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 俺の集落が滅ぼされ、一人生き残った俺には味方はおらず、全てが敵だった。出会ったものは全て殺さないと、俺が死ぬ運命になる。

 だが、どうして、そこまで生き残ろうとしたのかは今でも分からない。あの時、死んでおけば、楽だっただろうに。あんな思いもしなかっただろうに。

 それでも、俺は生きた。類稀なる剣の才能に恵まれ、そして、今まで身体を蝕んでばかりいた魔力があったお陰かもしれない。

 とは言え、奴に言われるまで俺は気付くことが出来なかった。魔力と言っても、一口には言い表すことができないらしい。魔力には土、風、火、水の四大元素の割合によって質が変わるそうだ。魔法使いによって、得意不得意が出てしまうのはその割合に偏りが出てしまうからだそうだ。

 一般的、魔法陣を介して、魔法を使うことができるらしいが、稀に、精霊に愛された人間(正確に言えば、自然に存在する魔力と親和性が高い人間)と言うものが出てくるらしい。そいつらは魔法陣を介さなくても魔法を使役できるそうだ。そう言った人間は先祖に精霊や聖獣と言われた奴らと契約していることが多いそうだ。

 俺や上の息子は先祖がそう言った生き物と無縁に生きてきたはずなのに、偶然、精霊に愛される体質(あの少女がいれば、おそらく、愛され体質とでも言うだろう)を持って生まれた。それはあの村にいつからか知らないが、村の近くの森に住みついている精霊もそう言っていたので、間違いはないだろう(その所為で、上の息子が森に呼ばれていたと思われる)。

 その精霊曰く、俺と上の息子は自然界に最も近い魔力を宿しているそうだ。他にも言っていたような気がするが、忘れてしまった。上の息子はパーソナリティーのない魔法使いだと嘆いていたので、それには気付いていないだろう。

 とは言え、剣で生きていくと決めた俺にしてみれば、あまり必要のないスキルのようにも思える。あの精霊や奴は俺が知らないだけで、無意識に魔法を使っているらしい。本人が気付いていないのだから、使っていないのと同じだろう。だが、


『貴方は本当に綺麗な魔力を持っているのね』


 あの時、彼女がそう言ってくれたのは正直言って、嬉しかった。それ以外、あまり意味がない代物だったとしても……。


***

 親父達が戻ってきた頃、朱雀さんが用意した馬車に乗って、朱雀さんの家に向かった。青龍さんがこの国の指揮官だと聞かされたので、立派な家に住んでいると思っていたが、これは予想外すぎる。

「滞在中は我が家だと思って、くつろいで下さい」

 青龍さんはそう言ってくるが、この家でどうやってくつろげと言うのだろうか?

