テンプレ主人公の友人枠
―――ふと目が覚めると、黎人は病院のベッドの上にいた。
「っ……どこだよここ」
全身を苛む痛みに耐えつつ、体を起こして直前のことを思い出す。
白銀の髪を揺らしながら全力をぶつけてきた雅との死闘。
「確か俺は雅とサシで戦って……負けたのか」
【超越者〗を持った雅に圧倒的な敗北をしてしまったのだ。
そのあとから記憶が黎人には全くなかった。
気を失ったからであろうか。
黎人が必死に記憶を手繰り寄せようとしていると、病室のドアがガラッと開いた。
そして、一人の医師が黎人が起きているのに気付いて声をかける。
「やぁ、天賦君。目が覚めたかい?」
「あんたは……?」
「私は医師免許はないが口は堅い医者だ。 ちなみに君の容態も分からない」
「ただのヤブ医者じゃねーか」
黎人は思わずツッコミを入れてしまう。
ヤブ医者は再び口を開く。
「とりあえず知り合いに君の友達たちを入院させている。 ある程度怪我が治ってからではないと駄目だがね」
「……友達―――フェルシアは!? あいつは今どこに!?」
「残念なことだが―――」
「ッ」
黎人は雅に負けた。
そして負けたということは真実はきっと一つなのだろう。
『君の友達たち』と言った時点で気づくべきだったのだ。
もう、この世界にはフェルシアは――――
「―――」
「―――なんだ、って天賦君!?」
黎人は医者の話を聞かずに病室の窓を突き破ると、外に出た。
病室の場所は地上から五階であったが黎人は【勧善懲悪英雄】で体を強化していたので無事だった。
「―――ぅ」
外に出ると、丁度春の嵐でもあったのだろうか大雨へと天候が変わっていた。
その中で黎人は街のネオンカラーが光る街並みを駆ける。
誰よりも早く追いつかれないように。
「―――俺のせいだ」
走りながら手で黎人は涙を拭う。
しかし、一向に涙は止まろうとしない。
「ちくしょうちくしょうちくしょう」
ズキズキと痛む胸を抑えながら、何もかもを壊したい衝動を抑えながら。
黎人は走り続けてとうとう海が見える崖にまで走りついてしまった。
「こんなとこまで何で走ってきたんだよ、俺」
そこはフェルシアに教えた黎人のとっておきの絶景スポット。
綺麗な朝日が昇ることで有名な場所である。
デートの帰りに寄った時に教えたら、「朝に教えてほしかったですわ」とか文句言われながら。
アホな自分に呆れかえりながら黎人は雨の中で崖の端っこで膝をつく。
「フェルシア、本当に俺は約束を一個も守れなかったな」
墓標も何もないが、黎人はうな垂れながら懺悔する。
「俺はお前を守って見せるって言ったけど、結局連れ去られちまうし」
ザクザクと遠くから地面を踏む音が聞こえたが黎人には全く聞こえなかった。
「フェルシアを救って見せる! って言ったけど雅に負けちまったしなぁ」
黎人にとってあまりにも予想外だったのが雅の余りにも強すぎる力。
呪いによって力が半減されていたと言えども、押し負けてしまったのだ。
「何が最強の神託力だ。何が英雄だ……くだらない」
タッタッタとリズミカルな感じで黎人に向けて何者かが走り出す。
「力が幾らあっても救えなければ意味ないじゃねぇか!!」
「……そんなことありませんわ」
「!?」
突然、黎人の横に全身ローブの少女が現れる。
少女だとわかったのは、声の高さからである。
黎人は今までの発言を聞かれていたのかと顔を強張らせる。
しかし、少女は全く気にせずに黎人に質問をした。
「神託力なんて所詮はただの力。 本当に人を救うのは心ではないのですか?」
「違う! あんたに何が分かる!! 俺は、俺は――仲間をッ!!」
黎人は激昂して少女の胸倉を掴み上げる。
少女は黎人を見て悲しそうに表情をゆがめる。
「わ、わるい」
「いいえ、構いません。 いつも強い貴方でも弱い部分があったのですね」
