神魔超越
バカの一つ覚えのように数多の酸弾が黎人にめがけて放たれる。
しかし、黎人は静かにその場に立ったまま指を鳴らす。
「全て撃ち落としてやるよ」
そういって、背中の小型バックパックが開いてミサイルやグレネードが数百と放つ。
爆発が全ての酸弾を無効化するが、ザリグナが爆風を無視して距離を詰めると腕を振り上げる。
「テンプレイトォオオ!」
「ふん!!」
黎人は頭上から降り注ぐ剛腕を盾で受け流し、剣を使い横一文字でザリグナを斬る。
一撃で胴体が真っ二つになるが、すぐに上半身と下半身がくっつく。
黎人は強張りそうになる表情を必死に戻す。
「だったら! これならどうだぁああ!!」
「!?」
黎人が目にもとまらぬ速さで剣を上下左右に振る。
一瞬でザリグナのサイコロミンチができあがったが、それでも再生は止まらずに寧ろ加速する。
黎人が再生しかけている体に取り込まれそうになったほどだ。
「っと! なんでこんなにしぶといんだよ!!」
さすがの黎人もあまりの耐久力に焦りを隠せない。
だからこそ隙が一瞬できてしまった。
ザリグナの体が再生しきると同時に全身が徐々に硬質化していったのだ。
慌てて黎人は斬りつけるが鈍い音ともに完全に弾かれてしまう。
「フェルシアを覆ってた水晶体と同じやつなのか……!?」
唯一似ていた物質なのはそれしか思い浮かばなかった。
ザリグナは毒や酸、呪いと言った能力を扱う能力だと思っていたが黎人は考えなおす。
しかし、やっぱり考える暇などない。
ザリグナの全身が刃物のようになったため、鎧では防御しきれなくなったからだ。
「ッッッ!」
「マダマダデスネェエエ!」
ザリグナの成長が止まり、体が徐々に小さくなり元のサイズに戻り始めていた。
体のサイズは小さくなるのに攻撃のバリエーションは増え続けるという悪質な強さである。
黎人は硬質化による近接攻撃と毒弾という中距離、酸弾の遠距離に徐々に押される。
「お前は一体何がしたい!」
「ワタシは世界を変えたいだけです、差別のないね!」
「こんなことしてる癖にかよ!!」
黎人の剣とザリグナの腕が何度も交差し火花を散らした。
数多の銃弾が酸弾を穿ち、毒弾をキャノン砲で押し返す。
ザリグナと黎人の攻撃が乱れ飛び交うなかで、剣戟の音で消えるような声の大きさで会話を続ける。
「あなたには分からないかもしれませんがッ、神託力のせいで全てを失った者がいることを!」
「だから!?」
「そうなった方に対する救済ですっ! この腐った世界をぶっ壊してやりたいのですよ!!」
「んなもん―――」
ザリグナは激情を吐き出しながら、水晶体をハルバート型に生み出して投擲する。
対して、黎人はいったん言葉を切り、数歩後退するとバックパックからグレネードランチャーを取り出すとザリグナに向けて放つ。
「てめぇの勝手な妄想じゃないか!」
「だとしても、ワタシは止まるつもりなど毛頭ありません!」
大爆発が周囲を照らすが、爆発を無視してザリグナは一直線に黎人に襲い掛かろうとする。
しかし、黎人の準備はとっくに完了している。
「≪”堕天神炎”≫」
黎人の剣が全長2Mほどの長大なライフルに変化し、全身の重火器は全てザリグナに向けて銃口を向ける。
「燃えろ」
黎人の一言で全身の銃やバズーカが一斉砲火される。
銃口から放たれるのは弾ではなく、何物をも喰らう蒼炎。
ザリグナは躱す暇もなく炎をまともに受ける。
「コンナモノ痛クモ痒クモッ!」
「そうか、なら」
仰け反りながらもザリグナが酸弾を放とうとすると、黎人がパチンと指を鳴らす。
すると、ザリグナの体の内側が瞬時に燃え上がる。
「こんなことしても大丈夫だってことだな?」
「ァアアアア!」
大火傷を負っても尚ザリグナは全身を怪しく光らせて黎人に必殺の一撃を打とうとする。
だが、それよりも数拍早く黎人は持っていた剣を天に掲げる。
「それが最後の一撃みたいだな?」
「!?」
ザリグナは一瞬だけポカンとはしたものの、すぐに黎人の全力攻撃だと理解して目つきを鋭くする。
「なるほど、お互いコレで決着をつけようというわけですね……いいでしょう」
黎人の剣が雷を呼び寄せて、刀身に纏われることにより刀身の大きさは黎人の体の数倍の大きさに伸びる。
対するザリグナは体の中心に闇の気のようなものを球状に生み出す。
お互いの力が最高潮に達した時、相対する二人が吠える。
