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【旧】イノチノバショ  作者: 蘭 一二三
5/5

幕間

 ガシャン!

 今井家二〇代目当主、今井イマイ 燕爾エンジは、書斎机に載っている物を左腕でなぎ払い、そしてドンっと腕を叩きつけた。

「逃がしたというのか! この役立たずが!」

 机の正面に立つ兵士に怒鳴りつける。エンジは、小太りな体をわなわなと震わせ、白髪交じりの頭は乱れ、顔は真っ赤である。

「申し訳ございません!」

 怒鳴られた兵士は、平謝りをしている。

「こんなことなら小隊を送り込めば良かったわ!」

「まあまあ、落ち着いてください。目立った行動は避けると言って、精鋭チームのみにしたのは旦那様ではございませんか」

 エンジの横に立っていた妙齢の女性――エンジの夫人である鈴蘭スズランが、なだめるように言った。スズランは、齢五十を超えるはずだが、アラサーにも見える容貌である。

 スズランは、メガネの位置を指で直し、エンジの肩に触れる。

「くそ、なんのためのISTFイマイスペシャルタスクフォースだ! こんなときのための特殊部隊だろうが!」

 エンジは、机に残っていた灰皿を兵士に投げつける。

「たった三人だぞ! 三人程度の陰陽師に返り討ちに遭ってどうするんだ! 代々栄華を極めてきた今井家が儂の代で終わらせる訳にはいかんのだ! 先祖の笑いものなんぞにはなりたくない!」

 ひとしきり喚いたエンジは、はあはあはあと息を荒くしていた。

「旦那様、お水を」

 スズランがミネラルウォーターをコップに注ぎ、渡すとエンジはゴクゴクと飲み干す。そして兵士を睨みつけ、「今、奴は、陰陽庁長官の家にいるらしいな」と言った。

「は、はい」

 兵士は、蛇に睨まれたカエルのように直立不動で固まっている。

「いかがなさいますか、旦那様。中隊規模であれば、さすがに長官邸とはいえ落とせるでしょう」

 スズランの提案に、エンジは首を振る。

「いや、さすがに中隊を動かすと隠しきれん。しかたない、あいつにやらせるぞ」

「よろしいのでございますか」

「かまわん、あいつも次期当主になる身だ。いつまでも遊ばせている訳にはいかぬ。ここに連れてこい」

 スズランは、床に落ちていた受話器を取り、用件を伝える。

 五分ほど経つと、ガチャッと執務室の扉が開く。

「んだよ、良いとこだったのによ」

 虎柄のワイシャツに紫のスーツ、首と腕には金色のネックレスとブレスレットを付けた男が、文句を言いながら執務室に足を踏み入れる。

「雀羅(ジャクラ」

 エンジが呼びかけると、ジャクラと呼ばれた男は茶色に染めた髪を手でかき上げる。

「んだよ、親父。今、拾ってきた女を犯してたんだ。あとちょっとでイけそうだったのによ、しょうもねえ用で呼んだわけじゃねえだろうな」

 エンジは、ため息をつきながら、「誰に似たんだが、甘やかせすぎたか」とつぶやく。

「贅沢したければ、言うことを聞け」

「あん?」

「うちに捕らえていたアヤカシが盗まれた」

 ジャクラは、驚き固まる。

「は? どうやって?」

「潜り込まれ、結界を破られた」

 エンジは、悔しそうに机を叩く。

「はーはっはー! そいつは傑作だな!」

 ジャクラは、腹を抱え笑う。

「笑い事ではないわ!」

 エンジは、勢いよく立ち上がり、カツカツと歩き、ジャクラの胸ぐらを掴む。

「いいか? 我が今井家は、あのアヤカシがいたからこそ、贅沢に暮らせていたのだ。それが今、いなくなったということは、どうなるかわかるか! 全ての事業がしくじり、潰れ、財閥は解体されるだろう。そして惨めに儂やおまえは野垂れ死ぬ。あのアヤカシは、そういうアヤカシなのだ!」

「盗んだ相手はわかってんだろ? 殺せばいいじゃん」

「ISTFに追わせたわ。だが結果は、わかるだろうが? 儂がおまえを呼んだんだ」

 ジャクラはそれを聞き笑う。

「は-っはっはっはっは! これは愉快だな。虎の子の特殊部隊使ってしくじったのかよ。やるじゃねえか。伊達にここに土足で入り込むだけのことはあるなあ」

 エンジは、ジャクラの胸ぐらを掴んだ手で引き寄せる。

「不本意だが、アヤカシの奪還をおまえに任せたい」

 ジャクラはその言葉にニヤニヤしながら返す。

「やだね、親父の尻ぬぐいなんて誰がやりたがるか」

 ジャクラの言葉に、ぴくっとなった人物がいる。スズランである。

 スズランは、ジャクラに近づき――


 パチン!


 と引っぱたいた。そして、胸ぐらを掴んでいたエンジの手にそっと触れ、離させると、ジャクラを抱きしめる。

「ジャクラ……良い? 旦那様に逆らうなんてわたくしが許しませんよ」

 スズランが抱きしめる力を強める。

「ち……」

 ジャクラが舌打ちをし、「離せ、やってやる」と言うと、スズランはジャクラを開放する。

「ただし、条件がある」

「なんだ」

 ジャクラは、いやらしい笑みをすると、「いっぺん、アヤカシを犯してみたかったんだ」と言い放つ。そして、

「あのくそ童女を捕まえたら、犯させろ。飲んでくれれば受けてやるぜ」

 エンジは、拳の作り、一歩足を踏み出すが、横から細腕で制された。

「旦那様」

 スズランは、エンジの目を見て頷く。

「良いでしょう。旦那様に変わり、わたくしが許します」

「スズラン!」

「は! 交渉成立だな。小隊連れて行くぜ」

「かまいません、必ず捕らえなさい」

 ジャクラは、スズランを見て、投げキッスをすると、懐に忍ばせていたS&W M500を抜き、直立不動のままだった兵士に銃口を向け、引き金を絞る。


 ドゴン!


 おおよそ、ハンドガンとは思えない爆音が響き、兵士の頭は吹っ飛んだ。

「んじゃ、行ってくるわ」

 そう言い残し、ジャクラは部屋から去って行った。

「スズラン」

 エンジは、「なぜ勝手なことを」という目でスズランを見た。

「旦那様。優先順位は、アヤカシを奪還することです。奪還さえすれば、約束なんて、どうにでもできるじゃありませんか」

「それはそうだが……」

「それに、あのアヤカシが犯されようとも構いませんじゃありませんか。どうせわたくしたちの糧なのですから」

 スズランはそう言うと妖しく笑うのであった。

さて、幕間です。幕毎に幕間は挟んでいきます。

今回は諸悪の根源どもの様子です。

自分で書いていても、胸くそが悪くなる不思議。


あまり悪役書くのって得意ではないようで……中々むずかしいですね。

私の中で、最も格好良かった悪役は、志々雄真実です。

しかし今回出てくる悪役は、そんな格好良さはみじんもありません。

困ったものです。


というわけで、次回は第三幕です。

座敷童を巡った戦いが、はじまりますよ。


それでは、少しでも楽しんでいただけたのならば、幸いです。

次回もまたよろしくお願いいたします。

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