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プロローグ

青い鳥と異国の守り人を連載スタートしました。今回は不良親父こと、黒犬の親父をスポットにあてます。よければ、お付き合いください

『もう会わないんじゃなかったのか?』

『………そのつもりだったが、そう言うわけにもいかなくなってしまってな』

 男はそう言って、とある場所に視線を移す。そこには黒い髪が印象的な上の息子と、もう一人、見たことがない、だが、懐かしい想いにさせてくれる青髪の少女がいた。

 彼女の面影がその少女の顔立ちに残っている。

『………あの少女はあいつの娘か』

 俺はもう彼女に会うこともないと思っていたし、その彼女の娘と会うこともないと思っていなかった。彼女は俺の知らない場所で生きることを選んだのだから。

 だから、彼女の娘と俺の息子が出逢うことなど予想していなかった。この出会いは神の悪戯によるものだろうか。

『あの娘はここに置くことが決定した。教会側の人間があの娘の監視役になるわけだが………、いつか、教会側があの娘から手を引くことになるだろう』

 あの娘がいつまでも鳥籠の中を大人しくいるとも思えないからな、と彼の呟きの中にはそうあって欲しいと言う願望があるのかもしれない。

『………その時はあの娘をよろしく頼む』

『ああ』

 俺がそう返事をすると、彼は俺の前から姿を消した。

俺は視線を戻すと、青髪の少女は息子の手を引き、歩いて行く。それを見ると、あの頃を思い出す。彼女に振り回されながら、彼女の探し物を見つける為の旅をしていたあの頃を………。

あの頃に戻りたいとは思わない。だが………、

『………お父さん』

 息子は俺のことを呼び、

『この子、ブラウンさんって言う人のところに来たらしいんだけど、知ってる?』

 そう言って、青髪の少女を見る。

 俺の黒髪黒眼を受け継ぐ息子と彼女にそっくりな青髪の少女。彼らが将来、どうなるのか分からない。いつか、それぞれの道を歩むことになるのかもしれない。

 それでも、彼らには俺達が歩むことが出来なかった道を歩んで欲しいと思っている。


***

 ここで、俺の親父のことを話しておこう。

 頭には麦わら帽子、派手なアロハシャツに、グラサンを掛けた190越えの大男。それが俺の親父だ。貴方とは全然違う?ほっておけ、俺が一番、気にしていることだ。

 黒髪黒眼と言った独特な髪や目をしていると思う。本人曰く、東方の国の方出身のようだが、どう言う経緯でここまで来たのかは知らない。それについては本人が話そうとしないので、何とも言えない。俺の黒髪黒眼はどうやら親父から受け継いだもので、ちなみに、下の弟であるレンはお袋と同じの栗毛色の髪と目であり、上の弟であるエンは親父とお袋の髪と目の色の中間色である。

 ここに居付いてからは猟師紛いのことをしているが、ここに居付く前、何をしていたかは予想がつかない。

 お袋との馴れ初めは倒れていた親父をお袋が助けたらしいが、それを見ると、本当に何をしていたのか疑問に思うところだ。

 ちなみに、親父の好みの女性を聞いたところ、真面目な顔で俺の女装姿と答えたものだから、それを聞いていたお袋と類稀なる夫婦喧嘩に発展した。その際、俺の女装姿はお袋に似ているから好みだと、苦しまみれの発言で、どうにか仲直りをすることができた。とは言え、それなら何故、好みの女性をお袋ではなく、俺の女装姿を選んだのか、疑問が残るが、そこは触れてはいけないことだろう。

 そんなお茶目な親父だが、高身長の上、派手なアロハシャツにグラサンをしているのだから、怖い人だと思われても仕方がないことで、間違いなく、初対面の子供は親父を見たら泣くことだろう。

 昔、親父と一緒に隣町まで買い物に行くことがよくあったのだが、親父が街を歩く度に、子供の泣き声が木霊し、俺を連れているものだから、何処かから子供を誘拐してきたのだとあらぬ疑いを受け、軍の施設にご招待されたことも何度かあった。

