友人の戦い方
ザリグナと雅の拳がぶつかり合い衝撃が辺りに奔る。
最初は均衡を保っていたが、すぐに体格の小さい雅が後方に飛ばされる。
「チッ」
雅は軽く舌打ちしながら、黎人の剣を地面に突き刺しながら勢いを殺す。
その間にもザリグナは雅に接近し攻撃の手を緩めない。
(黎人がいくら状態異常攻撃で負けたからって、こいつが近接弱いってわけじゃなさそうやな)
叩きつけを避けながらそう考える。
だが、空中に飛び上がった瞬間にザリグナの黒い右手が鈍く光る。
「これはどうでしょう? 毒爪!」
「むっ!?」
驚愕に染まった雅の顔にザリグナの巨大な爪が頭上から迫る。
雅は咄嗟に爪を防ごうと剣を構えた時、剣と爪が高い金属音を立ててぶつかり合った。
ギャリィインという音が鳴るのを感じる暇なく、地面に雅は叩きつけられる。
「ッッ!」
雅は地面と激突した時に肺の空気が全て出て行ったが、休む暇もない。
「まだまだですよ?」
しかしそれだけではザリグナの爪の乱打は止まらない。
何度も剣で受け止め損ねて、体が徐々に切り裂かれていく。
(ただ爪の痛みだけじゃない……痛覚が過敏化してるのか?)
敵の技名通りならば毒が体に回っているのだと雅は納得する。
雅がそう考えている間にも、爪ではなくパンチが飛んできてゴロゴロと地面に転がされた。
(考えてる暇もなさそうだな)
結局は頭は冷静でも痛いわけで、
「痛すぎて死んぢゃう」
と冗談を言わないと駄目なくらいだ。
そんな声が聞こえたか聞こえてないかは知らないが、ザリグナが周りの空気を大きく吸って体を後ろに逸らす。
「さて、そろそろ前座には消えてもらいましょうかね―――――≪死毒≫」
そう言って、雅の方に紫色の塊を吐き出してくる。
さっきまでの傾向的にザリグナの攻撃はすべて毒や呪いがある。
普通の人間なら大ピンチであろう。
しかし、
「きた!」
ここが雅の狙いだった。
皆は覚えているだろうか、雅の神託力を。
『全ての能力値を入れ替える』という力は、ただ防御力や攻撃力を振り分けるだけではない。
「【全能力制御】 ≪抵抗限界≫!!」
それは視力や聴力、本人のもつ耐性ですらもコントロールできる―――呪いに対して強力な抵抗力すらも。
雅の体に黒と紫の紋様が体に巻き付く。
同時に≪死毒≫が雅の体を覆うが、雅自身は完全にノーダメージだ。
「ぬ!?」
ザリグナはドヤ顔でいる雅に驚愕を隠せなかった。
その間にも雅は後方に声を掛ける。
「やっちゃってくださいよ? 先輩!」
友人の戦い方っていうのは、ただがむしゃらに自分のみで戦うのではない。
いかに他の仲間に繋げるかということだ。
個の弱さが分かっているからこその連携の強さを知っている。
「分かってるわよ」
返事をしながら水瓜は空中に水を大量に生み出し、一本の槍を形成する。
全長3Mほどの人がもつには大きすぎる代物だ。
だが、水瓜は軽々と片手で持つとザリグナに向けてこう呟く。
「躱せるものなら躱してみなさいな……≪海神槍≫」
「そんなもの私が受けるとでも!?」
水瓜が槍をザリグナに向かって投擲する。
ザリグナは真正面から槍を掴もうと手を伸ばすが時すでに遅く、体の中心に直撃する。
ゴリリッという鈍い音が鳴り、ザリグナの表皮がはがれる。
だが、ダメージを与えた喜びよりも驚くことが二人の目の前に現れた。
「あれは!?」
「なんていうことなの……」
水瓜の槍が命中したところから体の中身が見えた。
内容物は臓器ではなく、直径1.5Mほどの半透明な水晶体。
その中にフェルシアがいたのだ。
「なんでフェルシアがッ!?」
「雅ちゃん、前!!」