「――――【神魔超越】≪神撃魔討≫!!」
「〖腐王〗 ≪呪龍天咆≫――――!」
黎人のふるう剣の延長線上に圧縮された紫雷がザリグナに向けて駆け、ザリグナが胸元から飛ばした絶死の呪いが一直線に黎人を殺そうと向かう。
最初は全く違う軌道であったはずの二つの攻撃は引かれあうように同一直線に並ぶと、1秒後に衝突した。
紫と黒が混じりあい、ジリジリと音を鳴らして互いが互いを飲み込もうと必死だった。
こんな戦闘の最中でも黎人はザリグナに向けて言い放つ。
「最後のチャンスだ……フェルシアを水晶体から解放してどっかに消えるなら許してやる」
だが、こうは言いながらも黎人はザリグナの答えは一つであろうとも確信していた。
ザリグナは手に力を込めながら口を開く。
「嫌ですね。ワタシはこの力で差別シテキタ世界ヲ変エル……ドンナ神託力ヲ持ッテイタトシテモ平等ナ場所ヲ」
……ザリグナという人間は【毒生成】という神託力を持って生まれたが故に闇の組織に見いだされて、悪事を働いてきた悪人だ。
しかし、彼自身はまっとうに生きたかった。だが無理だった。
そこから生まれる苛立ち、怒り、絶望。全てが彼を変えた。
だからこそ、彼は一つの極致に達した。
人が生まれ持ち使われることのないはずの力、〖原罪〗に。
「ココデアナタヲ殺シ、世界ヲ!!」
ザリグナは体を徐々に奇形化させながらも力を注ぎ込む。
どこまで落ちてもザリグナにとってどうでもよかった。
望みを叶えることができる可能性が手にあったから。
その様子に黎人は微動だにもせずにただ言う。
「残念だけど無理だ。 ≪神撃魔討≫は全てを飲み込む雷だ」
その言葉が言い終わるときには雷が呪いを喰らい、巨大化してザリグナに向けて襲い掛かる。
ザリグナに命中した瞬間に轟音と閃光があたりを包み込む。
そして、まぶしいほどの光が収まったとき、ザリグナの体は半分になってしまっていた。
黎人はソレを確認すると、銃器を全てバックパックに格納する。
「やったか……」
安堵した表情でそう言うと、黎人は雅たちの方に駆け出す。
黎人は同時にフェルシアを覆っていた結晶体が消えていたことに気づいた。
「フェルシア!!」
「ちょ、むぐぐぐ」
戦闘が終わった黎人にしゃべりかけようとする雅の口を押さえながら、フェルシアの体を支えた。
その声に反応したのかフェルシアは少しだけ目をあけながら、小さい声で言う。
「れい、とさん?」
「生きていた……良かった」
黎人は安堵しながらギュッとフェルシアを抱きしめる。
フェルシアは周りを見回しながら驚いたように言った。
「ほかの皆様まで、わたくしを助けに……?」
「ああ、お前を助けにここまで来てくれたんだ。 もう大丈夫だ」
「……そうでしたか」
フェルシアは黎人の言葉を聞いて、半分なきながら半分笑いながら言葉を漏らす。
「まるで夢のようですわ。 こんな私を見捨てずにいてくださったなんて」
「当たり前だろ? ちょっと守り切れなかったってとこあるけどさ」
黎人は鼻頭を軽くこするとニヤッと笑みを浮かべる。
それにつられてフェルシアもほんの少しだけ笑うのを見て、全員が安堵の表情になった。
と同時に全員の緊張が完全に解けた。
凛化が神託力を解除すると全身の力を抜いて、雅にもたれかかる。
「さすがに疲れた……ミー兄おんぶして」
「いや知ってるよね? 僕の腕完全に折れてたの知ってるよね!?」
「凛化ちゃんもなかなかハードな対応を迫るわねぇ~」
捲と水瓜は腕を組みながら微笑ましい感じで二人を見ていた。
その最中、雅は全員が無傷とは言えないが、無事なことを内心喜んでいた。
(ハードやったけど、ほんまに良かった。誰一人欠けることなく終わったんや)
雅がレヴィルを担ぎながら周りを見回すと、黎人に背負われるフェルシアや水瓜と口論になっている凛化、ブツクサ文句を言いながらソナーを運ぶ捲を見た。
大切な友が、仲間が一緒にいる。
それで全てが満足だった。
しかし、今回の物語はここでは終わらない。
なぜなら上半身のみのザリグナが起き上がったからだ。
「天賦黎人……」
「ッ!?」
突然よみがえったザリグナに黎人は息をのみながら剣を向ける。
だが黎人以外のメンバーは一歩たりとも動けなかった。
それだけの気迫がザリグナにあったからだ。
「ワタシを殺しましたね」
ザリグナは口から血を垂らしながら、黎人を見据える。
