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「―――私はどうしてもルーフェル王国に行って、“彼”に会わなくちゃいけないの。お金は必ず払う。だから、お願い。“彼”に会うまで、貴方には護衛をして欲しいの」

 ある時、黒服の男に襲われていた彼女を偶然見かけて、助けたことがある。すると、彼女は俺の腕を見込んでか、そんなお願いをしてきた。

 別に、今までにも護衛と言った仕事はよくやった。おかしい依頼ではない。だが、

「………断る。君には家族がいるのだろう?君がいなくなれば、家族が心配するだろう」

 彼女はまだ成人になっていないだろうあどけなさがまだ残る少女。両親の許可がないのに、ルーフェル王国に連れて行けば、事情がどうであれ、俺が誘拐犯になる。そんな危ない橋を渡るつもりはない。

「………家族はもういないわ」

 そう話す彼女の表情は寂しそうだった。何らかの事情があるのだろう。

「家族はいなくても、保護者はいるだろう。その許可なしに連れて行くわけにはいかない

 彼女がその保護者を家族と思わなくても、家族であることは間違いない。血が繋がっていても、いなくても、家族は家族だ。大切にするべきだろう。

 俺はとある集落で産まれた。剣術に優れた一族で、女子供関わらず、相当の腕前を持っていた。だが、その集落はとある紛争で壊滅した。一番病弱で、力がなかったはずの俺が生き残った。あの時、死にたかったが、できなかった。母が残した最期の言葉。アレを思いだせば、死ぬことができない。

