主人公の友人
「じゃあ、いってきまーす。」
そう言って、一人の少年は玄関を開けて外に走って出た。
制服をきっちり着て右手にキャリーケース、左手に大きな旅行用鞄をもっていた。
少年の名前は篠倉雅、今日で高校1年生になった15歳の関西人である。
外見は、折れそうなほど細い腕に雪もいかやというほどの白い肌。
その上、腰にまで届くほどの艶やかな黒髪を持っているのと、女性に間違いそうなぐらいな可愛い顔を持つ少年だ。所謂、男の娘と呼ばれる人種だ。
雅は最寄り駅まで走ってつくと前日に買ったIKOKAで改札を通るが、
「って、電車閉まりそうやん!車掌さんちょいまってー!!」
「ちょっと早くしてください!!もう出発ですよ!?」
馴染みの車掌さんに怒鳴られてペコペコしながらホームの階段を三段飛ばしで駆け下りた。
その後ホームから出そうになる電車に慌てて乗り込み、一息をついた。
若干重い鞄二つを自分の足元に置き額についた汗をぬぐう。
「ふ~、疲れた。とりあえず休憩がてらゲームしよっと。」
雅は、ポケットに入れてあった小型電子端末を動かしゲームを始めるが、周囲からジロジロと顔を見られて集中できなくなりすぐにやめてポケットに仕舞った。
理由は簡単、男性用の制服をきた少女にしか見えないからだ。
そのせいで雅に周囲が釘付けになっているからだ。ちょっとイライラしながら見てきた人を睨みつける。
(ほんま髪の毛断髪したいわ。あと顔面整形も………)
雅は自分の容姿に愚痴を心の中で吐きつつ、ため息を一つついて、双牙高校のパンフレットを取り出し読む。
雅はこの春に国立双牙高校という、まぁまぁ頭のいい高校に入学した。
雅自身はそこまで頭のいい自覚はなかったが、有名私立校に挑戦してもいいほどの実力の持ち主である。
そこはやる気の問題だけであったのだが。
今日は入学式兼入寮式の日である。
寮に入るには事前の手続きがいるため、早めの電車に乗ったのだ。
雅は、走ったせいで汗で若干髪が濡れていて肌に引っ付くため、ポーチから紅い紐で髪の毛をポニーテールに括りパンフレットをもう一度読む。
「ふむふむ、男女共学になったのは3年前ほどか………これは良かった。苦労しないですみそうや」
今までの苦労を思い出しつつ、しみじみそう言った。
雅がパンフレットを数ページ読んでると、電車のイスが空き始めたため座って読み始めた。
読んでる途中早起きしたためか眠気が襲ってきて、雅は一時的に寝てしまった。
◇◇◇
雅は肩を揺すられて目を覚ました。
周りにはほとんど人がいなかった、というより降りた感じであった。
「…おきて?もう次で学校の最寄り駅だよ?」
そう声を掛けられて雅が目を開けると、目の前に肩を揺すってくれた人物が立っていた。
双牙高校指定の制服に白い猫耳パーカーをきたセミロングぐらいの白い髪の女の子が、雅の顔を覗き込んでそう言った。
雅は慌てて起きてお礼を言った。
「こんまま寝てたら遅刻するとこやったわ。ほんまありがとう」
「そう……じゃあね」
少女は無表情でそう答えると、電車のドアをするりと抜けてホームへと向かっていった。
都会の人が怖いという印象を持っていた雅はしみじみと、
「ええひとやったな~。僕ももうちょいがんばろ~」
と言って少女が歩いて行った方向を見ていた。
その後、雅は軽く伸びをしようとするとドアが閉まりそうだったので慌てて電車の中から出た。
雅はホームから出るとスマホを使い地図で高校までの道を設定すると、それを見ながらのんびりと歩き始めた。
◇◇◇
雅は周りの都会の風景を目に焼き付けつつ、しばらく歩いていると住宅街にさしかかり、そこにはコンクリート塀で曲がった先が見えないT字路があった。
雅はそこで、昔からの友でもある天賦黎人がいることに気付いた。
しかし、雅の位置は交差点30M手前で、黎人はもう3M未満であった。
(入学式の交差点でのんきに歩くんかい。いつものパターンかんがえてみーな、黎人……)
この次の未来予想図を雅は分かっているが、今更言っても遅いので何もしなかった。
数秒後、黎人が高速で走っていた遅刻系金髪女子と思いっきりぶつかったのを目撃した。
二人同時に後ろ向きに転んで、少女の方は頭をぶつけて痛そうにしているだけだが、黎人はぶつかった衝撃で反対側のコンクリート塀に頭がめり込んでいる。
コメディかよ……とか思いながら雅は、ついでに金髪少女のスカートの中も軽く拝んでおく。
(ふむ、黄色か。悪くない)
雅がそんな破廉恥なことを考えていると、後ろ向きに倒れていた少女は起き上がる。
そして、雅の方を見ると頭をさげた。
「あ、ぶつかってごめん。急いでいるから!!」
そう言うと立ち上がって、真っすぐ学校に向かって走っていった。
黎人はやっとコンクリート塀から抜け出せたが、未だに顔を抑えて悶絶している。
中学生の時もほとんど似たような状況になったのを数度見たので心配する必要もないと思い、雅は交差点を気をつけながら歩こうとした。
しかし、黎人に足首を掴まれた。
「まて、今何が起きたか説明してくれ。我が親友であり男の娘、雅よ。」
黎人の顔は若干笑みを含めたボコボコフェイスでそう言った。
……言わずもがな分かると思うが、天賦黎人はハーレム系主人公である。
<黎人が交差点を曲がる=女子とぶつかる>という方程式は確立されているのだ。
モテるのは正直羨ましく思う雅だが、偶にイラッとする発言に殺意を沸くことがしばしばである。
雅は顔を鬼のようにして、掴んできた手を蹴り飛ばしてから乱暴に暴言を吐く。
「痛い!!」
「男の娘言うなって前からいっとるやん。それに今のは僕ちゃうし、ぶつかって来た少女に言ってぇな」
「また出会えたら言うしかねえな。つーか男の娘は合ってるじゃん」
「うっせえ、失せ●●●野郎。●●になりやがれ!!」
「そんな女の子顔なのに卑猥なこといったらダメだって…ちょごめ、ま……ァアァァーーーーッッッ!!!!!」
どこぞのホモが現れそうな声が町中に響き渡った。
つまり、雅は股間に蹴りを叩き込んで、黎人を悶絶させたまま学校に向かったということだ。
T字路を曲がるまでにかなりの時間を消費してしまったため、早歩きで学校に向かう。
学校の正門が見えた時に素晴らしい景色が見えた。
正門までの道に朱色の桜が一面に咲き誇っていたからだ。
一言で表すなら炎が舞い散る城である。
綺麗な校舎、見たこともない風景、都会、教師、そしてまだ見ぬ同級生たち。
ここで新しい生活が始まるのだと雅は感じ、嬉しさ半分、不安少し、高揚感MAXで正門をくぐった。
「さて、これから新しい生活が始まるんやな………楽しみや」
雅は入学式に参加するため、体育館に向かって歩き始めた。
その途中救急車の音が聞こえて、さっきまで雅が歩いていた道を通っていくことはさすがに彼も気付かなかったようだ。
「救急車とか病人でも出たんかな?ま、関係ないか」
雅は、一度立ち止まったがすぐに歩き始めた。
関西弁を流暢に喋る男の娘が、ハーレム主人公や同級生に振り回される日常を駆け回る日常系ローファンタジーここに開幕!