 親父の顔はそこまで怖い顔をしていないので、アロハシャツとグラサンさえしていなければ、普通のおっさんそのものだ。軍に招待されることはないはずである。

 俺がそう指摘すると、親父は意味深に笑い、こう言った。

『もしアロハシャツとサングラス、麦わら帽子をせずに知り合いに会ったら、間違いなくばれて、俺は天に召されるだろう』

 その時の俺は親父に何か暗い過去でもあるのかな、くらいにしか思っていなかった。だが、今なら、そう言った親父の言葉の意味が理解できるかもしれない。

「………ぐわ」

「知らない間に、何処に消えたと思ったら、こんな所で悠々自適生活とはいい御身分ですね。つうか、どれだけ私達が心配したと思ってんだ、この糞野郎」

 赤毛の女性に親父が踏みつけられている。彼女と親父がどう言う関係は知らないが、親父が「すまない、悪かった」と、何回も謝っていたので、おそらく親父が悪いのだろう。

 どうして、こうなった経緯を話すと、俺がのんびりと散歩しているところ、その赤毛の女性にばったり会い、「玄武、人が血眼に探していたのに、こんなところで生活しているなんて、謝っても許すか、この野郎」と、蹴りを入れられた。

 はっきり言おう。俺は赤毛の女性とは今初対面なので、罵倒や蹴りなんて入れられる筋合いが何処にもない。その前に、俺は玄武と言う名前ではない。

 俺は抵抗することもなく、赤毛の女性に首を絞められてしまったわけだが、その時、運がいいのか、悪いのか、青い鳥がその横を通りかかり、「………貴方は女性に格闘技をされています。新たな趣味ですか?」と、俺が天に召されそうになっていると言うのに、こいつは呑気なコメントをくれた。「誰がそんな猟奇的な趣味を持つか。人違いだ。この人は俺を玄武と言う人と勘違いしているんだよ」と、青い鳥に説明すると、青い鳥は納得した様子で、「彼女は貴方をゲンおじさんと勘違いしていると言うことですか?」と仰るので、俺はえ?と青い鳥の方を見る。「親父の名前って、玄武なのか?ゲンじゃないのか?」と、青い鳥に尋ねると、「彼の正式の名前を知っているのは少ないと思うので、貴方が知らなくても仕方がありませんが、正真正銘、玄武と言う名前です」と、青い鳥は丁寧にそう返してくれた。

 一方、赤毛の女性は俺の首を絞めていたのを緩め、「え?貴方、玄武はない?こんなにそっくりなのに?」と、青い鳥の言葉に信じていないようなので、おそらく森の中で猟師紛いのことをしているだろう親父の元へ連れて行くと、目の前に広がる光景のようになっているということだ。

「ゲンおじさんは面白い人と知り合いです」

 この光景を見ていた青い鳥がそんなことを言ってくる。

「………だな。どう言う経緯で知り合ったのかは不明だが」

 俺は青い鳥の言葉に同意し、親父と赤毛の女性の格闘を見ていた。この後、30分かかったのは言うまでもない。


「………申し遅れました。私は朱雀と言います。この野、いや、玄武さんにお世話になっていた者です」

「私はサーシャと言います。玄武さんの妻です」

 会話だけでは普通の光景のようにみえるかもしれないが、お袋は笑っているのにも関わらず、オーラはどす黒い。はっきり言って、今、このリビングはブリザード警報が鳴っている。その為、弟達には当分は家に帰ってこない方がいいと言って、この家から逃がした。実は俺も逃げたかったが、この状況ではそれが叶わない。

