最弱が最強を超える
「結局は自分の体を削ってでしか攻撃ができないくせに!
前々から思ってたんだ、お前はなんでもかんでも抱え込んで!!
全てが無に帰っても無茶苦茶やって……本当に何がしたいんだよ!!!」
黎人が左手に持っていたP90を片手で連射をする。
雅はそれに対して徒手空拳で銃弾を体に当たりそうなものだけを弾き飛ばす。
何発か体に掠っていたものの気にしてなどいなかった。
「そりゃあ僕は弱いわ。身を粉にしようが肉片になろうが、助けれるのは一握りってのは知ってる」
黎人から無言で銃弾や砲弾がノータイムで放たれる。
さっきまでの手加減とは全く違う殺意の塊。
だが、
「【生命狂走〗――――≪刃化≫」
迎え撃つ雅の一撃で全ての攻撃が切断された。
最大まで強化された黎人の攻撃全てをだ。
「なっ!?」
さすがの黎人も目を剥いて卒倒しそうになる。
「お前なんで力がそんなにあるんだよ!?」
「何言ってるん? コレはお前と同じものだよ」
雅は焦った表情を見せる黎人に対して鎧を指さす。
黎人の顔に疑問符が一瞬浮かんだが、すぐにハッと気が付く。
「まさか……お前!?」
「そう。お前の【神魔超越〗と同じだよ」
生まれもって身に宿される【神託力】。
自分の本性を受け入れた時に表層化する異能力である〖原罪〗。
両者とも混じりあうことなど普通はありえない。
聖者と愚者。
水と油のような関係である。
しかし雅は現在、己の持つ全てと向き合うことで会得したのだ。
世界でトップクラスの存在価値を持つと言われている最強の力。
その名も―――
「――――【超越者〗」
何者にも敵うことを許させない最強の異能力。
雅は神託力の完全なる真髄にまで到達しようとしていた。
「それでもっ! 結局は俺の神託力に勝てるほどの力はないはずだ!! 今更、力が増えたところで俺を超えるのは不可能に決まっている!!!」
黎人は必死にそう言い聞かせるようにそういった。
そして数千もの砲門を雅に向けて展開する。
一つ一つが雅の命を刈り取るには十分すぎる程の殺気を放っていた。
「残念やけど負けるつもりは―――――ない」
雅は落ち着いた声音で言う。
その瞬間に雅の姿が黎人の視界から完全に消失する。
「今回だけは勝つってか? 絶対に負けるもんかぁああああ!!」
黎人がすぐに雅の位置を目で追うと、追尾型の武器で攻撃する。
しかし、爆発を置き去りにして雅は黎人にめがけて駆ける。
「―――」
雅は静かに黎人の攻撃初動を見ると最小の動きで躱す。
無駄のない動きで黎人への距離を堅実に詰めていく。
さながら機械のような動きに黎人は呼吸が浅くなる。
「燃えろッ、≪”堕天神炎へパイトス”≫!!」
数メートルまで近づいてきた雅に向けて、宙に浮いている全ての銃から蒼炎が放たれる。
万物を喰らいつくす原初の炎が襲い掛かる。
〖原罪〗を完全に使いこなしたザリグナを糸も容易くねじ伏せた一撃を、雅は―――
「やっ―――――は!?」
―――真正面から炎に突っ込んで無傷で雅の真正面にまで辿り着く。
「―――こんな弱攻撃如きで倒せると思ってるん?」
驚愕の表情が張り付いたままの黎人に向けて、神速の剛撃が直撃する。
あまりの速さに黎人は持っていた剣の腹で防ぐことしかできなかった。
雅の一撃が入った瞬間に、
「がぁあああ!?」
黎人は自身の骨が全て外れたんじゃないかと思ったほどの衝撃を受けた。
そのまま空中に放り出される。
暗転しそうな視界を無理やり抑え込み、黎人は宙に浮く銃を使って態勢を整える。
その時に黎人の視界の端に疾走する一人の男の娘。
「こっちに来るな、来るんじゃねぇええ!!」
いつの間にか黎人の中には余裕という物が全くなくなっていた。
黎人は剣の切っ先を雅に向けて吠える。
「神撃魔討ッ!!」
紫雷が雅を喰らいつくさんと形を変えて大きな口を開く。
雷が剣から前方範囲にあらゆる方向、角度を縫って進む。
絶対なる必殺技を前に雅は一旦足を止める。
