隠し事
【超越者〗とは人が持つ異能、または特殊能力と呼ばれるものの最高峰である。
人が神から授けられたとされる生得的に持つ【神託力】とも、神から見放された者が扱えるようになる〖原罪〗とも違う第三の能力。
選ばれし者が逆境の果てに掴む『切り札』である。
一部の【神託力】や〖原罪〗を除き、その絶対の優位性が崩れることのないことから【超越者〗と名付けられた。
時代の変革者であれば絶対に所持している権能である。
彼の有名な騎士王アーサーならば武器召喚である【不敗の聖剣〗、織田信長ならば自己強化能力である【天落とす覇王〗を持っていた。
だが、あまりに強すぎる力は他者から疎まれ、軋轢をも同時に産む。
雅は【超越者〗発現した瞬間に見ていた黎人とフェルシアには口止めをした。
【生命狂走〗は実際に戦闘向けではないのに加え、払う代償が大きすぎる。
だからこそ、絆は一撃で隠し事を当ててきたことに最大限の警戒をした。
「…なんで知ってるん?」
「ふ…もちろんさ」
絆は雅の疑問に軽く笑うと堂々と言う。
「雅だったらもってそうだと思ったからさ!」
「……へ?」
雅は予想外の答えに思わず口を開けてしまう。
たっぷり十秒ほど考えてから雅は再び口を開く。
「じゃあ、僕が【超越者〗持ってるって他の人から聞いたわけじゃないん?」
「うん」
「うん……!?」
絆の無邪気な笑顔の発言に思わず頭を抱えてしまう。
特に根拠なく、絆は雅が所持していると思い込んでの発言だったのだ。
だが、完全に自分が先走って話し損してしまっただけであった。
(……あかん。やっぱり絆は主人公や)
雅は改めて、絆に対しての主人公としての認識を強めた。
余計なところでの鋭い直感と勝手な思い込みが黎人と同類に思ったからだ。
そのやり取りを見て、ヒラと詩依は微笑ましい目で二人を見た。
「結構喰えない人だと思いましたが、絆殿の前では無力のようでござるな」
「同じく……でも好感が持てるかもね、ヒラより」
「詩依殿は拙者に対して少し辛辣でござらないか!?」
「それはともかく」
その言葉を軽く受け流すと詩依は絆の方へと向いた。
「絆は雅に協力してもらうの?それともお留守番してもらう?」
「そりゃ無論、手伝ってくれるさ。ね、雅?」
「えぇ……」
明らかに行くことが確定した言い方に雅は顔をしかめる。
「……やっぱダメ?」
「う」
絆は上目遣いで見るので、雅は少し困った。
変人ではあるものの絆は充分すぎる程の美少女である。
それに嫁候補でなければ、雅は基本的に美少女の頼みに弱い。
(というか、結局フェルシアの頼みどうしよ……)
だが、雅的には当初の目的である下見がまだ残っている。
というか、全員の自己紹介すらまだ受けていないのに協力も何もあったもんじゃないと思うのが普通である。
しかし、すぐに逡巡は消え雅は首を縦に振っていた。
「分かったけど……他の皆の名前も知らんうちは戦えんよ?」
雅は照れ隠しに頭を掻きながら、そう答えた。
と同時にもう一つの考えが頭をよぎっていた。
(これは良い機会かもしれへんな)
ティアを守れなかった雅自身に足りなかったのは力はもちろんだが、何かが決定的に欠けていた。
『何か』と言われても具体的なことは分からないが、絆たちを守り、ともに進むことで見つかるかもしれないと考えたのだ。
「ありがとう!これから雅も僕たちの仲間だよ!!」
「分かった」
絆が笑顔でそういうのに対して、雅はぶっきらぼうに絆の言葉をかえした。
「じゃあ、みんなで歓迎パーティだよ!みんな盃をもてーい!!」
「…とりあえず固まっている皆をどうにかしない?」
絆がコップを掲げて騒ごうとした矢先に詩依から鋭いツッコミが入る。
ヒラがそれを宥め、焦げ茶髪の少年や金髪の少女が雅へとさりげなく挨拶をする。
しばらくして、半ば強引ながら歓迎パーティが開かれた。
雅も聞きたいことはたくさんであったが楽しむことを優先することにした。
その最中に固まっていた少年の一人の料理がおいしかったり、絆の作った料理の味が無だったり色々あった。
どこか懐かしい空気を楽しみながらパーティは一日中続いた。
雅には絆の本当の真意は分からない。
彼女にとって、自分とはどのような存在なのかすら定かですらない。
だけど、もう一度固まった時間を動かしてくれるのは絆しかいない、と雅は思った。
苦い記憶を塗りつぶすような甘さを今だけは――――――
◇◇◇
雅たちが絆たちと和気あいあいとしている間にも裏は動く。
偵察役の少年は自らの上司とともにデジタル資料を眺めていた。
一緒とは言っても、少年はクマのぬいぐるみと共に喋っているだけであるが。
「社長、新しく一人仲間に加えたので資料見といてくださいね」
『ああ、ご苦労だった……ってこんな大物を捕まえてきたのか!?』
「彼自身が望んで仲間になってくれたので楽でしたよ」
少年は楽しそうに社長に応えた。
ぬいぐるみのスピーカーの奥から唸るような声が聞き、少年は言葉を続ける。
「計画の前倒しの件も考えてもらえませんかね?」
『不可能ではないが……それでも一ヶ月程度しか早まらんぞ?戦力はまだ不足気味なのだからな』
「そう言うと思って、次のスカウト候補選んどきましたよ」
少年は残念がる様子を一切見せずにタブレットをスワイプさせて、人物データを送る。
そのデータを見て、社長は皮肉気味に少年に言った。
『は、また主人公を引き入れるつもりなのか?』
「いまさらでしょ?」
『まあな。でも今回は貴様に一任するぞ』
社長は電話を切る直前に思い出したかのように少年に言った。
『あ、もし手に余るようならば若菜を使えばいい』
「あざっす」
『仕事熱心なのもいいが、貴様にも生活があるからな。ほどほどにやれよ』
社長は少年を諭すように言うと、そこで音声は途切れた。
やや爺くさい台詞に少年は苦笑いする。
「悪の親玉が何を言ってんだか。まぁ―――――」
少年はソファーに座ると改めてタブレットを開いた。
そして、標的である人物名を見て顔をしかめる。
「――――今回はきつそうな戦いになりそうっすね」
『旋風絆』、『隠野詩依』と書かれたファイルを見て、少年はボソリとつぶやいた。




