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【旧】イノチノバショ  作者: 蘭 一二三
4/5

第二幕

 ザーザーと雨が降っている。梅雨に入ってから初めての雨だった。

「結構、降ってるね」

 窓越しに外を見ているスミレが言った。

「昨日までの晴れっぷりが嘘みたいだな」

 スミレの横にコンが立つ。

「今日、ご飯どこで食べようか?」

 外を見ていたスミレが振り向き、質問すると、

「わたしは、どこでも構いません」

「俺もだ」

 とシャルとアスカが応える。

「んじゃ、たまには学食行こうぜ」とコンが提案すると、おのおのうなずいた。

 学食に行くと、人、人、人と見渡す限り人がいた。

「んー、さすがに雨だとみんな学食来ちゃうんだね」

 スミレが、困ったように言う。

 紅葉学園の食堂はかなり広いため、普段であれば滅多に見られない光景である。一同は席を探すが、まとまった席は空いて無さそうであった。

「四人分の席は無さそうだな」

 というアスカのぼやきにコンが乗り出す。

「ふっはっはっはー、まっかせなさい」

「なにかいい手があるの?」

 得意気に語るコンに、スミレが質問する。

「相席だ! ちょっと行ってくる!」

 コンは、そう言うと女子が座っている席に向かう。その様子を見た、シャル、アスカ、スミレの三人は揃ってため息をついた。

「へい、そこの可愛い彼女たちー!」

 とコンが声をかけると、座っていた女子たちは、コンを見るとそっと立ち上がり「やだ、あの人と話すと妊娠しちゃうって噂よ」「やだーもう最悪ー」と言いながら去って行った。

 コンの女好きは、学園の誰もが知っている情報である。コンは、泣きそうな顔をし、シャルたちを見つめる。

「さすが、女性忌避剤の二つ名を持つだけのことはあるな……」

 アスカの言葉にスミレは、深いため息をするのであった。

「とりあえず、四人分の席は空いたようですよ、兄様」

 そう、女子が去ったことで皮肉にも四人分の席が空いたのであった。これが手柄と言って良いものか悩むことではある。

 さてはともあれ、一同は席に座り、アスカはシャルに弁当を渡し、自分の分も取り出す。同様に、スミレもコンに弁当を渡し、自分の分を取り出す。

「今日はアスカが作ったんだな」

 とアスカの弁当を見てコンが言う。

「不本意なことに、台所に入ることを禁止されてしまいましたので」

 そう言うと、シャルは恨めしい顔をしながらアスカをにらむ。その様子をみていた、スミレが「さ、さあ、食べましょ」と助け船を出したのであった。

 シャルはその言葉にしぶしぶという顔をしながら弁当箱を開ける。アスカの作った弁当はのり弁であった。おかずは、ちくわの磯辺揚げ、ベーコンとほうれん草の炒め物、ポテトサラダ、そしてサケの切り身である。

「おお、のり弁か。うまそうだな」と言いながら、コンも弁当箱を開ける。

 スミレの作ったお弁当は、チキンライスにハンバーグ、マッシュポテト、茹でたにんじん、インゲン、タマネギである。

「そいや、次の授業ってなんだっけ」

 もぐもぐと食べながらコンが聞いてくる。それに対し、スミレが

「陰陽道だよー」

 と答えた。

「陰陽道かー……むずかしいんだよなあ……」

「確かにねー。ゲゲゲの鬼太郎や、京極夏彦が好きな人なら兎も角、アヤカシの名前を聞いても想像しづらいよねー。陰陽師の歴史も長いから、歴史の授業が二つある気分だよー」