「本当に”英雄”を冠する者ならば、これぐらいの窮地を覆してみなさい」
「黎人ッ」
「分かってる!!」
雅に言われるまでもなく、黎人はザリグナにトドメをさそうとする。
だが、それよりもザリグナの行動は早かった。
「全ての生命よ、回帰せよ ―――≪生死流転≫」
ザリグナの血が気化して粒子へと変化する。
正確に言えば、下半身があった部分から出た粒子が黒い楔を形成し、躱す間もなく全員の体に打ち込まれた。
「何やコレ!?」
雅の腕にも絡みついたかと思うと、すぐに皮膚に浸透し体内へと入り込む。
嫌な予感がした雅は神託力を無理やり発動させた。
「≪抵抗限界≫!」
雅は限界まで耐性を高めて、楔を弾き飛ばした。
さすがの雅も冷や汗が止まらなかった。
(たぶんいまのは呪いの一種?……何とかレジストできたけど。 ってか僕以外こんな風にレジストでけへんやんけ!!)
雅はそう考えた瞬間にほかのみんなを見回した。
あたりを見回すと、全員が全員地に伏していた。
元から弱っていたレヴィルやソナーだけでなく、さっきまで元気だった黎人や水瓜までもが。
苦しそうに胸を押さえながら、地面に倒れこんでいた。
「みんな!!」
雅が全員の元に駆け寄ろうとすると、すぐに黎人が無言で後ろを指さす。
雅は殺気を直感的に感じると、全力で裏拳を叩き込む。
「≪壊拳≫!」
「グフッ」
背後に近寄っていたザリグナを殴って地面に叩きつけた。
ザリグナは酸弾の噴射の勢いで接近して、雅を殺そうとしていたみたいだ。
雅は顔面を掴んだまま、ザリグナの方を向いて聞いた。
「おい、この呪いをはよ解くんや。死にたくなかったらな」
「ハハハ、何を君は言っているんだ。 ワタシはもうすぐ死ぬのに何の冗談を」
雅をあざ笑うかのような笑みを浮かべて、ザリグナは言葉を続ける。
「どうせなら寂しくないように君たちも一緒に死ぬのさ」
「ふん、何を言われようとも関係ないわ。最悪、今から全力でここを出れば皆助かる。時間制限あろうともな」
雅自身、呪いの力を甘く見ているわけではない。
伊達に何度もピンチを乗り越えてきたわけではなく、ここまで戦ってきた猛者である黎人さえいれば脱出は可能と踏んでいた。
仮に呪いでステータスダウンされていたとしてもだ。
ザリグナはその言葉を聞いて、凄絶な表情で雅を見た。
「残念ながら、あなたたちはすぐには脱出できません」
「なんやと?」
白衣の裾を思いっきり引っ張って雅が問う。
ザリグナは答えを簡潔且つ大笑いでいった。
「全く考慮してなかったようですね……誰が敵はワタシだけと言いましたか?」
「まさか!」
慌てて雅が近くの壁を破壊しようと拳をふるうが、重厚な音を立てるだけで傷一つ入らなかった。
否、拳自体が壁に届いていなかったのだ。
まるで見えない壁がソコにあるかのように。
「召喚系の神託力!?」
召喚系の神託力は黎人自身が持つ≪全属性防御盾≫のような物理法則を無視して物質を生み出すことのできる能力だ。
部屋を覆っている壁は黎人と同じタイプの制限付きで障壁を呼び出すスキルの一つだと推測された。
黎人の技の場合は「耐久制限がある」だが、この技の弱点はたぶん、
「時間制限があるかわりに破壊不可っていうことなんか!?」
「まー、貴方たちが全滅するまではもつでしょうね、ククク」
「クソが!」
雅はザリグナから手を放して一旦6人の元に戻ろうとすると、ザリグナが背中から声をかけてきた。
「では私は一足先に待っていますよ……」
死に際に一言言うとパタンという音とともにザリグナは動かなくなった。
雅は一瞥することなく、全員の元まで翔ける。
一目見た時では誰もが動けないと雅は思っていた。
そのうえ全員は体中に文様が浮かんでおり、まさしく呪いにかかっているようだった。
だが唯一、薄着一枚のフェルシアには呪いはおろか傷一つなかった。
フェルシアは衰弱しながらも雅の視線に気づいたのか、弱弱しい声で言う。
「たぶん私の呪いが皆さんにかかっていると思われますね。これを解除するには並大抵ではない回復使いが必要ですわ」
「やろうな……クソ、呼ぶにしても壁があるからダメなんか」
雅は苦しそうに呻いている水瓜の頭をなでながら、恨めしい声を出す。
意識は失っているみたいだが、苦しみは夢の中にまで続いてるようだった。
(どうしたらええんや、もう何もできずに皆が死んでいくのを待つのか?)
