を投げ飛ばす。
『封鎖地区』と書かれた鉄のフェンスを蹴破る。
人気が無くなり、車が一台も見当たらない車道を通った。
お互いに無言で、進んで、進み続けた先に一つの建物にたどり着いた。
絆は途中で急ブレーキで立ち止まると、雅の方向を向く。
「ここだよ」
「あ……」
雅は建物を見て、思わず一言漏らす。
絆は雅の表情を見て、苦笑いをする。
「ここって……」
「そうだよ、ボクたちが出会った場所はここさ」
絆は経年劣化で薄汚れた真っ白な建物を指さす。
「君も知っているだろう?錦国立病院。『洗脳事件』の時に種火として使われた場所だよ」
お互いの立場は全く変わってしまって、二人とも変わってしまった。
だが『洗脳事件』の残滓を残した地区で再び邂逅した。
相変わらず話回はgdgdですぞ!!




