ラストバトルは―
水瓜は槍を全て打ち終えると、疲労困憊の様子で地面に座り込む。
「あー、本気でしんどいわ。マジでやってらんない」
「水瓜先輩、そこまでやったんですか?」
と聞くのはさっき駆け付けた捲だ。
今までどこにいたかと言えば、基地にいる兵隊を倒しに行ってくれていたのだ。
決してザリグナと戦いたくなかったわけではない。
たぶん。
それはさておき、
「先輩、フェルシアに当ててへんやろな?」
と心配そうに雅が聞くと、水瓜は親指を立てて自信満々に言う。
「WA☆KA☆N☆NA☆I」
「ちょっっっっとぉおお!?」
「嘘よ、嘘。一応外したつもりだけどたぶん当たってても効かないと思う。あの結晶が固すぎるみたいだわ」
雅の盛大なツッコミにお手上げといった感じに水瓜が肩をすくめる。
その最中に捲が一つのことに気づく。
「なぁ、二人とも結晶がそんだけ硬度が高いってことはさ……それで防御したら―――」
捲の言葉が途中で途切れたかと思った時には、ザリグナが捲をメショリという音ともに体を掴んだ。
再生したらしき右手で水晶体を持ちながら、逆手で捲を保持する。
それを見て、雅は半目になりながら捲にいう。
「こうなるわな」
「いや、助けてくれないの!?」
「はぁ……伏せて!!」
赤色の文様を体の端々に浮かべながら、雅はバク転しながら捲がいるほうの手を蹴り上げた。
「≪壊脚≫!!」
捲ごと天井にザリグナの手を打ち上げて、もう一度真正面を向く。
しかし、正面の視界が完全に真っ暗になっていた。
否、
(これ手かよ!?)
雅はあまりの大きさに思わずたじろいでしまう。
なぜなら、ザリグナの手が自分の体より遥かに大きくなっていたからだ。
それもあるがなによりも全体的に巨大化していたのだ。
「なんつーか……能力が暴走してるんかな?」
雅は無事な方の足で地面を蹴ってザリグナから距離を取る。
距離をとる間にもザリグナの体がブクブクと膨れ上がりながら襲い掛かる。
「ガァアアア!!」
「つーか、言葉まで話されへんようになってるんかい!?」
ザリグナ自身もあまりにも急な進化に体がついていけてないみたいで、体が制御できていない。
意思疎通すら難しいような状況である。
最初は3,4Mほどだった気がするが、今は中腰の体勢になっているが倍の大きさになっているようだ。
(体の大きさが単純に強いのもあるけど……再生力がイカレてるわ。マジで)
雅が≪壊拳≫で腕を千切ったときは数十秒必要だった腕の再生が、今は3秒にも満たない。
ザリグナの激しい猛攻をぬるりぬるりと隙間を探して雅は避け続ける。
足の回復を待ちながら雅は打開策を練る。
途中で攻撃が当たらないことに焦れたのかザリグナは動きを止めて全身を硬直させる。
「ガルゥウウ!!」
「!?」
犬のような唸り声をあげながらザリグナは全身の穴という穴から大量の水の玉っぽいのを飛ばしてくる。
それを雅はジャンプしたり前回りで躱しながら、横目で見ると着弾点には煙を上げていた。
思わず冷や汗を雅は流す。
「ココで強酸の塊飛ばしてきますか。ほんま勘弁してぇな……」
といいながら、残りの酸弾を近くの床の断片を持ち上げて防ぐ。
ジュウジュウという床の断片から少しだけ雅は顔を出すと、更にザリグナは成長していた。
大体10M超えたみたいで巨大な実験部屋が窮屈に感じはじめる。
巨体で不利な上にずっと終わらない銃弾の雨霰もある。
「強酸弾は何時やみ終わるん?」
一時的な盾として床は頑張ってくれているが、何時まで持つかはわからない。
神経を雅が尖らせていると後ろから急に声がかかる。
「下手したら終わらないだろうな……グフゥ!?」
「後ろに急に来んといて? 反射的に裏拳を叩き込みそうだったやん」
「いや、もう入ったから! 決定的にいうのが遅い!!」
裏拳が丁度黎人の鳩尾に直撃したことは言うまでもない。
それはさておき、雅は自分の後ろに隠れている黎人をジトっとした目で睨みながら不機嫌そうに聞く。
「黎人、後先考えやんと全力で行ったらどう?」
「……ドクターストップ引っかかてるのを知ってるよね。それを知って尚やれと?」
「それしなきゃ、フェルシアを助けることは不可能やで」
雅の言葉に黎人は顔に手を当てながら、ため息を一つつく。
さすがの雅も黎人の禁じ手を使わせるのには抵抗はある。
だが、もう消耗戦では勝てないということは再生力からはほぼ確定なのだ。
黎人は顔をパンパンと叩くと雅に言う。
「わーったよ。じゃあサポート頼むぞ?」
「はいはい」
「ほんとに聞いてるか悩ましいけど信じるぞ」
そう言って黎人は拳を雅に向けて差し出すと、雅はガツンと拳をぶつけると酸の雨に身をさらす。