数秒間、二人の間で沈黙が流れる。
しばらくして意を決したようにフェルシアが下を向いていた雅の肩をたたく。
「篠倉さん、一つだけ皆さんを救う手段がありますわ」
「ほんまに!?」
フェルシアからの急な朗報に雅は飛び上がってしまう。
その様子にフェルシアはクスリとしたが、すぐに無表情に戻す。
「……篠倉さんはお気づきでしょうが、これは私の神託力である【呪炎】の純粋な呪いを凝縮したようなものです」
「フェルシアだけが呪いを受けてないからそうは思ったけどな」
二人だけ呪いのタトゥーらしきものがないところから、出所はフェルシアだと雅も思っていた。
雅がウンウンと頷くと、フェルシアは自身の胸に手を当てながらまじめな表情に変える。
「ですから私の神託力で解呪できますわ――――ただ、」
「なんや?」
ちょっとだけ間をあけて、フェルシアはまっすぐに目を合わせて言う。
「たぶん今の状態でそれほどの神託力を使えば、私は確実に死ぬということですわ」
「――――」
フェルシアの言葉を聞いた瞬間に雅の頭が真っ白になる。
全員が生き残って帰る、それがどれだけ難しいか雅は分かってた。
だからこそ、最悪はフェルシアを見捨ててでもほかの全員が生き残るって考えていた。
――――それでも割り切れなかった。
雅みたいに中途半端な人間がそんな非情なことできるわけがなかったのだ。
そんな雅の表情が表に出ていたようで、フェルシアはフッと鼻で笑う。
「今のは少しだけ意地悪でしたわね。篠倉さんも結局は『優しい人』ですから」
「違う」
すべてを見透かされてるようで雅は恥ずかしかった。
俯きながら、フェルシアは辛そうにだが全く悔やんでいない表情で雅に言う。
「正直死ぬのは嫌です。でも助けてくれた皆さんが死ぬことはもっと嫌ですわ」
そこには今までの高慢なお嬢様ではなく、誇り高き少女がいたのだ。
「選択に後悔はありません。これで私も皆と初めて対等になれるって、そんな気がします」
「フェルシア」
「……ですから一つだけ約束してください、私は皆さんの『仲間』であると」
フェルシアは自分の言ったセリフに照れて、二人から目線をそらす。
雅は心中穏やかではなかったが、覚悟を決めてフェルシアに頼み込む。
「フェルシア頼む、皆を助けてくれ」
「何を言ってるんですか、私たち――――『仲間』でしょう?」
「……すまん」
形式ばった下りになってしまったが、フェルシアはそれでも満足だったようだ。
余計な力を抜いて、フェルシアは気楽に頭上に手をかざして神託力を発動させる。
「【呪炎】」
彼女の頭上に魔法陣のようなものが展開された。
今までの紫や黒い炎ではなく、白と金に彩られた火が全員を照らす。
それを黎人も含めて全員にかざすと徐々に全員の文様が薄れ始めた。
「くぅぅぅぅ」
フェルシアは歯を食いしばっても出てくる声を押し殺しながら、命を振り絞って神託力を使う。
だが、途中でバチンという音を鳴らして完全にかき消される。
さらにはフェルシアが半透明の立方体の壁に覆われる。
「なんだ!?」
雅は突然のことに驚いて、フェルシアの方から自分の後方に振り返る。
そこにいたのは―――
「絶対に殺させねぇ」
「お前―――」
機械鎧を身にまとった最強の勇者、天賦黎人であった。
「例え親友のお前であったとしてもな」
阿修羅が如き表情で雅に向けて剣を向けていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
文章読みにくくてすいません(´・ω・`)