 この家の敷地は貴族の敷地よりも広い。

「………親父、やはりホテルか何処か取った方が良かったんじゃないのか?」

 庶民派の俺は親父にそう話しかけるが、

「今、そう言われても、仕方がない。出来ることなら、そうしたいが、あいつがそれを許さないだろう」

 親父は朱雀さんを見る。彼女は今までのこと全て洗いざらい話してもらうから、と言っていた。その中で、親父が逃走を試みたら、親父の死体が一つ出来上がるかもしれない。

「………この家で怖じ気付いたら、ここよりも大きい敷地の家で住めません」

 野心家である青い鳥さんがそんなことを言ってくる。こいつはこれ以上大きい家に住むつもりなのか?ここでも相当広いと思うが。

「勿論です。私は信じています。貴方が私の為に大きな家をプレゼントしてくれることを」

「それは信じないで下さい。そんなに住みたいんだったら、自分で買え!!」

「ムウ。仕方ありません。私が頑張って買って、貴方と一緒に住みます」

「最後はそこに行きつくんだな。俺はまだお前と一緒になるとは言っていないぞ」

「まだ、ですか。いつかは私と一緒になってくれるのですか?」

 こいつはそう畳みかける。しまった。さっきのは失言だった。

「………そう言えば、玄武。貴方は結婚式、何を着て出席するのかしら?」

 朱雀さんは思いだしたかのようにそう言ってくる。

「………何を着る?何のことだ」

 一方、親父は何を言っているんだ、と言わんばかりの怪訝そうな表情を浮かべる。

「まさか、このままで出るとは言わないわよね?」

「このまま出る以外に、何で出るんだ?」

 親父は当然と言うばかりの表情で言ってくる。それには朱雀さんは呆れた表情を浮かべ、青龍さんや白虎さんは苦笑いを浮かべていた。

「このままではいけないのか?」

「当たり前でしょ!!結婚式なんだから、正装をするに決まっているでしょう!!」

 朱雀さんはそう叫んでくる。

「………お前ら、用意してきたのか?」

 親父は俺達を見る。お前らも用意して来ていないだろう、と。

「当たり前です。結婚式ですから、正装するのは当然です」

 青い鳥はレイモンド宅のパーティーで来ていたドレスを旅行バックから取り出す。

「これがまた着る機会があって良かったです。自分の目で、自分のドレス姿を見ることができます」

 青い鳥は嬉しそうに言う。あの時、レイモンドさんから俺達が来ていた礼服やドレスをくれたのだが、青い鳥はとにかく、俺のものは帝王との闘いでボロボロだった。そう言う事情から、わざわざ、レイモンドさんが俺の為に作って、送ってくれた。

「………一応、俺も持って来た」

 お袋が礼服を持っていきなさい、と言って来たので、レイモンドさんから貰ったソレを持ってきた。お袋は親父には言わなかったようだが、親父に言っても、持っていないと思って、敢えて言わなかったのかもしれないが。