「まったくだ。その点、アスカやシャルちゃんは良いよな。陰陽師の免許持ってたら、授業で覚えることないだろう」

 アスカは、口に含んでいる食べ物を飲み込んでから答える。

「まあ、授業では、基本的に免許取得のためだからな」

「更新試験だとどういうことやるの?」

 スミレが、珍しく興味津々に聞いてきた。

「レポートの提出と実技試験だね。基本的に両方行うんだけど、例えば前線で戦う人は、一定の知識レベルのみで、実技だけ特化しても更新はできる。そして、研究主体の陰陽師は、レポート重視で実技レベルは基本的なことだけでも更新できる。一定のレベルは、ほんと免許取得時くらいでも十全」

「じゃー、戦えなくても陰陽師にはなれるんだね」

「そうなんだけど、免許取得時のレベルは必要だからね。銃を撃つくらいはできないと厳しいかな」

「アスカとシャルちゃんは、やっぱ、実技メインなのか?」

 コンも乗り出して聞いてきた。

「俺とシャルは、両方重視してるよ。俺らは希だけど、陰陽師は一人で行動することが多いから、レポートと実技のどちらかに片寄って更新する人は、あんまりいないんじゃないかな」

「ほうほう」

「あ、いや……まてよ」

 アスカは、なにかを思い出したような表情をすると、「生徒会に二人いたと思う」と言った。

「生徒会ってここの学園の?」

 とスミレが聞く。

「うん、確か副会長の滝川タキガワさんが実技主体で、書記の八重野ヤエノさんがレポート主体だったと思う。特にヤエノさんのレポートは、学会で発表されるほどだ」

「生徒会かー」とコンが考えながら「たしか生徒会全員が陰陽師なんだっけ?」と言う。

「そうだね。まだ今年の生徒会役員には、会ったことがないけど」

 アスカがそう言うと、予鈴のチャイムが鳴った。

「チャイム鳴っちゃったねー。また今度、陰陽師のこと聞かせてねー」

 皆が席を立つと、ピンポンパンポンという軽快な音がスピーカーから流れてきた。

「お、呼び出しか?」とコンが言うと、スミレが「コンくん、またなにかやったの……?」とじと目でコンをにらむ。

 シャルたちは、そんなやりとりをしながら出口に向かう。

 しかし、スピーカーから聞こえた声で立ち止まったのである。

『アスカくーーーーーーーん、シャルちゃーーーーーーーん! 今すぐに理事長室に来てね-! 待ってるよ-!』

『こら! 理事長! なんて放送ですか!』

『えー』

『えーじゃありません!』

『教頭先生、マイクが』

『あああああ』

 プツン。

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 四人の時は止まっていた。

「すまん、行ってくる」

 が、アスカの言葉に再び動き出したのである。


 コンコン。

 二回のノックは、トイレのノックだと誰かが言っていたが、そもそもトイレでノックをする人を見たことがない。そんなことを言ったら、シャルに「え、前はよくしてましたよ」と返されたことがある。

「はーい! でもノックは三回じゃなきゃ開けてあげないんだから」

 シャルとアスカは、このまま帰ろうと目配せをした瞬間、ドアが開いた。

「なんか帰ろうとしなかった?」

 シャルとアスカは、再び目配せした。そしてフレイヤに首を振ったのである。

 シャルたちが中に入ると、フレイヤは「ちょっとそこで待ってて」と告げ隣の部屋に入っていく。開けっ放しの扉からは、カチャカチャとなにかを探している音が聞こえる。

「こんなもんでいいかな」

 そんな声がすると、フレイヤが戻ってきた。そして、よいしょと机に手に持っていた物を並べる。

「これはシャルちゃんね」

 そう言って渡してきた物は、日本刀である。

「太刀は無かったから、打刀になっちゃうけど。まあ、無銘みたいだけど、結構良さそうな刀よ」

 そしてフレイヤは、もう一種類の武器をアスカに渡す。

「アスカくんにはこれね」

 アスカに渡された武器は、グロック18Cと呼ばれるハンドガンである。そして予備の弾倉を十個。

「姉さん、これは?」

 突然呼び出しをされ、突然武器を渡されれば、至極当然の質問ではある。

「そろそろなのよねー。あと二十分くらいしたら、この学園に向かう交差点辺りでアヤカシを乗せた車が来るわ。助っ人に行って頂戴。たぶん追っ手もいるだろうから、遠慮無くやっちゃって。アヤカシは保護対象だから必ず守ってね」