2人にじっくりと眺めている暇などなかった。
ザリグナが左手で水晶体を隠しながら爪を振るってきたからだ。
「離れなさい、このクズどもめ!」
「くっ」
「チッ」
雅と水瓜はゴロゴロと左右に分かれて躱すと、水瓜は大声で雅に聞く。
「雅ちゃん! どーすんの!?」
「どーするもこーするもない!! 助けるには水晶体を取り出すしかないやんか!」
とは言いながらも、結局は相手の攻撃の隙を伺わなければならない。
(先輩の攻撃力じゃ足りんし、水晶体がでている今なら攻撃は入るかもしれんけど)
チラッと雅は見え隠れする水晶体を見るが、ザリグナが完全に防御態勢に入っているため命中するかどうかは半分。
水晶体だけまるっと取り出すにはやや難しいだろう。
だから雅達が取れる戦法は、
「外殻を完全に剥がす!!」
相手の外身を消し飛ばす――――所謂ごり押し戦法だ。
水瓜もその言葉を聞いた瞬間に先ほどの槍をもう一度生成するために一旦立ち止まる。
しかし、隙を見逃してくれるほど敵は優しくない。
「そう何度も打たせませんよ!!」
ザリグナは水瓜の動きが止まったのを見た瞬間に全体攻撃から水瓜のみに攻撃を移す。
雅は≪迅速≫で水瓜とザリグナの間に割り込む。
ザリグナは余裕の顔を消さずに雅を見る。
「ワタシと真正面から戦っても勝てないと知っているでしょう?」
「普通やったらな」
「さっきと同じ常套句でワタシを騙そうたってそうはいきませんよ」
「それはどうだろな?」
迫る黒い巨腕に対して、雅は姿勢を低くしながら迎撃の構えを取る。
雅の体の紋様が赤く光る。
まるで全てに対して警告するような禍々しい深紅。
「≪壊拳≫!!」
雅が深紅の拳を振り抜くと、バキバキッという音と共にザリグナのの側腕部を貫通し、腕をねじ切った。
勢いあまって、倍以上の体格のザリグナを数メートル後退させる。
余りの痛みと攻撃の威力にザリグナは目を剥く。
「何故まだこんな力がッ!!」
「どうもこうもないわ。これは自分の手痛めるし、ほんまにしたくない技なんやから……」
腫れあがった右手をさすりながら、雅は真横に落ちてきたザリグナの腕を端に蹴り飛ばす。
無感動に腕の行方を見つつ、やや説明口調で雅はザリグナに説明する。
「これが僕の必殺技―――≪壊拳≫、防御を極力まで下げて攻撃のみに振った自壊の一撃や」
己の拳を壊し、相手を壊し、不利な状況を壊す一撃
―――それが雅の奥義≪壊拳≫。
名前の通りに自身の体にダメージが入ってしまうため、あまり連発ができない大技である。
一撃撃つたびに腕の骨にヒビが入っているので超絶痛いのだ。
とはいえども、
「あんたを倒すぐらいの威力はあるみたいやけどな?」
「ッッッ、ワタシをなめるんじゃ―――」
ザリグナはガガガと爪で床を削って、その破片を雅に浴びせかけてくる。
一つ一つが15センチほどの大きさのため危ないことこの上ない。
「―――ない!!」
「あっぶ!」
雅はボロボロな右腕ではガードできないため、無事な左手で顔を守りながら≪防御特化≫で凌ぐ。
到底反撃できる体勢ではない。
だが、準備の時間は充分に稼げた。
「もういいですか? 先輩」
「ええ、充分よ。 喰らいなさい―――≪海神槍:完全展開≫」
ザリグナが顔を上げた瞬間に見たのは水の槍が数百、数千と空中に浮かぶ光景。
一撃では体を削るのが精いっぱいの技だが、数が増えれば単純にダメージは増える。
子どもでも分かる足し算だ。
水瓜は軽い調子で尚且つ笑顔でザリグナに言う。
「じゃ、死んでね」
「お前っ――――」
「≪解放≫」
水瓜が解放句を述べた瞬間に数多の槍がザリグナに突き刺さった。




