聖火と深淵
黎人視点です。
所変わって黎人は敵の親玉の部屋前にたどり着く。
黎人は後ろからついてきている二人に向けて声を掛ける。
「レヴィル、ソナーいけるか?」
「大丈夫です」
「うい」
双子はお互い疲労が溜まりやや瞼を重そうに軽く手を振る。
レヴィルは【獣化】した爪部分がはがれて痛々しいがそこ以外は無傷だ。
ソナーは怪我自体は全くないが神託力の使用をしすぎたためか、体が一部【機械化】が上手く戻せていなかった。
当の黎人は武器に細かい傷が入っていること以外は全く支障なしだ。
その様子に双子が呆れながら言う。
「あれだけ戦って全然余裕なんて本当に化け物ね」
「全くです。私達は正直付いていくのが必死でした」
「いや、レヴィルがいなければ超えれないトラップとかあったし、システムにハッキングできたのはソナーのおかげじゃねぇか」
黎人が真剣な目で二人の手をギュッと握ってそう言うと、双子たちは顔を黎人から逸らす。
「どした? 顔が赤いぞ?」
「赤くないし! べ、別にアンタのためじゃないし!! フェルシア様のためだし!!」
「そうです。決して貴方ではありません」
双子の顔がめっちゃ赤いのは気にしたら負けだ。
黎人は不思議そうにしながらも、すぐに目元を引き締めるとドアに手を掛ける。
「行くぞ……!」
「はい」
「いつでもいいよ!」
ガチャリという音が完全に終わるまでに3人は部屋に突入する。
そして、目の前に待っていたのは白衣を着た白髪のおっさんだった。
ザリグナ・サウル。
頭のイカレた研究者でフェルシアを攫った張本人である。
余裕そうにおっさんは鼻をほじりつつ、黎人に向かって笑みを浮かべる。
黎人は顔を険しくして白髪に指をさす。
「てめぇはあの時の!」
「わざわざ覚えていてくれたのかね? 天賦黎人くん」
「んなもんどうでもいい! フェルシアを返しやがれ!!」
剣を腰元から引き抜くとボスに向かって振り抜く。
だが、ボスはソレをひょいと躱すと顎をなでながら興味深そうに黎人を見る。
「見た感じ、ワタシがよこしたエリート屍を余裕で乗り切ったみたいだな?
クックク、すごい素体ではないか…まさに実験するにはうってつけだな」
「そんな御託はいい!」
ボスがいう言葉を一切無視して、黎人はさらに連続で攻撃をするが完全に見切られてしまう。
黎人の攻撃に対して、少しムッとした顔でザリグナは懐から拳銃を取り出す。
「ふむ、もう少し落ち着いてはどうかね?」
「グゥ!?」
「「黎人!?」」
ザリグナから放たれた銃弾が黎人の鎧に直撃する。
幸いダメージは負わなかったものの一旦距離を取る。
「大丈夫?」
「全然いけるさ。ちょっと油断しただけ」
ソナーの心配を受けながら、黎人は盾をしっかりと構えてボスと相対する。
ボスは溜息と共にいう。
「全くこれだから脳筋は困る。ワタシの最高傑作もとい『最強の力』をみせてやろうと言うのだよ」
「最強の、力?」
「これだよ」
ザリグナは黎人に返事をするや否や着ていた白衣を脱ぎ去る。
……なにも上半身裸になって、おっさんのサービスシーンを展開しているわけではない。
黎人はザリグナの体に写っているマークを見て、目を丸くする。
「そ、それはフェルシアの体にあった『印』じゃ!!」
「ああ、ご名答。 これぞ数少なく文献に残っている『呪印』、神託力の中ではトップクラスの代物だ。 燃費が少々悪いのが偶に傷だが」
わざとらしく肩をすくめる。
しかし、そんなことを黎人は気にする余裕はなかった。
「じゃあ、あいつの能力を奪ったってのか!?」
「それに近いもんだよ。 だが、あの娘にこの能力はもったいなすぎるからね」
そう言って、ザリグナは白衣を着なおした。
最初レヴィルとソナーは『呪印』を見せられて固まっていたが、すぐに目元をキツクして吠える。
「あんたが一番うまく使えるって!? ふざけるな!!」
「同じくです。 フェルシア様は誰よりも人のことを案じていました……その力は人を傷つけるためにはありません!!」
「逆に傷つける以外の他の使い道が思いつかないなぁ?」
ボスが笑いながらそう言うと二人は顔を怒りに染める。
「!」
「ふざけんなぁああああ!」
「二人とも落ち着け!」
黎人の言葉も空しく、
レヴィルが【獣化】を、ソナーが【機械化】で武装をするとボスに向けて襲い掛かる。
「死ね!!」
「万死に値します」