「規模は?」

 アスカは弾倉をグロックに入れ、薬室に弾を装填しながら聞く。

「んー、たぶん一班くらいの規模だと思うから余裕余裕。とりあえず、端末に向かってくる陰陽師のパーソナルデータ送っといたわ。向こうにも送ってあるから、あとは頑張って」

 端末を見ると高遠タカトオ 茉莉花マツリカという女性の名前があった。

「兄様、行きましょう。時間があまりありません」

 シャルが、刀を竹刀袋に仕舞い肩に担ぐ。

「そうだな」

 アスカも、グロックをホルスターに入れ、予備弾倉も仕舞う。

「それじゃ、よろしくねー」

 フレイヤは、手を振りながら見送ったのである。

 シャルたちが外に出て扉がバタンと閉まると、フレイヤは背もたれをリクライニングにして、天井を見る。

「さて、あの交差点も封鎖してもらっているし、なんとかしてくれるでしょう。二〇〇年振りの外も楽しんで貰いたいしね」


「兄様」

 歩きながら、シャルはアスカに声をかける。

「どうした?」

「個人で行動することが多い陰陽師なのに、助っ人が必要というのは珍しくありませんか」

「確かにね。それに助けを呼んだ場合は、最寄りにいる陰陽師に連絡が行くはずだ」

「では、どうして私たちが呼ばれたのでしょう」

「助けを呼んだ陰陽師になにかあったのか、フレイヤが独断で派遣したかのどっちかだろうな。まあ、もし陰陽師になにかあったら、端末から緊急招集がかかるし、後者だとは思うが」

「よほど、重要なアヤカシがいるってことですね」

「目的のアヤカシかもしれん。急ぐぞ」

 アスカの言葉に、シャルは頷き、走り出す。


 交差点は静かだった。車はおろか、人っ子一人いなかった。

「間に合ったか」

 シャルとアスカは、警戒しながら周囲を見渡す。

 すると前方から、車が走ってくるのが見えた。車種は、ブルーのマツダアクセラ。アクセラは煙をもくもくと出しながら向かってくる。

 アクセラの後ろからは、大型車両が追ってきている。

「あの車は!」

 アスカが言うと同時に、大型車両からの銃撃でアクセラがスピン。交差点の真ん中で停止した後、ドアを蹴り破って中からマツリカが出てきた。

「ああもう! ローン残っているのに!」

 大型車両に乗っている兵士が窓を乗り出し、銃口を女性に向ける瞬間、アスカは傘を投げ捨て、グロックを抜き、スライド後方にあるスイッチを切り替え、トリガーを引く。


 ガガガガガガ!

   

 弾がマシンガンのように発射され、何発かは車にカンカンカンと当たり、一発が兵士の頭に直撃した。

 アスカの持つグロック18Cは、フルオートが可能なハンドガンである。元々、ポリマーフレームとなっているため、軽量故に反動が大きいのが欠点ではある。そして毎分千二百発の連射速度は、弾の消費が非常に激しい。

 兵士を一人倒されたためか、大型車両は止まり、扉を開け、盾にし中の兵士が展開していく。

「だれかは知らないけど助かったわ!」

「陰陽師です。助っ人に来ました」

 そう返すとアスカは、兵士が手に持つライフルを確認し、

「車のエンジン側に伏せろ!」

 と叫び、車の中にいた女の子を外に引っ張りだす。マツリカとシャルはエンジン側に伏せ、アスカは、女の子を抱きながら後方のタイヤ付近に隠れる。


 ドドドドドド!