そっと少女は黎人を抱きしめると、頭を撫でる。
「貴方が自分の持てる全てを投げうって、私を助けようとしてくれたのは知ってます」
「……え? あんた、もしかして―――――」
黎人が顔を上げると少女はフードを外す。
フードの下にいた一人の少女は―――――
「―――フェルシア!?」
「サプライズで入院しているところに行ったら医者さんが慌ててるのに驚きましたわ」
「は? 何で生きてるの!?」
黎人は目を白黒しながら自身の頬をつねったり、顔面を殴ったりする。
だが、全く目の前の光景が変わることはなかった。
その様子にフェルシアは口を手で軽く抑えると、眉間にしわを寄せる。
「私を死人のように見ないでくださいまし。 実際に生きてますわ」
「ほんとにか!?」
「ええ―――って何処触ってるんですか!? この変態!!」
フェルシアは平手打ちを喰らわせる。
理由は黎人が左胸に手を当てて心臓が動いてるか確認をしたためだ。
これはフェルシアにしか義はないだろう。
いや知らないが。
「……全く、どさくさに紛れて変態行為に及ぶとは。 脳みそがポップコーンなんじゃありませんか?」
「アメリカンなジョークはやめてくれ……」
左頬に大きな青あざを負いながら黎人が言った。
「……どうやってあの状況から生き残ったんだよ?」
黎人の問いにフェルシアは複雑そうに言う。
「――――あれは雅さんのおかげです」
「雅の?」
「ええ、彼が私の命を繋いでくれたんです。 実は―――」
ポツポツとフェルシアは真実を語りだす。
◇◇◇◇
フェルシアが小さな音をたてて、床に倒れこんだ。
同時に命を燃やし尽くしたように徐々に体が崩壊し始めた。
「さて、まだ意識残ってるうちにやれることやるかぁ」
その時に雅は【生命狂走〗を維持したままフェルシアの元へと歩いた。
フェルシアはもうピクリとも動かず、足の先のほうが消えていた。
「やっぱり神託力の過剰行使が原因による体の崩壊か」
雅は専門家ではないから詳しくは知らない。
だが、神託力は自身のもつ手や足と同じく限界というものがある。
重たすぎるものをもったりして、腕の筋繊維がちぎれたりするのと同じ。
肉体の場合は多少壊れてもしばらくすれば自然治癒できる。
だが神託力に至っては別で、精神や魂にもダメージが蓄積していく。
精神はまだしも、魂に一定期間にダメージを負いすぎると消滅してしまう。
魂が消滅をしてしまえば当然死ぬ。
死に方は一番きれいだと言われているが、雅は嫌いである。
「もしかするとティア姉がこう死んでしまったかもしれないからな」
ポケットに手を突っ込みながら口汚く罵る。
ちなみに酷すぎたので完全に会話内容はカットだ。
わざわざフェルシアの前に来たのは一応策があるからだ。
「生命よ――狂え、惑え、抗え。 【生命狂走〗」
左手でフェルシアの肩に触れると【超越者〗を発動させる。
フェルシアの消えそうな種火の掌握権を握る。
正確に言えば、体のコントロールできる権利を手に入れたといってもいいだろう。
だが、ソレ単体では命を燃やして体の強化しかできない。
死にかけのフェルシアには意味が全くない。
だからこそ―――
「さて、鬼が出るか蛇がでるか―――――【全能力制御】」
右手で【神託力】を発動させて、フェルシアの体の能力を制御する。
だが、
「なんじゃこりゃ!? ステータスが狂ってるやん!?」
雅が驚くほどに生命力が底辺にまで落ち込んでいたのだ。
他の能力値も急激に低下しきっている。
唯一、残っているのは――――神託力の力のみである。
今はそれすらも降下中である。
「やるっきゃねぇ!!」
雅はとりあえずフェルシアの神託力以外の力を全て生命力に全振りする。
その瞬間に体の崩壊は止まった。
だが、
「ぐふぅ!?」
雅の頭に凄まじい頭痛が襲う。
その場に立っているのが苦痛なほどだ。
「あっぐふ……」