 ちなみに、最近、我が家にやってきたウサギとブタの合いの子(実は精霊)は自分には関係ないと言わんばかりに、寝床でお昼寝をしている。

 俺はそいつが食事と散歩以外に、自発的にここから離れたところを見たことがない。

 お袋は温和だが、冒頭で述べたように、親父の女性問題に関しては沸点が低いようで、親父が俺の女装姿が好みだと言っただけで、喧嘩を起こすほどだ。親父に女性がいたとなれば、その比ではないだろう。

「それで、朱雀さんは何処からいらっしゃったのですか?」

「東陣共和国から来ました」

「まあ、そんなところから」

 お袋が驚いた表情を浮かべても仕方がないと思う。東陣共和国は俺達が“隣国”と言っているその場所である。

 確かに、あそこは勇敢な武人が多く、彼女もその武人の一人のようで、女性とは思えないたくましい身体をしている。それは先ほどの光景がもの語っている。

「それで、用件は?」

 来た。彼女の回答によっては未曾有の夫婦喧嘩の幕開けとなる。俺は唾を飲み込み、その行方を見守る。そして、逃げだす準備も怠らない。開幕した時、俺は隣にいる青い鳥を連れて、逃走するつもりだ。

「はい。この度、私は結婚をするので、玄武さんに来てもらいたくて、招待状を渡しに来ました」

 彼女は懐から一つの封筒を出す。そこには、確かに“玄武様”と書かれている。

「………結婚?どなたと?」

 お袋は予想外の展開にきょとんとしている。お袋がどう言う展開を予想していたのかは考えたくはないが。

「………青龍か?」

 ここで、今まで黙っていた親父が会話に加わってくる。

「分かっているじゃない。そうよ。私は青龍と共に進むことにしたのよ。貴方が青い鳥を追っかけて、何処かに行ってしまった間にね」

 朱雀さんは刺々しく言ってくる。もしかして、彼女は親父のことが………。いや、その前に、青い鳥って、言わなかったか?

「………おい、青い鳥、お前、親父をたぶらかそうとしていたのか?」

 親父の愛人疑惑が青い鳥の方へと向くと、

「私は貴方一筋です。確かに、ゲンおじさんは格好いいと思いますが、私のお父さん世代の人までストライクは広くありません」

「………だよな。と言うか、まだ、自称・俺の婚約者を言い続けるか」

 この前、俺がメアリーと決別をしたのだから、もうお前が俺の婚約者を言い続ける必要はないだろう。

「前に言いました。私はうんと言うまで、追い続けます。それで、いい人がいたら、鞍替えします、と」

「だから、そんな奴と付き合いたい奴がいるのかって、言ってるだろうが」

 こいつはいつまで俺に纏わりつくつもりだ?

「………貴女が青い鳥?話によると、あの時、16歳だったらしいから、普通なら36歳になっていなくてはおかしいわよね?もしかして、この外見で36歳?」

 朱雀さんはそう言って、青い鳥を見ていると、

「………確かに、この子は青い鳥だが、お前の言っている青い鳥とは違う。そもそも、あいつはもう亡くなっている」

「だから、この方を奥さんにしたと言うわけ?そんな自分勝手な理由で、申し訳ないと思わないの?」

 朱雀さんはそう言ってくる。青い鳥と同名の少女が亡くなってる?どう言うことなのだろうか?

「あいつが亡くなる前に、俺はあいつにふられている。それに、サーシャはあいつの代わりじゃない。俺が自分の意思で選んだ。それは変わらない」

 これ以上言うと、お前でも容赦しない、と珍しく、親父が怒りを露わにしていた。

「………さっきのは言い過ぎたわ。サーシャさんもすみません」

 朱雀さんは親父の言葉でハッとして、頭を下げていた。

「………え?いえいえ、この人が不器用だから、相手に誤解されやすいんです。でも、朱雀さん、この人は不器用ですが、不器用なりに頑張っているので、こちらこそ許して下さい」

