情報収集
雅は一旦寮に戻って、放課後から行動を開始した。
「とりあえずは仲のいい奴から聞くしかないな」
雅にとって友達はそこそこいるが、この事件をホイホイと喋るのにはリスクがある。
情報を集めれそうな人で信用出来て、尚且つ口の堅い人限定だ。
「となると、二人しかおらんのがつらいとこやな」
雅はそう言って、飴を口に含むとポーチバッグを持って寮の外に出る。
まずはすごくお調子者の変態少年の方を訪問し始めた。
◇◇◇
「ということで、かくかくしかじかでお前に頼むことにしたんだよ、捲」
「ふぅむ、俺に死ねと仰るのですか?」
「まさか(笑)、死ぬわけないじゃん(笑)」
「その(笑)が怖ぇえんだよ……」
雅は今まで起きたことを軽くまとめて話すと、捲が嫌そうな顔でそう答えた。
もちろん、フェルシアの【呪炎】の件はある程度ぼかしてはいるが。
雅が彼に情報を収集に適した人物だと思ったのはやはり捲の人望がそこそこあるからだ。
捲が基本的に雅といないときは、老若男女問わず遊んだり喋ったりしているらしい。
捲は腕を組みながら唸って喋る。
「つーか、俺みたいな一般人が手に入る情報っていうのは大した事ねぇと思うんだけど」
「そ、それはそうやけど最初からノーヒントで始めるんだからしゃないやん」
「……ま、雅からの頼みだし少しは頑張ってみるよ」
「ありがと……」
雅はもう少し渋るかと思っていたので意外だった。
捲は手を軽く上げて調子よく言う。
「美少女っぽい奴に懇願されて断れるほど、俺の肝っ玉は大きくないぜ!」
「誰が男のむすめじゃあああぁあああい!!」
「ちょ、顔面はナシ!」
雅はアッパーで捲の顎を狙うがスレスレで当たらない。
舌打ちをしながら雅は拳を収めて、改めて捲に頭を下げる。
「捲、本当に悪いけど情報収集頼む」
「いいってことよ」
雅の方に手をヒラヒラとしながら捲は自分の部屋に帰っていった。
その後ろ姿を見ながら、雅はスマホを開いてメールをとある人に送る。
(とはいっても、もう夜だから忙しいかもしれないんだよな)
そう思ってあまり期待をしていなかったが、すぐに返信はきた。
『屋上で待つ』
その短文で尚且つ男らしい言葉で返されたメールに少し笑いながら階段を上る。
◇◇◇
雅が屋上に着いた時、もうメールを返した人物は立っていた。
「こんばんは、先輩。わざわざ来てくれて超嬉しいっす」
「あら、雅ちゃん。別に今日は特に仕事なかったからいいわよ」
今時持っている人が少なそうなガラケーを片手に佇む一人の女性。
デカメロンを携える美少女、山下水瓜である。
雅自身が寮生のために先輩である水瓜との交流は多い。
水瓜は基本的に良い先輩だと教師、生と共に高評価だ。
友達思いで義理堅く、困っている人がいると助けに行く、偉そうにしているやつをぶちのめすなど。
取る行動すべては「兄貴!」と呼んでもいいぐらいカッコよく、しかも自分に素直なのだ。
(とはいっても、僕にだけ欲情したみたいな感じで接して欲しくないんやけど……)
雅にだけは何故かすごくベタベタに引っ付いてくるため雅は苦手だ。
だが、今回はソレとコレは別にする。
モテてるからいいんじゃないか?