 一方、俺達の返答に、親父は驚きの表情を見せる。まさか、俺達がそんなものを持っているとは思わなかったのだろう。

「………貴方の子供達は貴方と違って、しっかりしているみたいね。こんなことだと思っていたから、ちゃんと手は打ってあるわ」

 用意してくれる?と、彼女がそう言うと、メイドさん達が姿を現す。まさか、青龍さんの家でメイドさんを雇っているとは思わなかった。

「………これは」

「皇帝陛下に頼んで、メイドを借りたのよ。彼にアレを着せてあげて」

「かしこまりました」

「ちょ……」

 親父が反論する前に、親父はメイドさんに連れてかれてしまった。流石、城のメイドさん。あなどれない。

「………あの親父は」

「ああ、安心してもいいわ。サイズの寸法が合っているか見るためよ。別に、食ってとろうと言うわけではないわ」

 朱雀さんは親父の後姿を見て、そう言う。

「それにしても、よく短時間で用意できたな」

 おそらく、オーダーメイドだろ、と白虎さんは言う。

「そうよ。だけど、用意をしたのは私じゃないわ。皇帝陛下よ。玄武が来るって言ったら、張り切って用意してたわよ」

「あの人か。あの人ならとんでもないものを選びそうだがな」

 白虎さんは苦笑いで言うと、

「一応、俺も見せて貰いましたが、皇帝陛下にしてはマシな部類でしたよ」

 青龍さんはそんなことを言う。

 それを聞いていると、こちらの皇帝陛下のセンスはとんでもないようである。とは言え、俺達の国の国王陛下は奇抜なアイマスクをしていたこともあるが。

「ゲンおじさんが帰ってきました」

 青い鳥がそう言うと、いつもとは違う親父の姿を現す。

「………これはどう言うことだ」

 親父は朱雀さんに言い寄る。

「あら。似合ってるじゃない」

「似合っているかはどうでもいい。この恰好で参加しろと言うのか?」

「当たり前じゃない。何を言っているのかしら?」

 いつものサングラス、カンカン帽、アロハシャツの三点セットではなく、白の礼服に、無造作な髪は一つ縛りに縛られており、見た目は放蕩御曹司である。

 自分の親父のことながら、若い女性が親父を見たら、見逃しはしないほど格好いい。やはり、着ているものの印象で、人は変わって見えるものらしい。

「格好いいです。今のゲンおじさんなら、結婚してもいいです」

 青い鳥は笑えない冗談を言ってくれる。そんなことしたら、我が家は未曾有の夫婦喧嘩に発展するだろうが。

「お袋が今の姿を見たら、惚れ直すかもしれないな」

 まあ、あのお袋は親父がどんな格好をしていても、気にしないかもしれない。話によると、お袋は親父の性格に惚れ込んだらしいから。

「まあ、安心しろ。今のお前と“玄武”を結びつける奴はいない。今はただの貴族のボンボンだ」

 白虎さんはそう言い切る。

「そうだとしても、どう安心しろと言うんだ?何で、俺だけがこんな目に……」

「まあ、運命だ。受け入れろ。俺も出席するから、一緒に若い女性をナンパするか?」

「………一人でやってろ。俺はお前と違って、既婚者だ」

 そんなことをしたら、サーシャに殺される、と親父は真面目な表情で言う。それはそうだろ。何たって、自分の息子の女装姿が好みと言っただけで、アウトなのだから。

「冷たいな。まあいいさ。一人で綺麗なお姉さん達をナンパするさ」

「………白虎さん、貴方がどれだけ彼女を作ろうともう気にはしませんが、ごたごたに発展することだけはやめて下さい」

 青龍さんは呆れた様子で言う。どうやら、白虎さんはいろいろなところで彼女を作り、ゴタゴタを起こしているそうだ。おそらく、青龍さんはその後処理をさせられているのだろう。彼がとても哀れに見える。


 あの後、親父は朱雀さんに連れてかれた。この恰好を皇帝陛下に見せるそうだ。彼らに、青龍さん、そして、何故か、青い鳥も付いていった。

 優秀な武人達と闘いたいです、と言ったら、朱雀さんが『それなら、皇帝陛下と謁見したら、訓練場に連れて行ってあげるわ』といったので、喜んで付いて行ってしまった。

 一方、俺は武人やら、武道とは無縁の世界で生きて来たので、付いていかなかった。すると、ここで待っているのはつまらないと思うから、町を紹介してやろうか、と白虎さんが言ってくれたので、お言葉に甘えて、案内してもらっている。

「………凄いですね」

 白虎さんに市場に連れて行って貰ったのだが、その賑わいは予想以上である。しかも、珍しい果物や野菜があるので、それをお菓子にして、エン達に持って帰ってやろうか。

「まあな。それより、聞いてもいいか?」

「何ですか?」

「君は動物なんて連れていたか?」

「………動物って……、お前、どうして、ここにいるんだ!?」

 我が家のマスコット兼ペットのウサギとブタの合いの子のような姿をしたスノウがいた。それは青い鳥が子供に付けたいと言っていた名前である。青い鳥の妄想物語からつけたわけだが、本人様も気に入っているようである。

「エン達の面倒を見てろって言ったただろうが」

 本人がそこまで遠出するのが好きでなさそうだし、俺達や親父がいなくなると、何かあった時の為に対応できる人間がいなくなってしまう。その為、こいつを置いてきた。本人も了承していたと思ったが。

―暇だったから、出てきた。君の弟なら、元気に走り回ってるよ。あと、ハクと黒龍が来てる―

 こいつは簡潔に話してくれる。とは言え、この声は俺くらいしか聞こえない。ハクにも聴こえているようだ。もしかしたら、黒龍さんもこいつの声を聴くことができるかもしれない。

―あっちのご飯は美味しくないから、食べに来た―

 ちゃんと、本音も言ってくれる。確かに、お袋の手抜き料理は不味くはないが、美味しくもない。ご飯を食べに来たのだったら、さっさと餌を与えて、お帰り願おう。今は黒龍さんがいるにしても、そう長くはいないだろう。

「……あまり気にしないで下さい。こいつは神出鬼没ですから、突然出てくることがあるんです」

「……そうか。だが、ウサギのような、ブタのような生き物は君の国ではポピュラーなのか?東方の国から旅をしてきたが、こんな生き物は初めて見た」

 白虎さんは物珍しそうにこいつを見る。いやいや、俺の国でもポピュラーではない。こいつは“ジン”と言われる種族で、実体を持たない生命体である。

 おそらく、この姿は世界に一体だけしか存在しないかなり貴重な生き物だ。

「………東方の国から、ですか?白虎さんも元々はそっち出身だったのですか?」

「まあな。旅の途中でお前の親父と出会って、なし崩し的にこの国に流れて来た」

 同じ国出身だが、集落は違ったようだな、と白虎さんは言う。

「あの国はいろいろな宗教がごっちゃ混ぜになって、一族ごとに集落を作っていた。その為、集落ごとで紛争なんて日常茶飯事で、事情は違うと思うが、俺やあいつの集落はそれで無くなってしまった」

「それで、白虎さんと親父が出会った、と」

「ああ。初対面の時は命を賭けて戦ったけどな」

「………はい?」

 何故、会っただけで、戦いになる?

