憧れ
「ということで今日はここまでかな?」
キズナは〖原罪〗使いが動かなくなったことを確認する。
そして剣を左右に振り払うと手元から消滅させた。
ついでに羽を体の中に格納する。
「ごめんだけど、後はよろしくね」
「わーったよ、嬢ちゃん」
「じゃ、いこうか雅」
「う、うん」
そして警察に一声かけると、キズナは雅の手を握って歩き始めた。
雅は勢いに乗せられたまましばらく進んでいたが、すぐに手を振り払った。
「って、ちがーう!?」
「え?」
「『え?』やないよ!?助けてくれたんはありがたいけど、ツッコミどころおおすぎやねんけど!?」
戦いの処理は、警察の方もキズナという少女が常連のようで完全にスルーであったことは認めよう。
戦闘が強いことも別にツッコミを入れる気はない。
だが、諸々を引き抜いても手が足りない、主に気持ち的な意味で。
まず名前もキズナしか聞いていない上に、いきなり何処かに連れていかれてそうになっている。
その上雅の名前を知っており、厨二ネームのような昔の通り名まで知られていた。
確かに美少女であり助けてくれた人物であることは確実だが色々ぶっとんでいた。
主に説明とかを重点的に行ってもらいたい雅である。
「う~ん、一緒に来てもらえたら説明が楽なんだけど」
「楽!?楽だからなの!!?」
まるで街頭アンケートのような手口である。
そのまま商品を買わせようとするのじゃないかと雅は思わず身構えてしまう。
「もー、とりあえず来て!!」
キズナは無理やり手を引っ張ると街のさらに奥へと進んでいく。
人の多い街道を抜け、猫たちがのんびり佇む住宅街を通り、さらに進む。
雅ですら全く知らない街並みに驚きながらもついていく。
「ほんまに何すんねんよ……」
主人公の友人なので突然の状況には慣れているが、あまりの強引さに若干雅は嫌になっていた。
しかし同時に既視感が雅の中で湧いていた。
(……あぁ、そういえば昔もそうだったな)
ティアに色々な場所に強引に振り回される日々。
よく分からない人物を紹介されたり、見たこともない建物の中に探検したりした。
あまりの酷さに腹が立ったり、むくれたりした。
当然黎人ともそれぐらいのことはしているが、だが本当に嫌な時は逃げることができた。
ティアの時は逃げることすら不可能だった。
……それはさておき。
「着いたよ、ここがボクたちの家だよ」
少し得意げに自慢げに言うと先に家に入る。
そして雅はキズナにされるがままに大きな家に着いた。
◇◇◇
「ただいま!!」
「おか…え……?」
リビングのドアをキズナが勢いよくあけると、そこには五人ほどの少年少女が思い思いに寛いでいた。
キズナが入ってきたのに対して全員が顔を上げる。
注目が完全に集まったのを理解すると、キズナは口を開いた。
「前にボクが言ってた人の雅だよ!!今日から仲間だからよろしくしてあげてね~」
「……」
キズナはリビングに雅を引きずるとその場にいた人たちに自己紹介を行う。
二人を除いて、雅の登場に口を開いたまま固まってしまった。
沈黙は気まずかったので雅は簡潔に自己紹介を行う。
「あ、はい。ご紹介にお預かりいたしました雅です」
「……よろ」
鋭利な目つきの黒髪の美少女が自己紹介に対して、小さくお辞儀をして返した。
もう一人の固まっていない、オレンジ髪の眼鏡少年が気さくに挨拶をする。
「あなたが雅殿でござるか~。拙者、平鏡でござる。気軽にヒラとでも呼んでほしいでござる」
「ああ、よろしく」
雅はヒラの完全なオタク口調に少し笑みを浮かべた。
どちらかと言えば、雅もアニメやゲームは好きなタイプなのでオタクっぽい人間はリア充よりも好ましい印象を受けるため、警戒心を一瞬で解いた。
単純に仲のいい友人に雰囲気が似ているのもあったのだろうが。
まぁ、雅が幾ら良くても突然来られた側はたまったものではないようだ。
他の人たちは未だに頭の整理がついていないのか、固まっていた人同士で話し合っていた。
『頭が固い=真面目なタイプ』なので後々分かってくれると雅は信じることにした。
また沈黙が始まりそうなところで、黒髪の美少女は再び口を開いた。
「キズナ」
「どうしたの、̪シヨリ?」
「何時も言ってるけど、ちゃんと説明した?」
「あっ!?まだだった!!」
シヨリと呼ばれた少女の問いにキズナは今気づいたかのように驚いた。
圧倒的に遅い気付きに思わず雅は目を細める。
(というか、さっき説明してって言ったんやけど!?)