「限度を知れ!!」と思うのが雅だ。
それは良いとして、
「雅ちゃん、とうとう先輩との夜を覚悟できたかしら?」
「ほんま何言ってるん!?」
「でも夜に呼び出しってそれしか分かんないんだけど」
「そんなんちゃう!! とりあえず話を聞いてくれてもいいやろ!?」
「んもぅ、せっかちなんだから」
水瓜はケラケラ笑いながら、屋上のフェンスに軽くもたれると真剣な顔で聞く。
「で、用件は何?」
普段ずっと笑っている水瓜を見ていたせいか、真剣な感じの水瓜に雅はちょっと気圧された。
だが、気合を入れなおすと水瓜に聞く。
「……つい昨日フェルシアが謎の組織に攫われたんですよ。それについての情報収集を手伝ってほしいのが今回の頼みです」
「ふぅん」
水瓜は話を聞くと何か納得したかのように反応をしたが、それ以上の反応は見られないのでとりあえず今までの情報を話す。
それを聞いて腕を組んで水瓜は考えると、一言。
「雅ちゃん、仮に私がその情報を持っていても簡単に教えてあげられると思う?」
「どういうことですか?」
雅の目の前まで静かに歩いてくると、指でツンと雅の鼻先を押す。
「だーかーら、リスクに見合うリターンが欲しいって言ってるのよ。こんな下手したら怪我するような仕事を何もなしでするほどお人好しじゃないわよ」
「うぐっ……普通はそうやな」
その発言で雅は思わず自分の都合のいい考えに進めていたことに気づく。
いつもなら何か報酬ありで物事を進めるのが雅のやり方だったのだが、思った以上に焦っていたためか『友情』という根拠のないことでいいのだとどこかで思っていたのだ。
(黎人の考えに毒されてしまったかな)
雅は苦笑いしながらそう考える。
捲は友情で何とかしてくれるタイプだったため失念していたのもあるだろうが。
水瓜は軽い調子で言う。
「まぁ、私も鬼じゃないから高級品なんて頼まないわ。」
「何がいいん?」
水瓜はビシッと一本だけ指を立てて条件を言う。
だが、雅にとって最悪のものだった。
「雅ちゃん、君さぁ……2年ほど前に確か写真集だしてたよねェ?」
「!?」
「保存用で本人も持ってるはずだよね? それを頂戴!」
水瓜が言っているのは、雅が金目的で一時期出版した自分の写真集だ。
その後書店で並んでいるのを見て辛くなったために、両親に言って絶版してもらったものだ。
だから市場で回っているのは約1000部らしい。
水瓜はそれを欲しいと言ってるのだ。
(ぐぅうう、どうしよ……フェルシアの命もヤバいかもしれへんけど、渡せば僕の社会生命が死ぬんですけどォオオ!?)
フェルシアのためにこの危険を負うのは、正直な話で言えば雅は嫌だった。
だがこの話を言い換えるならば、
「水瓜先輩は、そこまでの地震があるってことは何かすごい情報源でもあるんですか?」
「無論。確実に情報を探ってきてあげるわよ」
「でも、むぐぐぐぐぐ」
「そこは迷ってないで即答しなさいよ……」
水瓜が半目にしながら雅をジトッと見る。
その目に思わず、汗水タラタラな雅なのはツッコんであげないでほしい。
雅はがっくりと肩を落としながら、ポケットからメモを取り出すとサラサラと何かを書いて水瓜に渡す。
「本を後払いでいいなら、うちの親にこのメモの内容そのまま伝えたら貰えるで」
「せんきゅー」
メモをひったくって内容をしっかりと確認すると、踵を返して一言。
「じゃ、雅ちゃんにできるだけ早く伝えられるようにするからね」
「お願いします」
「はいはい、期待しないで待っててね」
雅の方を一度も振り返らずに水瓜は屋上を後にする。
屋上にたった一人残った雅は、疲れたような顔で屋上に寝ころぶ。
(あーあ、やってしもーた。水瓜先輩が下手に写真集の内容バラまかなきゃいいんだけど。ハァ……)
雅は目の前に広がるのんきそうな満天の星空に思わず毒づく。
「クソ綺麗やなぁ、こっちの気も全く知らんのに」
ただの八つ当たりでしかないのだが言わないとやっていけなかった。
まるで星たちがコッチのことを笑っているように雅は感じてしまったのもある。
しばらく夜景をみていた雅だが夜も深くなりそうだったので自分の部屋に戻った。
水瓜は雅と別れた後、高校の外でスマホを取り出すといつものように業務連絡をする。
「もしもし、オレだよ。え、詐欺はいりません? ちげーよ、だからオレは水瓜、すいかだっつーの!」
今までの丁寧な女口調とは打って変わり、男勝りな喋り方に変わった。
もしこのシーンを高校にいる知り合いが聞けば卒倒する人もいるかもしれない。
まぁ、知らないが。
それはさておき、水瓜は口元に笑みを浮かべながら乱暴な言葉で電話相手と話し続ける。
「アソコの場所の情報はだいぶ集まったんだろ?」
『……』
「あぁ~、確かに社長そんなこと言ってたな。じゃあオレが直接伝令役は駄目なのかよ……ま、後出しに教えればいいっか」
水瓜はあちゃーと軽く額に手を当てると電話越しの相手を応援する。
「オレじゃねぇなら役目はお前ってことだな。頑張れよ、No.9(ブレイド)」
『……了解。そちらもしくじらないでくださいね、No.7(アクア)』
ブレイドがそう答えるのを聞くと水瓜は電話を切った。