『貴方は一族の誰よりも、世界に愛された子。貴方はどんなことがあっても生きなさい。それが貴方の務め。そして、貴方が幸せになることは私達が一番願っているわ』

 俺を生かせてくれた彼女達の想いを無駄にしてはいけない。何もできなかった俺が唯一できる恩返しは幸せになることだから。

 だから、家族が生きているのなら、どんな親でも大切にするべきだ。俺の家族のように、死んでしまったら、もうできないことだから。

「あんなのが家族?冗談は休み休み言って。もう私には大切な人なんていないわ。私が大切に思うのは“彼”だけよ」

 “彼”以外の大切な人間はもういない。彼女は拒絶する。

 彼女はどんな環境で生きてきたのかなんて、俺には分からない。俺にはどうすることもできない。

「………馬鹿馬鹿しい。それなら、俺もいらないだろう。一人でどうにかすればいい」

「待ちなさいよ。困っている人を放っておくなんて、貴方はそれでも英雄なの?」

「周りがそう言っているだけだ。俺はただ教え子に力を貸しただけだ」

 彼らがこの国を愛していたからこそ、力を貸した。それだけだ。ちゃんとそれにあった金も貰った。いわゆる、雇われ傭兵だ。そんな奴を英雄と言うのはおかしい。

 本当の英雄は彼らなのだから。

「………そんなことどうでもいいわ。私はどうしても貴方が必要なの」

「確か、お前はその想い人以外はいらないんじゃなかったのか?」

「そうよ。だけど、“彼”はいない。だから、“彼”の代わりに、私を守ってくれる人が欲しいの」

「………そんな都合よく、王子様がいるのなら、誰も苦労はしない」

 そう、救世主が都合よくいるのなら、俺の集落は無くならずに済んだはずだ。俺がこんな虚しい想いをせずに……。

「確かにそうね。でもね、私は意外と強運の持ち主なの。絶対、私は幸せを掴むわ。これ以上、私は鳥籠の鳥になっているつもりはさらさらないの」

 必ず、私は“彼”と一緒に幸せになる、と彼女は言う。その自信が何処から湧いてくるのか知らないが、不思議な少女だ。

「なら、その運を使ったら、その想い人に会えるんじゃないのか?」

「だから、その運を使って、私は貴方に会った。これこそ、私だからなせる技だと思わない?」

「俺はお前のお眼鏡に合う人間ではない。昔ほどではないが、ここは治安が悪い。家に帰ることを勧める」

「ご忠告ありがとう。でも、私は帰らないわ。いや、帰れないわ。だって、貴方の言う私を連れ帰ろうとした家族は貴方が倒してくれたのだから」

 彼女はけろっとそんなことを言う。もしや、さっきのは彼女を襲ったのではなく、彼女を連れ戻そうとしていたのか。自分のしたことだが、余計なことをしたものだ。

「それか。それは悪いことしたな。お前が帰る交通費は払ってやるから、自分で帰れ」

「そんなことよりも、私をルーフェル王国に連れて行ってくれた方が嬉しいんだけど?」

「だから、誰が我儘お嬢様をエスコートするか。勝手にしろ。これ以上、お前に付き合わされるのは御免だ」

 俺はそう言い、この国に来て、拠点としている喫茶店に足を運ぶ。だが、

「………何故、付いてくる?」

「勝手にしろって、言われたから、貴方に付いてきているだけよ」

「違う。俺はお前みたいな我儘娘の相手などする気はない。付いてくるな」

「いやよ」

 強情な彼女は結局、喫茶店まで付いてきてしまった。その後、俺の後ろにいた彼女を見た白虎や青龍は驚いた表情を浮かべていたのは言うまでもない。

 そう、これが俺達の出会い。そして、奴との再会のカウントダウンがきられた瞬間である。


***

 朱雀さん達の結婚式は明日。王宮で盛大に行われるらしく、皇帝陛下も出席されるそうだ。町では青龍さんは勿論、朱雀さんは有名人で、明日の結婚式で話題が持ちきりである。

 そんな結婚式に、親父はとにかく、俺たちみたいな異国の人間が参加していいのか疑問に思う。

 そんな俺とは正反対に、結婚式の料理を楽しみで仕方がない青い鳥さんは今日も帝王キュリオテテスを見つける為に、縄を振り回して、町を駆け巡っている。することのない俺もそれに付き合わされているわけだが、それに付き合って数秒もかからずに、はぐれた。いや、青い鳥の姿を見失った。

 お前が俺に協力させておいたくせに、勝手に消えるな、と言いたいが、あの青い鳥さんに言っても無駄だと分かっているので、俺は俺で、本屋巡りをしている。

 異国の文化に触れる機会など滅多にないので、この機会に、いろいろと知っておくのもいいだろう。

 この国では“魔力”ではなく、“気”と言われており、その“気”を使って、戦いに応用しているそうだ。元々の起源は東方の国かららしいが。

 流石に、ルーフェル王国のように自由自在には使いこなしていないようだが、彼らの考えは興味深い。何たって、魔法陣を使わずに、自分の力を高めることができるのだから。

 その為、この国の魔法使いは気功士と言われているそうだ。もしかしたら、青龍さん達なら、優秀な気功士を知っているかもしれないので、できることなら、紹介してもらおう。

「………君は気功士に興味があるのか?」

 赤髪に、青色の瞳を持った男性が声を掛けてくる。彼とは会ったことがないはずなのに、彼の醸し出す雰囲気には何処となく覚えがある。何処であったのだろうか?

「こう言ったものに興味が持つとは、魔法使いか何なのかな?」

「一応、魔法使いのはしくれですが、よく分かりましたね?」

「気功士がそんな初歩的な文献を読むとは思えないからね。かく言う私も気功に興味があって、寄ったわけだが」

 彼はそう言って、本を取り出す。

「そうなんですか。貴方も魔法を?」

「ああ。だが、私の場合は連れに覚えさせようかな、と思ったわけだが」

 あいつは魔法と言うものに苦手意識を持っているから、これなら覚えるかなと思ってね、と彼は言う。

 魔法使いで、魔法が苦手な人がいるとは思わなかった。魔法が得意だから、魔法使いになるとばかり思っていた。もしかしたら、そのお連れさんは無理矢理魔法を覚えさせられているのだろうか?

「これ以上、連れを待たしていると、文句言われるな。それに、昨日から赤毛狩りが始まっているらしいから、気を付けるように言われているんだ。この国はいつ来ても、面白いことをしているな」

 おそらく、彼が言う赤毛狩りは帝王を捕獲しようと意気込んでいる青い鳥さんの仕業だろう。あいつはもう少し大人しく探すことはできないのか?