ソナーは左腕を軽機関銃に変えて狙いを定めて、レヴィルは十メートルほどあった距離を一気に殺して爪で切り裂こうとする。
だが、
「ふむ、まあ雑魚でも」
視線をレヴィルに向けながらザリグナは何かを念じる。
その瞬間にレヴィルは体が突然燃えた。
「試験には丁度いいか」
「っつ!? ぐぅきゃああああ!?」
「え!?」
「レヴィル!?」
ソナーは余りにもいきなりの出来事に体が固まってしまう。
それに対して、黎人は全身が燃やされたレヴィルに向かってマントを勢いよくかぶせて火を消す。
「レヴィル大丈夫か!?」
「ぐるうう……」
黎人の声にレヴィルは苦しそうにしながらも手を伸ばす。
幸いすぐに火を消したために最悪の事態には至らなかったが、レヴィルはひどいやけどを負ってしまった。
軽く治療を施すために黎人は神託力を使う。
「【勧善懲悪英雄】 ≪軽傷癒≫」
徐々にレヴィルの傷が癒えていくが、完治には程遠い状況だった。
黎人がソナーに背を向けながらも切羽詰まった声で言う。
「ソナー、レヴィルの傷が大丈夫なところまで少し時間を稼いで!」
黎人はソナーがザリグナを倒せなくても、時間を絶対に稼げると信頼していた。
道中もそんな『任せて!』という心強い言葉があったおかげで窮地を乗り越えれた場所もある。
だが――――今回はその頼もしい返事が、なかった。
「あれ、ソナー?」
黎人が不思議そうにソナーのいる方向を向くと、地面に伏してもがいている彼女がいた。
レヴィルのヒールを根性で終わらせるとソナーの元に駆け寄る。
「―――! ――!?」
「ソナー!?」
黎人がソナーを見ると、彼女の頬には薔薇を模した紺色の刺青が突然浮かび上がっていたのだ。
(これは―――呪い!? あいつがやったのか?!)
原因について考えていると、ソナーはもがきながらも何かを黎人に訴える。
声は出せないので口パクで必死に言いたいことを伝える。
『――――――』
「任せろ」
黎人が訴えをしっかりと聞いたのを確認するとソナーは満足げに意識を失う。
一旦目を閉じて、いらだちを隠さずにザリグナのほうに振り向く。
「やはり最高峰の呪いの力だ……これが【呪炎】の力。 素晴らしい!!」
「クソが」
黎人の声をあざ笑うかのようにボスは続ける。
悪態を吐いて歩き始める。
「さてさて英雄君、ここで問題だ。 今ワタシが【呪炎】をぶちまけたらどうなるでしょうか?」
「答えは簡単だよ」
ザリグナの不快で耳障りな声を聞きながら、黎人は腰の剣を抜いて肉薄する。
「お前が俺に倒されるっていうことがなぁあ!!」
「ハッ、やってみなさい!」
ザリグナは宣言通り【呪炎】をあたりにまき散らす。
それを黎人は、
「≪完全結晶障壁≫」
クリスタル型の結界でレヴィルとソナーを守った。
そして黎人自身は剣と対になる盾を体の前に構えて、ザリグナに突進する。
「うおぉおおお!」
「んなバカな!?」
黎人が身に迫る炎を全て盾で押し切って向かってくるのにザリグナは驚愕する。
そのままタックルで弾き飛ばすと、剣で続けざまに斬る。
「ハァ!」
「ふ!」
ザリグナは拳銃で斬撃を受け流し、数発撃って黎人から距離を取った。
そして、拳銃を手放して両手を交差させると同時に腕が赤熱する。
「喰らいなさい! ≪焔撃≫!!」
ザリグナの手のひらから収束された業火の束が黎人に向けて放たれる。
凄まじい熱量が襲い掛かり、黎人のいた場所で大爆発が起こった。
「……やったか?」
ボスが額にビッシリ浮かぶ汗を拭いながらそう言った瞬間に爆発の時に起きた煙が縦に両断される。
その間から黎人は現れて一歩も止まらずに歩き続ける。
普通なら全身の火傷など痛すぎて耐えれない痛みであろう。
だが、今の彼の目に宿る意志は全く揺らいでない。
「まだ動けるなんて!?」
「こんな程度で―――」
ボスが顔の色を恐怖に歪ませて慌てて距離を取ろうとする。
だがボスの右手を掴んで、黎人はそれを許さない。
「こんな痛みごときで俺が倒せると思ったか?」
天賦黎人は只の人間ではない。
「レヴィルやソナーが受けた傷に比べたら全く痛くねぇ」
彼には勇気と強さが誰よりもあった。
そして何より、
「仲間を傷つける奴は許さねぇ―――絶対にな!」
「!?」
誰よりも誇りが凄まじく高かった。
―――黎人が剣が閃かせる。
「グハッ!」
研ぎ澄まされた一撃がボスの体に叩き込まれる。
ボスは何度も道端の小石のように床に体をぶつけながら壁にぶつかり止まった。