「あそこはそう言うところだ。信じられるのは自分自身だけだ。特に、俺たちみたいに、居場所を失った奴は自分以外敵だ。そうなっても、おかしくない。だが、俺達は互いの力を見て、こいつと一緒にいれば、利益になると確信して、手を組んだ。あそこまでの剣術は見たことがなかったからな。あいつを味方にすれば、生きていけると思ったわけだ」

 俺には想像できない世界に親父や白虎さんはいたらしい。

「親父って、凄腕の剣士なんですか?」

 俺は親父が剣を握っているところなど見たことがない。せいぜい、親父が持っていた武器は銃や斧くらいだ。

 確か、親父は青龍さんや朱雀さんの剣の師匠だったと言っていたし、青い鳥も親父の剣の腕を見込んでいたようなことを言っていた。

 親父は只者ではないと言うことは分かっていたが、一体、何者なのだろうか?

「知らなかったのか?この世界で、君の親父は勝てる剣士はあまりいないだろう。彼の剣術を目の当たりにした者は“黒の剣聖”と呼んだものだ。君の親父のこと歌った詩もあるらしいから、暇があったら、探してみるといい」

「そうします」

 もしかしたら、青い鳥に聞けば、その詩のことについて聞けるかもしれない。

「それじゃあ、他を回るか」

「………あの、少しここで買い物してもいいですか?」

「???何で、君が食材を買う必要があるんだ?」

 白虎さんは不思議そうに尋ねる。

「珍しい食材があるので、買っておきたいんです」

 ここの国の伝統料理を覚えて帰りたいのもあるが、その前に、こいつに美味しい餌を与えなければ、我が家に帰ってくれない。

「そうか。なら、付き合おうか」

 一人で待っているのは暇だからな、と白虎さんはそう言ってくれる。

「ありがとうございます」

 俺は白虎さんに感謝の言葉を述べて、少し買い物させて貰うことにした。俺達の国と気候が違う所為か、見たことのない食材がいろいろと並んでいる。

―どれも不味そう―

「お前は失礼なことを言うな」

 これは農家のおじさん達が汗水垂らして、出荷したものだ。お前みたいな奴は草でも食ってろ。

 俺がふと見ると、とある所に人だかりができており、

『―――もう少し安くならんのか?あと、100エル負けてくれや』

『………お客さん、これでも負けているんだけどな』

『そこを何とか。そうしてくれへんと、俺、殺されてしまうんや』

 聞き覚えのある声が聴こえてくる。まさか………。俺はその人だかりを分けて、進むと、真っ赤な毛をした青年が店のおじさんと値段交渉をしていた。

 見間違うことはない。彼は青い鳥の幼馴染であり、教会が誇る化け物集団である執行者の一人“帝王キュリオテテス”である。彼は執行者が誇る最強の剣士であり、こんなところとは無縁の人である。

「仕方ない。持ってけ、泥棒。100エル負けてやる」

「おおきに。これで、殺されへんで済むわ」

 生きてるって、素晴らしいわ、と彼は涙を浮かべている。

 すると、彼と眼が合う。髪を染めているので、一瞬では分からなかったらしいが、俺だと気付くと、その瞬間、誰もがびっくりするほどの跳躍をして、俺と距離を取り、腰に剣をとろうとするが、

「………しくった。剣を置いてきてしもうた」

 どうやら、今は剣を携帯していなかったようで、とても慌てふためているが、結果、正解だろう。彼が剣を振り回しでもしたら、この市場が混乱の渦に巻き込まれる。

「何で、俺を見た瞬間に、剣で斬りつけようとするのか、教えて貰ってもいいですか?」

 今の俺達にはやり合う理由などないはずだが?

「そんなの決まっているやろうか。青い鳥とあんたがもうできているって。それなら、あんたを殺そうとしても、おかしくあらへん」

 彼はそう断言するが、誰だ?俺と青い鳥をくっつけた愉快犯は?

