秘密と主人公
『…なるほどね』
フェルシアの言葉を聞いた黎人はほんの少しだけ考えて答える。
『じゃあ、お前自身が自分の意志を持って世界を滅ぼすっていうことか?』
『いえ、ただ存在するだけで、という意味ですわ』
『どういうことだ?』
疑問の様子に少し硬さが残る声で黎人の質問を返す。
『本当の私の神託力は……【呪炎】という呪いを纏う炎ですわ』
『……!?』
フェルシアは手からボッという音と共に火を灯し、その小さな火をじっと見つめながら続けて言う。
『私が7歳になったある日に、いつも通り屋敷で過ごしていた私たちに数十人の強盗グループが押し入ってきましたわ。
パパがちょうど出張しているところを狙っての犯行でした。
その時に使用人達には裏口から先に出てもらい、私とママは最後に逃げようとしましたが……』
『が?』
『ちょうど金目の物を物色していた強盗グループの一人に見つかってしまい、私とママは摑まってしまいましたわ。』
『……』
黎人は相槌も打てないままにフェルシアの話を聞き続ける。
『それでママが強盗グループの奴らに暴行されそうになったとき……その時に初めて私の神託力が発動しましたわ。』
『それがもしかして、』
『ええ、これが【呪炎】の始まり。
当時の私は拘束されたままに怒りに身を任せたまま神託力に手を染めましたわ。
強盗グループたち全員の負った火傷自体はたいしたことはなかったのですが、すぐに死にました』
フェルシアはざまぁ見ろと笑うが、顔色は全く優れなかった。
黎人はその表情を気にしながらも質問を重ねる。
『それってやっぱ呪いってことか?』
『その通りですわ。
この事件自体は正当防衛でカタがつきましたが、その後から私の意志に関係なく呪いの炎が体から漏れ出るようになってしまいましたわ』
『んなもの、体質だろ!?』
『……それでも怒りや悲しみ苦しみが心を蝕まれたときに制御が利かなくなってしまい、そのせいで親友まで失くしてしまって!』
フェルシアはどこか諦めているかのように、黎人に向けて悲しそうに言う。
いつも強気なはずの彼女の目には涙が半分以上溜まっていた。
『無関係な人が傷つくのは本当に嫌でしたわ』
『ッ……でも今は大丈夫じゃないか!』
フェルシアは黎人が言い返そうとするのを手で制して言葉を続ける。
『それは私自身が人と深く関わるのを最低限にまで減らした結果。もしまた人とのかかわりを求めて、何かの拍子で人を殺してしまったら私はどうすればッ……!』
フェルシア自身はずっと堪えていたのだろう。
人との関わりや友人たちとの他愛もない会話、その日常を受け取れなかったのだ。
その時黎人がフェルシアの頭をわしゃわしゃと優しく撫でる。
「お前は自分自身が災厄だと勘違いしてるかもしれないけどな、別に俺はそんなの気にしねぇよ」
「何故そこまで言えるのですか! 貴方も死ぬかもしれないのですよ!!」
フェルシアの言葉に思わず声を詰まらせてしまうが、黎人の答えはとっくに出ていた。
「う~ん、確かに死ぬのは嫌だけどさ。俺はフェルシアの事を信頼してるんだよ」
「しん……らい?」
「お前なら神託力を使いこなせるって信じてるしな。疑えっていう方が難しいと思うんだけどな」
「しんじる…」
フェルシアは何度も黎人の言葉を反芻しつつ、両手を顔に当てて下の方を向いた。
黎人は全く表情が読めないので、顔に?を浮かべつつフェルシアの顔を何とか見ようとする。
だが、
「見ないでくださいまし!!」
「グベポゥ!?」
バチコンという強烈な音と共にフェルシアから黎人は右頬をビンタされる。
力系の能力でもないのに威力はとんでもないようで、10メートルほど弾き飛ばされた。