という言葉は胸にしまっておいた。
だが、さすがに雅はシヨリの言葉を受けキズナに追い打ちをかけていく。
「……ついでにキズナさんのフルネームすら聞いてないんだけど?」
「はぁ……」
シヨリはため息を吐いて、キズナの方をジロっと睨む。
「むぅ、キズナ。これだから……」
「す~す~」
キズナは鳴らない下手な口笛を吹きながら誤魔化していた。
それに対してシヨリという少女は持っていた本を閉じて、お一人様ソファーから立ち上がると自己紹介を行う。
「私の名前は隠野詩依。趣味は読書と人間観察だからよろ……ほら」
そのままシヨリ……もとい詩依は肘でキズナを突いて促す。
「全然説明してなかったし、自己紹介もなくてゴメン」
軽く頭を下げると、キズナはキラキラとした目を向けながら自己紹介を行った。
「ボクの名前は旋風絆!呼ぶときは絆でいいよ!!」
「う、うん」
絆が雅と目と鼻の先で話すものだから、思わず身を引いてしまう。
そんなことを一ミリたりとも気にせずに絆はさらに近づく。
「あ、あとあとボクのこと覚えてない?」
「絆の事を?」
「そうだよ!!」
必死な顔で絆は雅に目を合わせるので、仕方なく腕を組んで考える。
だが、雅は記憶をたどって思い出そうとするが全く身に覚えがなかった。
ここまで印象的な少女であるならば、雅の記憶の意図に引っかかるはずである。
強さも今まで見てきた『英雄』に匹敵するほどの実力者。
分からないはずがないのだ。
「……本当に出会ったことある?」
「あるよ!?もう少し頑張ってよ!?」
雅は3秒だけ考えても思いつかなかったら即諦める主義の男の娘である。
深く考えれば沼にハマるだけなのもあるだろうが。
その中ヒラが途中で会話に割り込んだ。
「ふむ。絆殿は説明がヘタクソなので拙者から尋ねるが貴方が絆殿が言っていた『ヒーロー』なのではないのは?」
「ヒーロー?」
雅は怪訝な様子で聞き返すとヒラは頷く。
「絆殿はよく自慢として雅殿の事を話されるのだ」
「……いえぁ。今こそ話すべきなんじゃない?」
ヒラと詩依がそう言うが絆は子どもみたいに不満そうに口を尖らせる。
「いや、やっぱり気づいてもらうまで言わない。なんか納得いかないし」
絆はそう言うと空いていたもう一つのソファーにどっかりと座り込んだ。
そのまま雅に座るように手で促す。
「……出会いとかは後で良いとして。そもそも君がまず疑問に思うことから答えるよ」
「うん」
雅自身が気になっていたことだ。
何故絆は雅を仲間として欲したということだ。
もっと言えば、仲間ならば必ずしも雅である必要はない。
「ボクたちは必要としていたんだ」
絆は自らの開いていた手を静かに握りしめた。
「【超越者〗を使える人を、世界の理を覆す人をね」
「それが僕って言いたいん?」
「うん。だって雅は――――――」
絆は悪戯っぽく笑い、雅が予想だにしない言葉を発した。
「―――――【超越者〗が使えるんでしょ?」




