その刃は善か悪か
次の日、学校に雅は登校すると自分用のPCを開いて依然調べていたものをさらに詳しく調べる。
まえに起きた誘拐事件のことをさらに洗い出しを始めたのだ。
(やっぱ毒とか一時的に動きを止める神託力っていう状態異常系統ばかり狙ってるな)
しかも、レヴィルやソナーから聞いた動物型の化物は毒持ちだったと聞いた。
神託力がある現代だが、残念ながら動物の進化はそこまで進んでいないため毒持ちの獣は昔と同じで蛇などだ。
(……敵は毒や呪いの使い手なんか? そやったら攫う必要なんて全くないはず。うーん)
頭をガシガシと掻きながら考える。
毒や呪いの付与が敵の神託力ならば、そこらへんの動物を適当に捕まえたりして、毒を付けて放せばいいだけなのだ。
わざわざリスクを冒してまで人を捕まえる必要がないと雅は思った。
「うーむ……」
色々と考えていたが途中で午前のHRの鐘が鳴り始めたのでやむを得ず中断。
それから放課後まで雅は悩みながらもノートを書き続ける。
◇◇◇
放課後、雅はチュッパチャップスの補充のために学校を出た。
「あ~、もうシンドイ」
いつもなら楽しい道のりなのだが、目下の問題がたくさんのため辛かった。
主に敵の目的とアジトの場所などがメインであるが。
雅は頭を抱えながら駄菓子屋さんへの道をトボトボと歩く。
しかし、
「む、工事中か」
雅がいつも通る道が工事中の看板によって塞がれていた。
なので、裏道から雅は駄菓子屋へと向かう。
裏道は町の中に小さな森が出来たような場所で、木々がうっそうと生い茂っていて不気味な雰囲気が辺りに漂っていた。
普段の雅なら通らない道だが、今考えるとそこまでの考えを巡らせるほど余裕がなかったのかもしれない。
だからこそ、いきなりの奇襲に気付けなかった。
突如、風切り音と同時に黒色の刃が雅の顔面に迫る。
雅は遅まきながらにソレに気付き、バックステップで躱す。
しかし、躱し切れずに頬に縦の赤い線が入った。
「痛ぅ!?」
思わず頬を抑えながら敵の姿をしっかりととらえる。
黒色の服に腕から覗く、鈍く光る刃が正体をハッキリと伝えていた。
雅は恨めしそうに言う。
「クッソ、刃女がなんでここにいるねん!!」
「……何か問題でも?」
「いや、問題しかないよ!? つーか黒幕が直々に出てくるとかどんな展開やねん!!」
雅が戦闘態勢答えると、刃女は首を軽く傾げて不思議そうにする。
「……私が黒幕?」
「そうやろ! お前らがフェルシアを攫ったんやろ?」
「……違う。私達はアナタの味方。そう、ビバ味方」
「じゃあなんで攻撃してくるねん!?」
んー、と刃女は目を軽く閉じて考えると
「……えっと気分?」
「なんでや!! 気分で攻撃するとかお前何!? サイコパスなん!?」
「……細かいことは気にするな―――それよりも早く本題に入りたい」
刃女は激しいツッコミを全てスルーすると、懐から雅に向かって直系15㎝の巻物を放り投げる。
雅は片手でそれをキャッチする。
「なんだこれ?」
「巻物」
「いやWhatじゃない! Whyだよ!!」
「……とりあえず開けてみたら?」
その言葉に雅はほんの少し躊躇いながらも、腹を決めて巻物を広げる。
巻物に書かれていたのは何かの住所であった。
「なるほど……お前の住所ってことか」
「……ねぇ、それ本気で言ってるの?」
「言ってません、ゴメンナサイ」
雅が刃女を見ると、ゴゴゴゴという音を出しながら後ろに阿修羅を出している気がした。
怒りが具現化されたかのような雰囲気に雅はブルリと震えながら首を横に振る。
するとすぐにブレイドはフッと怒りを消して言葉を続ける。
「……お前が欲しがっていた情報だ。信じる信じないはお前次第」
「ッ! これがアジトの位置ってことか!?」
「……」
雅の問いに刃女は眉一つ動かさずに無言を貫く。
その反応を肯定ととらえて、刃女に問いを重ねる。
「お前らは一体何者なんだ? そして何がしたいんだ!?」
「……私たちの組織に関しては答える義務はないが、私の名は良いだろう。ブレイドと呼べ」
「ブレ…イド…?」
(厨二臭いな……謎の組織こういうの好きなん?)
場にも合わず雅が刹那的に思ったことである。
その考えが顔に浮かんでいたのかブレイドは顔を不機嫌そうにする。
「今……厨二臭いとか思っただろう? 付けられた名前だから仕方ないだろう」
「い、いや、カッコいいと思うよ?」
「……」
若干ドモる雅に鋭い目でブレイドは睨むが、すぐに表情を無に戻しこう言う。
「強いて言うなら、私たちの目的は世界平和……」
「それがフェルシアを攫おうとしといてか?」
「うん」
「それに何で僕がアジトの情報が欲しいかっていうことも言わないよな?」
「……今は何も言えない。じゃあ時間だからまた会おう」
「ちょ!?」
雅が去ろうとするブレイドに手を伸ばそうとすると、こちらを向いてブレイドは自分のマントを宙に放り投げる。
「刃体錬成」
そして体の色々なところから刀剣を雅の足元目がけて連射する。
ドガガガガと軽機関銃で辺りを撃ちまくったかのように木々や地面に穴があく。
雅が後ろにジャンプしていったん下がりもう一度ブレイドがいたところを見ると、もう何もなかった。
だが、
「……また会おう。篠倉雅……」
「!?」
雅が首を振ってブレイドの姿を探すが、残っていたブレイドの気配が完全に消えた。
それと同時に周りに刺さっていた剣も消滅する。
しばらく雅はボーっとしていたが、ハッと意識を現実に引き戻す。
「あかんあかん……ハードな体験過ぎたせいで頭がフリーズしてもうた」
雅は頭を振って、もう一度右手に持っている貰った巻物を開く。
(ザーギン郊外のビルか。まぁ定番の場所ではあるんだけど)
住所の書かれている場所は双牙高校からは少し遠い場所にあるようだが、不可能な距離ではない。
電車で約2時間程度であるため近いと言えば近い。
ちなみに雅の主観だが『~郊外』系統の場所は秘密組織のアジトの可能性が非常に高い。
というよりも、雅が黎人と共に潜入や突入した敵の本拠地はソコにしかなかった。
まぁ、何はともあれ
「これで一旦は目星ついたってことでええんかな?」
雅は持っている巻物を鞄の中に収納すると元来た道に戻る。
チュッパチャップスどころの話ではなくなったからだ。
それに雅はブレイドの言葉を額面通り受け止めるほど純粋な人間ではない。
……主人公様ならホイホイと信じてしまうだろうが気にしては負けだろう。
(とりあえず裏付けに回りますか)
捲や水瓜に一旦会いに行くために、雅は金糸雀色の紋様が顔に浮かび上がるや否や走り出す。
「≪瞬迅≫!」
神託力を行使して、道交法を無視して双牙高校へと雅は駆け抜ける。
決戦の日はもう刻々と近づいていった。




