誰のため?
雅たち一行は授業をサボタージュして、楽しくフェルシア邸に到着していた。
無論、雅は不満タラタラだが気にしては負けである。
雅はフェルシア邸を見た瞬間に思わず、口をあんぐりあけてしまうほどインパクトが強かった。
なぜなら家の大きさが運動場を含めての公立小学校ぐらいの大きさもあったからだ。
外壁はすべて血色の赤に染め上げられていて、庭に植えられている木はレッドロビンなどばかりであったからだ。
言うなら、もう赤だらけの家だった。
そんな光景に圧倒されているとソナーに耳を引っ張られた。
「なにしてるの?早く行くわよ」
「痛い痛い! 歩くからはなせい!」
引っ張られた耳を優しくさすりながら、ついて行くとと母屋らしき場所に双子に雅は連れていかれた。
しばらく歩くと突き当りに部屋の扉があった。
2人がその前で立ち止まったので聞く。
「ここに黎人がいるん?」
「はい。今はフェルシア様のお母様が一緒です」
「待たせるのも悪いし、早く入ってね」
双子の言葉を聞いて扉のドアノブを捻ると、その部屋にはベットでうなされている黎人と妙齢の女性がそこにいた。
雅はその女性に対して挨拶をする。
「どうも篠倉雅って言います」
「あなたは確か……黎人様のご友人でいらっしゃるようですね。どうぞお越しくださいました、フェルシアの母のファリナです」
ファリナは椅子に座りながら深々と頭を下げる。
あまりにも丁寧すぎる対応に雅は驚きを隠せなかった。
(フェルシアの母親とは思えないな……)
態度が偉そうならば何かガツンと一言言ってやろうと考えていただけに拍子抜けだった。
そんな考えを知ってか知らずかファリナは早口で雅に尋ねる。
「では時間が惜しいので本題に入らせていただきます。 黎人様の今の状態を分かると聞いたのですが可能なのですか?」
「電話で聞いたかもしれませんが、『かも』ですよ。期待はやめてほしいっす」
「ならお願いします。娘の大好きな御方なのですから……」
「ズルい言い方しはりますねぇ……」
ファリナは顔を曇らせながら雅に頼み込む。
そんな言葉を言われて無理だと言えるほど雅は意志の強い人間ではない。
ベットで寝ている黎人に向けて雅は左手を額に当て、神託力を行使する。
「【全能力制御】 ≪全能力測定≫」
能力をコントロールする雅の神託力の数少なく他人に使える技術だ。
ほとんど字面から分かる通りに相手の能力や状態を見ることが出来るもの。
相手からの拒否があるとみることは叶わないが、意識がない人や許可があるなら見ることが出来る。
『見る』というのには語弊があるかもしれないが記憶として直接脳に流れ込んでくるような感覚だ。
ド忘れしていたものを思い出すような感覚が一番近い。
雅は脳内に流れ込んできた黎人の状態を瞬時に整理して容態についてファリナに話す。
「ファリナさん、こいつはやっぱり呪いにかかってますね。それもかなり重度の」
「やはりですか……」
ファリナは納得したような顔をして、すぐに黎人の治療を始める。
しかし、そのファリナの態度ににソナーとレヴィルは食いつく。
「え、ファリナ様。もしかして黎人の具合を分かってたのですか!?」
「そうなのですか?」
双子の疑問にファリナは顔を黎人の方に向けたまま難しい顔をして答える。
「ある程度予想はつけていましたが確実な情報が欲しかったからですね」
「そんな固いこと考えやんでもいいじゃないですか?」
「いえ、中途半端にしては人を殺すことにもなるのが私の職業ですから」
雅の言葉にもファリナは硬い返答を返す。
職人気質ともいえるこの性格は雅にとって苦手だった。
雅自身すごくルーズな主人公様の腰巾着として過ごしてしまったためか、真面目な人間が基本的に苦手なのである。
あのフェルシアの母親だというぐらいだから高慢チキな女性かと思い込んでいた。
実際はとても真面目な女性だったのだ。
雅はそんなどうでもいい考えをすぐに放棄して再びファリナに聞く。
「それで黎人は何日で回復しますか?」
「完治には最低3日必要かと……」
「なるほど、分かりました。じゃあ三日後にまたココに来ます」
その答えを聞いて雅はすぐに部屋から出ていこうとするが、双子に慌てて手を引っ張られて引き留められた。
「ちょ、何しに行くのよ! とりあえず天賦の呪いある程度治ってから事情を聴くのがベストじゃないの!?」
「正にその通りです。フェルシア様を救出するのにも黎人さんの力は必須です」
雅はソナーの手を振り払うとこう返す。
「残念だが、お前らは大事なことを一つ忘れている……」
「「な、ナニィ?」」
ドドドドドドという効果音が出てきそうな雰囲気とともに3人の画風のみが急に変わる。
いや、本当は雰囲気だけだが。
雅は口を開いて双子に宣告する。
「お前ら、敵のアジトの場所をお前らは分かってるん? ドゥー・ユー・アンダスタンンンンドゥ!」
「あ、ほんとだ。……戦ったけど敵のボスが全く何処行ったか分かんなかった」
「一生の不覚です、そういえば一番大事なことですね」
雅は画風を戻しながら、その言葉を聞いて落胆する。
「やっぱりそやよな……あーもー」
何故主人公が毎度敵のアジトを知っているのかと言えば、主に友人や脇役たちが本気出して地道に調査しているからなのだ。
敵の下っ端をボコボコにして情報を得るのが定番だ。
ただ、今回みたいに下っ端がいないため雅にとって珍しいパターンだ。
それに、
(黎人の復活と同時にアジトを叩かないとヤバい。時間的にな)
雅は、何の確信もないがそう感じてしまった。
今度こそ雅は部屋の扉に手を掛けると外に出ようとする。
その時に後ろのファリナから声がかかったので足を止めた。
「雅さん、あなたは……娘のために何故そこまでしてくれるのですか? 黎人さんと違って貴方にとってメリットなんて一つもないでしょう?」
「正直ないですよ。だからこそデメリットがないように助けに行くんですよ」
全く後ろを振り返らずに雅はそう答えて、扉を閉めると同時に小さく呟く。
「日常を守るためだけなんやけどな」
雅の求めているものは、大したことのない平凡な日常。
そこにフェルシアが新しく仲間入りすることは決まっているのだ。
だから、助けようとしているのだ。
廊下を雅は歩き出す。
まだお昼過ぎなので窓から差す光はとても眩しかった。
……だが、数分後に気付く。
「あ、迷った……しかも窓小さくて出れねぇええええ!!」
適当に歩いたら出ることが出来ると過信したらこのザマである。
その上窓の大きさは30×30㎝という小さめの大きさのため、雅のような低身長でも通れないのだ。
結果、カッコいい台詞を言ったのに部屋に戻る羽目になったのは言うまでもない。