「……ホンットに頭おかしいんちゃうん? これ躱したら後ろの皆に直撃するやん」
≪神撃魔討≫を躱すことは今の雅にとっては充分余裕であった。
だが、そうは問屋は卸さないとでもばかりに背後に水瓜と捲がいた。
回避は不可、防御は無効、でもこの攻撃力は尋常じゃない。
それに対する有効解はたった一つ。
攻撃を相殺、もしくは超越すること。
「【生命狂走〗――――≪一年≫」
雅の左胸あたりから光が流れ出し、全身を包み込む。
その瞬間に雅の全ての力が急上昇する。
――――この能力は雅自身の命を加速させることにより、一時的に強化するというものだ。
正確に言えば命を削って強くなる、バーサクのようなものだろう。
「はぁはぁ」
雅は全身を襲う寒気と痛みに耐えながら、全身に廻る力を右手に集中させる。
一年の寿命の消費に伴う体の不調を無理やり無視して雅は全力で迎え撃つ。
そんな時に思い出すのはティアが聞いてきた質問だった。
『―――雅は死ぬのは怖いか?』
「あぁ、確かに怖いな。でも無理だ」
雅はもてうる限りの力を込めて、叫ぶ。
「大切なもんを一つたりとも失ってたまるものかぁあああああ!!」
白銀の雷が雅の右腕を覆い、余波のみで辺りの地面を穿つ。
そのまま雅が右腕を前に出す。
「≪雷銀槍≫!!」
雅の一撃が暴虐なる紫雷と激突する。
全てを飲み込もうとする雷にたいして、白銀の一矢は貫こうとせめぎ合う。
時間にしてたったの一秒。
戦闘をしている二人にとっては何時間にも等しい時間で、均衡が崩れる。
白銀が黒を塗り替えた。
正確に言えば、神撃魔討を正面突破して雅は拳を振り切った。
「なっ!?」
黎人も全く予期していなかったのか、その場から動けなくなった。
動けない黎人に強烈な風が吹き付ける。
否、≪雷銀槍≫による風圧を顔に直撃したのだ。
その様子に雅は軽く舌打ちする。
「あーもー、まだまだ攻撃力は低いわ」
「へ?」
雅の言葉を黎人は全く理解できなかった。
いや、理解したくなかったのだろう。
「だ~か~ら、黎人は弱すぎやねん」
「違う違う違う! 絶対に負けないんだ!!」
自分のある一つの考えに達した瞬間に黎人は恐慌状態に陥る。
黎人は銃を剣に変換すると雅に特攻する。
「うあぁああああ!!」
主人公が二刀流になって、剣を振り下ろす。
友人は紙一重で攻撃をよけて肘鉄を叩き込む。
剣から最大火力で辺り一帯を焼け野原にする。
雅は全身を鋼鉄化して攻撃を無効化して、火元である剣を掴むと叩き折る。
眼から闇と光の混合させたレーザーを放つ。
友人は拳で全て受け流す。
どれだけ破壊能力があろうとも。
魔王と呼ばれるクラスの最強の〖原罪〗を倒した英雄であったとしても。
最強の全てを最弱が穿つ。
「そんな……馬鹿な」
「何があってもこれが現実や、諦めろ」
黎人は否定したかった。
自分のやっていることは間違いではないと。
しかし、雅は黎人を完全に拒絶する。
それでも―――
「――――ふざけるな。約束したんだ……絶対にアイツを幸せにしてやるって」
「そっくりそのまま言葉返したるわ。お前はなにもわかってへん」
雅は怒りを含んだ声で黎人に表情を見せる。
黎人も素直にそれを受け止めて、首を横に振る。
「まだ切り札ものこってるんだよっ!!」
黎人は神撃魔討を再度撃つ構えを見せる。
「切り札、か」
雅は億劫そうにめんどくさそうに黎人に向けて言う。
その表情はただただ嫌そうだった。
だからこそ―――
「終われ」
雅は黎人に即座に肉薄すると白銀の雷を素早く腕にまとわせる。
「は!?」
黎人は準備を進めていたので反応が完全に遅れる。
「≪雷銀槍≫」
「ぐはっ!!」
本日二度目の雅の出せる最高火力が無防備な黎人の体に突き刺さる。
黎人はなすすべもなく昏倒した。
意識などないだろうが雅は思わず黎人に愚痴る。
「だれが必殺技待ってあげるか、アホ」
雅は腕を右に軽く振って、雷を火のように消す。