「君とは少し話していたかったが、私はそろそろ退散しよう。間違って、赤毛狩りに遭いたくはないからね」

 彼はそう言って、その場からいなくなった。

「………そう言えば、名前を聞くのを忘れてたな」

 彼からは只ならぬ魔力を感じたので、もしかしたら、俺が知らないだけで、彼は結構有名な魔法使いなのかもしれない。

 凄腕の魔法使いなら、魔法談義をしたかったので、残念で仕方がない。

―気功士?面白いもの調べてるね―

 いつものことながら、スノウの声が聴こえてくる。余程暇なのか、それとも、弟の相手が疲れたのか、またここに遊びに来たらしい。

―自分の中の魔力を媒介なしに使うことができるのが、君にしては魅力と言うこと?君はあれほどの力を身に付けているのに、本当に貪欲だね―

「………今はお前が欲しがるものはないぞ」

 もう朝食は済ませてあるし、昼食にしてはまだ早すぎる。

―ボクがご飯の為に来ていると思われているとは心外だよ。ボクは君のことが気になって、来てあげたのに―

「俺が危なかったら、強制的に呼び出すに決まっているだろ」

―それもそうだね―

 こいつがわざわざ出て来なくても、強制的に呼び出すこともできる。はっきり言って、俺が呼び出す回数より、こいつが勝手に出てくることの方が多いのは言うまでもない。

 と言うか、こいつが出てくるほとんどの理由は食べ物関連であるので、俺がそう思ってもおかしくない。

―まあ、君の近くで懐かしい魔力を感じたものだから出て来たんだ。彼が近くにいるのかなって―

「………彼?」

―こっちの話。さっきは感じたのに、消えちゃったけど。それよりも、そんなものを覚えなくても、ボクの力を使えば、そんな玩具騙しの力より強力な魔法を使えるのに―

「玩具騙しと言うな」

 実際、そうなのかもしれない。何たって、こいつは精霊様で、こいつに憑依されれば、強大な力を得ることができる。ただし、多様は控えた方がいいらしい。

 赤犬さん曰く、自分と違う魔力が自分の中に入るということは身体にとって相当な負担になるらしい。だから、俺は今回あまり怪我を負ってもいないのに、二週間も入院させられたわけである。

 その為、白髪変態に、君の身体は予想以上に頑丈だね、と言われた。どんな凄腕の魔法使いでも、精霊が入りこんで、無事でいるはずがないそうだ。

 もしかしたら、こいつもそのことを知っていて、今まで契約をしようとしなかった。そして、親父もこいつと契約をさせないようにと、森を守っていたのかもしれない。

 魔法使いでもないのに、そこまでの危険を知っていた親父は何者なのだろうか?彼は魔法について勉強などしたことないはずなのに。

「俺は長生きしたいから、本当に必要な時以外はお前に頼らないと決めたんだ」

 とは言え、こいつの力以外にも、他の魔法も俺の寿命を縮めそうな奴ばかりだが。

―ふーん。でも、青い鳥と付き合っている限りは長生きできなさそうだけどね―

「それを言うな」

 それを言ってしまったら、終わりだ。俺の短命人生は青い鳥の出会いから決まってしまっていると言いたいのか。

―それにしても、あのまま、青い鳥を放っておいていいの?―

 そいつはそんなことを言ってくる。

「どう言う意味だ?」

―だって、青い鳥、火の気を感じる人を片っ端から捕まえているけど?―

 今もまた捕まえた、とそいつは言う。

「………あいつはこの国に来てまで、俺に迷惑を掛けたいのか?」

―ただ、自分がしたいことをしているだけじゃない?―

 確かに、そいつの言う通り、あいつはただ自分のしたいことをしているだけだ。そのほとんどが俺に気苦労を与えているわけだが。

 あの後、俺は急いで魔女狩りならぬ赤毛狩りをしている青い鳥を捕獲して、この町でおきていた珍騒動を鎮静化させたのは言うまでもない。

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