鏡の中の支配者(キュリオテテス)があんたらがいちゃいちゃしているところ見たって言ってたんや」

 彼は案外素直のようである。だが、どう考えても、信じた相手を間違えた。

帝王キュリオテテス、はっきり言って、あんたは鏡の中の支配者に騙されているぞ。俺はあいつといちゃいちゃしていたことなんて一度もない」

 誰がよりによって、青い鳥とするか。それに、どちらかと言うと、いちゃいちゃしているのは鏡の中の支配者(キュリオテテス)と赤犬さんだ。

「……何やて!?」

 今度会ったら、あの野郎しめてやる、と彼はそう呟く。どうやら、鏡の中の支配者(キュリオテテス)は娼婦館の件と言い、今回の件と言い、彼を使った悪戯を楽しんでいる節が見られる。

「………黒犬、君は面白い友達を持っているみたいだな」

 俺から遅れて、白虎さんも人だかりを分けてやってきて、俺と帝王キュリオテテスの姿を見て、そう言ってくる。

「………俺と彼はそこまでの付き合い長くありませんよ。どちらかと言うと、彼は青い鳥の幼馴染です」

 俺は白虎さんにそう説明する。帝王キュリオテテスをこの国の市場で見たと言えば、青い鳥は縄を持って、この市場に行くかもしれない。

「………俺が面白い、か。これでも、真面目に生きてきたつもりなんやけど?」

「それは失礼した。君の話し方は俺の故郷の訛り似ていたものでな。こんなところで、あの訛りを聞くことになるとは思ってもいなかったんでな」

「……そうかい。俺は俺で、知り合いからあんたに似た人の話を聞いたことがあるんやけどな」

「ほう?それは興味深い話だな。俺は何処かの剣士様や団長様とは違って、無名のマスターのはずだが?」

「独特な暗器を使う顔に傷を持った白髪の男。俺の邪魔ばかりする根暗野郎って、愚痴ってったわ」

 俺には興味があらへん話やけど、帝王はそう言ってくるが、白虎さんは怪訝そうな表情を浮かべる。

「………誰だか知らないが、根暗野郎とは酷い言いようだな」

「俺に言われても、仕方あらへんや。俺は聞いた通りのことしか言っておらへんし。それに、あんたの言葉を伝えてやりたくても、その知り合い、もうおらへんしな。これ以上、ごますってると、怒られるからな。黒犬と、そこの白い髪のおっちゃん。俺はこれで帰らせてもらうわ」

 彼は俺達の横を通ろうとすると、俺の頭にいるスノウに気付く。

「あんた、いつの間に、こんな不細工なペットを飼ったんや?」

―誰が不細工なんだよ。この姿はとても可愛いのに―

 不細工呼ばわりされた本人は憤慨する。だが、その声は俺以外聞こえるはずがない。

「飼っているんじゃなくて、つい最近、勝手に俺の家に住みついているだけだ」

 一応、俺達は契約しているらしいが、必要以上には干渉しないようにしている。こいつが俺の家にいたければいればいいし、森に帰りたければ帰ればいい。例え、俺がこいつの契約者と言っても、こいつの行動を制限するつもりはない。

「それに、本人は可愛いと思っているらしいがな」

 こいつは可愛いとは言えないかもしれないが、一緒に暮らしていると、だんだん可愛く見えてきた。いわゆる、慣れだ。

「ふーん。まあ、俺にしてはこの生き物が可愛いかろうと、不細工だろうと関係へん」

 じゃあ、また縁があったらな、と彼はそんなこと言って、姿を消した。

 縁があったら、か。それはまた偶然あったらなのか、もしくは、彼が青い鳥に逢う決心がついたらなのか分からないが。もしかしたら、その両方かもしれない。

「………本当に、あの青年は何者なんだ?あの動きと言い、只者ではないように見えたが?」

 白虎さんは彼がいなくなった後、そんなことを言ってくる。

 確かに、彼は只者ではない。あの化け物集団の中で、まだ生きているのだから。それに、青い鳥と付き合えたのだから、相当我慢強い人と言うことも分かる。

「……俺も詳しくは知りませんが、旅の剣士さんみたいです」

 とは言え、彼の正体を白虎さんに明かすことはできない。彼は裏側の人間だ。表の人間が知る必要もない。

 俺も青い鳥の友人である再生人形の件がなければ、知ることがなかっただろう。

 “執行者”、そして、“教会”。彼らは表には出ることのない影みたいな存在だから。


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