戦いの終わりにしては、あまりにもあっけない終わり方であった。
得てして主人公と友人の喧嘩などこんなものである。
甲高い金属音をたてて黎人の装備が光の粒子となって消えた。
それが合図であったかのようにフェルシアを囲っていた檻が完全に消え去る。
「気分はどう? 囚われのお姫様」
「……素直に感謝したくはありませんが、ありがとうですわ」
「まぁ、複雑な気分なのは僕も一緒やけどな」
雅の皮肉に対して、フェルシアは静かに返す。
そしてお互い顔を合わせてため息一つ。
「―――ですが、これで皆さんの命を救えるのであれば安いものですね」
フェルシアは黎人に近づくと、傍で腰を下ろす。
雅はそれを見ながら何もせずにその場で座り込む。
まぁ、体を動かすのが限界を迎えていたのもあるが。
「本当にいいのか? 今なら僕を倒せば逃げれるぞ?」
茶化すように雅が言うとフェルシアは憤慨する。
「くどいですわ。 私に心残りなんてないですわ」
「そう」
「……」
とは言いながらもフェルシアは黎人の周りでそわそわしていた。
(絶対に心残りあるじゃん)
とか雅は思ってしまったが華麗にスルーしてあげるのが友人である。
精々できることは、これから死ぬ者に対しての餞だろうか。
「あー、眠い。僕は寝るから何してても絶対にきづかんやろなぁ~」
「……(腑に落ちませんわ)」
ワザとらしく雅は体を横にして、フェルシアと黎人から目線を外す。
目線の圧力のようなものを雅は感じたが気にしない。
―――無言の約15秒が過ぎる。
やることやったフェルシアが口を開く。
「雅さん、もういいですわよ」
「――zzZ」
「……本当に寝る人っているんですわね」
呆れかえったフェルシアは雅をそのまま起こそうとせずに神託力を起動させる。
解呪のスキルを発動させつつ、今までのことを思い返す。
自分の祖国でのできごと。
大切な友人の死。
死んだのは全ては何もできない自分のせいだと思った。
もう他人とかかわるのはやめようと思い過ごしてきたのだ。
でも、高校に入ってから360度変わった。
誰のせいかと言われれば、天賦黎人以外の何物でもない。
……着替えは覗く、風呂には入ってくる、胸は触る。
常識人としては大変底辺なドクズ野郎だと思う。
でも、フェルシアを何時でも本気で思ってくれていた。
上辺だけの関係ではなく、いつも全力で接してきた。
冷たくあしらっても、靴を舐めろと言っても頑張っていた。
(あぁ、私は黎人さんのことが――――)
解呪の魔法陣が完成した瞬間に心が急に苦しくなる。
何らかの疾患ではない。
それはフェルシアの中で芽生えた一つの感情。
言葉には出さずに胸にしまいこんでいたもの。
でも、今はそれだけは言いたい。
「―――大好きでした」
フェルシアはずっと胸につかえていた言葉を形にすることができた。
感動的なシーンではあったが、
「ぷ、ククク」
小さな笑い声が静かな部屋に鳴り響く。
フェルシアは眉間にしわを寄せて、発生源に向けて炎を飛ばす。
「―――えい」
「ちょ、あぶ!?」
その張本人である雅はアクロバットに炎を躱す。
雅はさぞかし怒ってるんだろうなぁとか思いながらフェルシアの方を見ると、
「最後の最後まで貴方達は……本当にバカですわ」
「いや、ごめん……」
泣きながら雅を見ていた。
さすがの雅も悲しい雰囲気ではなく怒ったままが良かったなぁとか思ったり。
「でもわたくしそんなバカな会話は結構好きでしたわよ」
「……フェルシア」
「だからこれが最後」
フェルシアはニッと顔を笑顔にすると解呪の魔法陣を起動する。
「今までありがとう―――そうお伝えください」
フェルシアは涙を手で拭うと神託力を発動させる。
部屋全体に金色の波動が包み込む。
同時に水瓜や凛化の表情が完全に和らぐ。
黎人の体に鮮やかに浮き出ていた文様も完全に消え去った。
そして、パタンと一つ何かが倒れる音を残して全てが終わった。
まだ一章続きます!!