雅は視力を強化して酸弾の軌道を全部読んで突き進む。
その最中にザリグナに接近しながらも雅は一つのことに気づく。
(ん? そういえばフェルシアをずっと左手でつかんだままで体に収納していないな)
もともとは体に取り込んでいたフェルシアをずっと左手で握ったままで戦っているのだ。
普通なら片手が塞がっていては戦いにくいはずなのに、わざわざ持っている理由は雅にはわからなかった。
だがやることは一つ。
「とりあえずフェルシアをどっかにやらないと駄目やな」
雅は全身に力を籠めるとフェルシアがいる方の腕に飛びつく。
そのまま黎人から拝借したままの刀で腕に刃を突き立てる。
剣の心得などないために粗い使い方ではあるのだが。
ブチブチという音を鳴り響かせてザリグナの腕の半分まで刀を届かせる。
「むむむ!」
しかし、ザリグナの腕が徐々に再生しはじめて傷が塞がり始めた。
と同時に凛化が雅の隣にジャンプで追いつくと手を添えてくる。
「全く剣の使い方がなってないよ、ミー兄。」
「凛化が来んのが遅いんよ……」
「じゃあせめて私に力を合わせて――――――――ハァ!!」
凛化とタイミングを合わせて斬ると面白いように柔らかい気がした。
知らんけど。
小気味のいい音を鳴らしながらザリグナの腕が地面に落ちていく。
その際に水晶体も手から零れ落ちて地面に激突しようとする。
だが、一つの人影がヘッドスライディングで水晶体をキャッチする。
その人に雅は笑いながら声をかける。
「捲、ナイキャッチ!」
「おうよ! ってうわ!?」
途中で捲は酸弾を飛ばされたために言葉を中断するしかなかった。
当然、同じ方向なので凛化と雅にも酸弾は飛んでくるが凛化が盾を呼び出して防ぐ。
「ミー兄、そろそろ下がらないと!」
「分かってるんやけど、この雨でどう逃げればいいんやら」
凛化が焦れたように言うが、雅はこの状況をどうにかできる術もないのでぼーっとしてた。
ちなみに捲も水晶体を盾に酸弾を防いでいた。
それを見た瞬間に雅は思いっきりツッコミを入れる。
「フェルシアを盾にしてるんじゃねぇえええええ!! 捲、てめぇ何をしてるんだ!?」
「仕方ないじゃん。死にそうだし、フェルシアちゃんもきっと許してくれるさ」
「いやそれ、フェルシア死ぬやつぅうう!」
と、まぁコントをしている間にもザリグナは攻撃を続けるわけで。
ザリグナの口が異様に膨らみ、口元から何かやばい色の汁が垂らしながら今にも吐き出そうとしていた。
三人は顔を引きつらせながら口を揃えていう。
「「「あっ、これ死ぬ奴(やん)」」」
走馬灯が映る暇もなく、ザリグナは猛毒のかめ●め波っぽいのを口からはいてきた。
雅たちが目を瞑って痛みを堪えようとしたが、その努力はすぐに無駄になる。
なぜなら目を開くと七色に光る半透明な大盾が守ってくれたからだ。
その発生源はもちろん一人。
「ったく、無茶ばっかりしやがって……皆下がってて」
その黎人の言葉に皆が目を輝かせて全力で端っこに移動する。
ちなみに水瓜は黎人に助けられていたのか遠くにいた。
雅たちは下がりながら黎人に声をかける。
「じゃあミー兄、がんば!!」
「黎人さぁん、やっちゃってくだせぇ」
「死にたくないから早く逃げよ」
一人たりともわき目もふらずに逃げ出す。
凛化や捲はまだしも雅に至っては黎人の心配する言葉もくれない始末。
さすがの酷さに黎人も涙目でいう。
「無茶すんなよぐらい言ってくれよ……」
そんな声はきっと皆に届いていないだろう。
ある意味信頼の裏返しなのだろうが、これはこれで寂しく感じる黎人である。
とは言えども、ずっと拗ねてても意味がないので。
「ザリグナ――――本当にこれで最後だ」
「ウォオオオオオ!!」
黎人はすれ違いざまに雅に返してもらった刀を盾に戻して、金と蒼の装飾の剣をザリグナに向ける。
剣と盾をクロスさせてカッコいいポーズで叫ぶ。
「神も魔も全てを無に帰し、新たなる世界を創造しよう――――――」
剣を天に高く掲げると、黎人の全身が黒と赤の色に包まれる。
「―――――【神魔超越〗」
今までの厨坊鎧ではなく、ところどころ機械でカスタマイズされた黒を基調とした近代的な服ともいえるような装備。
ところどころ赤いラインが装備に描かれており、ガントレット、クリーヴ、メイルすべてに赤色の宝珠が埋め込まれていた。
そして、特徴的なのが黎人の持っている武器。
銀と深紅の装飾のロングソードと悪魔を模したような大型の盾、全身に付けられている圧倒的な重火器。
黎人は自我がなくなっているザリグナに一言小さくつぶやくと武器を向ける。
「行くぞ」
声が聞こえたか聞こえてないかは分からないが、ザリグナは地を蹴って黎人に襲い掛かった。