黎人が痛みで悶絶しつつもフェルシアの方を見ると、彼女は両手で再び顔を隠しながらいたが隙間から涙が止めどなく溢れ出す。
「泣いてなんでいませんでずわ」
「じゃあ何なんだよ……」
黎人は酷く腫れた頬をさすりながらぼやく。
だが、黎人はフェルシアの目の前まで行くと優しく抱きしめる。
その行動に一瞬びっくりしたような顔をしたが、恐る恐るそのまま身を任せる。
「フェルシア、何も無理する必要なんてないんだよ。お前が思っている以上に皆優しいんだ」
「で、でも私はまだ人と親しくしても大丈夫なのですか」
「ああ、今からなら間に合うぜ。きっと雅も手伝ってくれるさ」
「……黎人さんがそういうなら私は信じますわ」
フェルシアは涙を無理やり手で拭って笑う。
そしてニヤリとして、黎人の抱きしめからスルリと抜け出すと手を引っ張る。
「では行きますわよ、時間は有限ですわ。早く帰って、友人をたくさん作る作戦を立てますわよ」
「必要なら言えよ、手伝ってやるさ」
「何を言ってるのですか? あなたのためですよ」
「えええええ、俺なの!?」
なんていう他愛のない会話を繰り返しながらフェルシアと黎人は帰路につく。
夜の綺麗な星たちが二人を静かに見守っているような気がした。
◇◇
とかいう様子を遠くから見ていたソロ充が一人、篠倉雅そのひとである。
このクッソラブラブな光景にただ嫉妬していただけではない。
ソロ充は決して恋愛を見たところで何も感じないのだ(震え声)。
さて、雅はさっきまでの話を聞いてフェルシアの事を少しだけ理解できた。
自身の神託力のせいで存在そのものが脅威だと感じられるという偏見。
……一人一人が能力を持つこの世界ではそのような差別される人なんてわんさか存在している。
弱すぎるが故に虐められたリ、強すぎるが故に無視をされたりをだ。
(本当は友達欲しかったねんな……でも黎人よ、勝手に僕を巻き込むんじゃねぇ)
などと雅が少し唸っていると、凛化に服の袖を引っ張られた。
「ミー兄、今二人ともとってもいい雰囲気だね」
「ま、否定はしやんけど」
2人の今の状況を見て、険悪な雰囲気と感じたのならば今すぐ凛化をカウンセリングに連れて行ってやろうかと思う雅である。
その凛化がワクワクしたような顔でこう続ける。
「はやくキッスしてくれないかなぁ。早く見たい!」
「そんなすぐにキスまでいかんやろ。つーか、ハグでも●ねって思う」
「嫉妬が強すぎる気がするよ、ミー兄。 可哀想に……ハグしてあげようか?」
「NO」
凛化が腕をバッと広げてカモンという感じにしてくれてるが、雅は近づいてデコピンを喰らわせる。
軽くしただけなのに凛化は勢いよく後ろ向きにコケる。
「ちょっと! 対応が雑!!」
「JCからの哀れみなど僕は受けへんからな!」
「一つしか変わらないのに結構言うねェ」
「ま、そやけど。ハァ、フェルシアの友人作り作戦とやら絶対巻き込まれるやつやん」
「そう言いながら、ちゃんと付き合うから優しいよね」
「いっとけ」
雅は顔をめんどくさそうに歪めながらメモ帳を取り出して、自身の友人で紹介できそうな人を探す。
その様子を見て、凛化は頬を赤く染めて小声で少し付け足す。
「……そういう何だかんだで優しいところが好きなんだよね」
「ん、なんか言った?」
「な、なにもない!!!」
凛化が慌ててそう言うと顔を少し疑問を顔にしながらも歩き始める、雅自身の帰路に。
雅は大あくびをしながら軽く肩を回す。
「はぁぁああ、今日は疲れたわ」
「そこには同意。早く帰ろ~」
こうして、雅と凛化の長い一日が終わる。
更新が一旦ストップしてすいません><
これからは週1でまた頑張るのでよろしくお願いします!!