なんとかよろめく程度で雅は踏みとどまる。
「あと一工程しないと……フェルシアが助からない」
魂が削れる感覚を感じながらも、雅は神託力を生命力に完全に振り切る。
雅は全ての工程をし終えると、頭をおさえながら蹲る。
「うお……頭千切れる」
という一言を残して気を失った。
それがことの顛末である。
◇◇◇
「ということらしいです。 私も聞いただけなので方法は本当かどうか知りませんが」
「そういうことだったのか」
フェルシアの説明に黎人は何度か頭の中で考えを巡らせて結論を出す。
「結局今回は雅の手柄だったって訳だな」
「ん~、何とも言えませんがね」
「で、張本人がどこにいるか知らないか?」
「ちゃんとした病院に行ったはずですが……今から行きますか?」
黎人はフェルシアの言葉を聞いて一瞬考えたが、すぐに首を振る。
「いや、今すぐじゃなくていい。 ただ謝らないとな」
「ほかの皆さんも巻き添えにしかけましたしね……土下座で済めばいいですが」
「うっ」
「冗談ですよ。たぶん一人一発で済みますよ」
「殴られる前提!?」
ぎゃーぎゃーと二人でしゃべっている間に雨も止んだ。
突然フェルシアが指をさす。
「黎人さん見てください!」
「何? あ―――」
雨が上がった直後に朝日が丁度フェルシアたちの前に姿を現したのだ。
スーパーグッドタイミングな状況に思わず黎人は拳を握りながら笑う。
「綺麗な朝日だな」
「否定はしませんわ。 ずっと見ていたい……そんな気もします」
朝日をバックに二人は向かい合う。
フェルシアは太陽を背に黎人に向かって優しい笑顔でいう。
「黎人さん――――目をつぶってください」
「―――え?」
◇◇◇
その様子を見ている2人の姿が崖近くの森にあった。
隠れながら少女が少年に語り掛ける。
「ミー兄、あの二人超ヤバい。 もう今にも、だね!!」
「何言っとるんやら……あんなん見て何が楽しいん?」
少年こと雅は興味なさそうに、というか嫌そうに黎人達を見ていた。
「男女の幾つもの試練を乗り越えて得られた『真実の愛』みたいなのって燃えない?」
「黎人の恋に『真実の愛』があったのか……」
たくさんの奴に浮気してるくせに……と雅がぼやく。
さすがの凛化も擁護する気はないのかサラッと受け流す。
「さすがの私も死ぬかと思ったね。今回ばかりは」
「上に同じく。黎人の強さは飛びぬけてるのが再認識したわ」
「私その上死亡フラグ立ててたし」
「何したんだよ……」
死亡フラグをたてる勇者である凛化は続けて言う。
「いや、よくある『~が終わったら結婚するんだ!』ってことしてみたんだ」
「それでこのザマか」
「言わないでよ……」
雅が辛辣なツッコミをすると、凛化は拗ねる。
と同時に雅の頭に疑問が浮かぶ。
(凛化って誰好きなんやろ?)
雅は思ったことをそのまま口に出してみることにした。
「凛化」
「な~に?」
「お前って誰が好きなん?」
「ブフォ!?」
凛化は雅の質問を聞いた瞬間に飲んでいたジュースを吹きかける。
そのせいで雅の服はびしょびしょになってしまった。
まぁ、雨が降ってたから元から濡れてたけども。
「きったね、何すんねん!」
「だだだだだだ、だってミー兄が変なこと言うから!!」
凛化が顔を真っ赤にして手を横に振った。
雅はその様子をみて、ため息一つつく。
「……ま、そんなんプライバシーやし。聞かんとくわ」
「あ、うん……」
雅が質問を切ると、凛化は名残惜しそうに手をポケットに入れる。
とそのときに黎人達の状況が動いたようだった。
「よっしゃー、見るぞぉ!!」
「はいはい、分かりました」
凛化の興奮する声と雅のめんどくさそうな声があたりに響いた。
一章完結です!!
読んでいただきありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!