 お袋はそう言って、頭を下げる。

 この光景を見ていると、親父の過去がどうあれ、この二人はお互いのことを信頼していることが分かる。この二人の間に生まれて良かったと思える。

「まあ、私も貴方と殴り合いをする為に、こっちに来たわけじゃないわ。私がここに来た目的は二つ。貴方に招待状を渡すこと。貴方の不確かな噂でここまで辿り着いたんだから、死んでも来ること。サーシャさんも来て下さると助かります。それともう一つはこれ」

 朱雀さんはカメラを取り出す。

「……何だ?それは」

 親父が怪訝そうに言うと、

「カメラに決まっているでしょう。カメラ。白虎に餓死していないか、証拠を撮ってこいって言われているのよ。せっかくだから、家族写真を撮ろうと思って」

 朱雀さんがそう言うと、

「そうですか。なら、エンとレンも呼ばないといけないわね。エン、レン、もう出て来ていいわよ」

 お袋がそう言うと、ドアからおずおずと弟二人組が入ってくる。俺に外へ出てろと言われたものの、遊ぶ相手がいなかったので、戻ってきてしまったのだろう。とは言え、俺に当分帰ってくるな、と言われたので、入ってきていいのか分からなかったのだろう。

 この弟二人には少し申し訳ないことをしてしまったかもしれない。

「朱雀さん、この子達が次男坊のエンと三男坊のレンです。エン、レン、この人はお父さんの友人の朱雀さんよ。わざわざ、遠くから来て下さったのよ。挨拶しなさい」

「「朱雀おばさん、こんにちわ」」

 弟二人はそう挨拶するが、朱雀さんは引き攣った笑顔で、「初めまして、エン君、レン君」と言っていた。どうやら、彼女に対しては「おばさん」は禁句のようである。

「エン、レン、朱雀さんはまだおばさんと言うには若いのだから、そう言うのはやめなさい。朱雀さん、すみません」

 お袋は頭を下げて謝る。

「いいんです。数年経ったら、子供が出来ると思いますから、今のうち慣れておきませんと」

「………青龍が逃げなければな」

 親父がボソッとそう言った瞬間、目にも止まらない足技で親父の腹にクリーンヒットし、親父は痛みに耐えきれずに、ノックダウンしていた。朱雀さんの前ではあまり冗談を言わない方が身のためかもしれない。

「………で、この子がえっと、ねえ、お兄ちゃん、名前を教えていいのかしら?」

 お袋は迷った表情でそう言ってくる。

「………一般人だったら、いいとは思うけど……」

 この人は親父の知り合いとは言え、初対面だ。そう言った人物に名前を教えるのはあまり良くない。

「………こいつは魔法を使うことはできないが、魔力はある方だから、心配なら、お前が使っている名前を教えればいい」

 親父は腹部を抑えながら、そんなことを言ってくる。

「???」

 一方の朱雀さんは訳が分からないという表情でこちらを見てくるので、

「俺、一応、魔法使いのはしくれなので、師匠から無暗に名前を教えるなと言われているんです。本名を教えられませんが、その代わり、俺のこと、黒犬とお呼び下さい」

 俺がそう言うと、朱雀さんは納得した様子で、

「そう言うこと。なるほどね。私、王都で玄武の情報を集めていたのだけど、黒髪黒眼で名前が出てくるのは“黒犬”と言う魔法使いばかりだったのよ。へえ、それが貴方だったのね。ここではお父さんより貴方の方が有名なのね」

 彼女はそんなことを言ってくる。ここでは俺が有名?

「朱雀さん、それってどう言うことですか?」

「それは私達の国に来れば分かるわ。それで、貴女が……」

「私は青い鳥と言います。以後お見知り置きを」

「こちらこそ」

 朱雀さんはそう言って、青い鳥に微笑んでくる。

 この後、俺達に過去の悪しき繋がりが襲いかかることなど俺達は知るはずがない。

 この連鎖は誰が呼んだものだろうか?またもや、青い鳥が呼んだものか?もしくは青い鳥と同名の人物によるものだろうか?それは誰も知る由もない。

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