 轟音を鳴らしながら、ライフルを撃つ兵士。弾があたる度にアクセラは揺れ削れていく。

「耳塞いでてね」

 アスカは、抱えている女の子に言う。女の子は、頷きながら両手で耳を塞ぐのを確認し、グロックで撃ち返す。

 しかし、車両からはカンカンカンという音が聞こえるだけであった。

「L‐ATVと六四式ライフルとか、どこの軍隊が相手なのか!?」

「今井財閥よ! あの車は完全に防弾よ! あたしの四十五口径でもダメだったわ!」


 ドガガガガガガ!


「きゃっ!」

 アスカは、銃撃が来る度に女の子の頭を抑えかばう。

「このままじゃ車が持たない」

「兄様! わたしが行きます」

 シャルは、ポニーテールに髪を結いながら言う。

「ダメだ! さすがにシャルでも撃たれる」

「ですが」

 アスカは、無言で首を振る。

「かしこまりました」

「あれ……」というマツリカの台詞で、アスカは銃撃が止んでいるのに気づいた。そこで、顔をそっと出すと、兵士がL‐ATVに備え付けてあるシールド付きの機関銃に向かっているのが見えた。

「やばい、M2機関銃だ!」

 アスカが叫ぶと、マツリカが、

「後部座席にある、A2と書かれたトランクこっちに投げて!」

 と叫び返す。

 アスカは、開けっ放しの後部ドアから目的のトランクを引っ張り出し、滑らせながらマツリカに渡す。

「ちょっと、時間稼いで!」

 マツリカの台詞を言い終わる前に、アスカは、グロックで兵士に撃つ。


 ガガガガ。

 ズドドドドドドドドドドドドド!


 アスカが撃つと他の兵士が撃ってくる。

「四発撃ったら、百倍で返ってくるんだが……ええい!」

 そうぼやきながらも再び撃つ。

「やばいやばいやばい」

 兵士はM2機関銃をアクセラに向ける。

「できた!」

 アスカは、マツリカの持つ銃を見て、足止め相手を機関銃の射手から、ドアに隠れている兵士に切り替える。

 マツリカの持つ銃は、バレットM82という対物アンチマテリアルライフルである。さらにマツリカが持つライフルは、対空兵器として担げるように改良されたバージョンである。対物ライフルから発射される12.7ミリ弾は、現行の第三世代戦車には無力であるが、装甲車両程度なら貫通する。

「そこから、上に五度、右に二〇度!」

 アスカが狙いを言う。

「OK!」

 マツリカが、車から乗り出しトリガーを引いた。

 

 轟!


 銃声が轟いた。

 機関銃の射手はシールドごと貫かれ、上半身が無くなっていた。

 残りの兵士たちは、その様子を見て思考が一瞬停止してしまったのである。

「シャル!」

 アスカが叫ぶ前に、シャルは跳んだ。そしてアスカもアクセラのトランクを滑りながら前にでる。

「やあああああああああああ!」

 兵士たちがシャルたちに気づいた時には、すでに手遅れであった。

 シャルは刀を振りかざし、


 スパンッ!


 そんな小気味の良い音が聞こえそうなくらいに、ドアごと兵士を斬った。

 アスカは、L‐ATVのボンネットに足をかけ跳び、上空からグロックのトリガーを引いた。


 ガガガガガガガガガガガガガシャン。


 グロックは弾が切れ、スライドが止まる。その先には血まみれになった兵士が倒れていた。

「兄様」

「さすがにやばかったな……」

「ええ、久々に焦りました」

 シャルは髪をほどき、普段通りに後ろに結ぶ。アスカは弾倉を変え、グロックをホルスターに仕舞い、アクセラに駆け寄っていった。

「ありがとう」

 マツリカは、スカートについた埃を払いながらお礼を言った。

「いえ、こちらこそ助かりました。俺は立花 飛鳥で、こちらが和名が立花 秋桜でフルネームは、シャルロット 秋桜 プチ 立花です」

「あたしは、高遠 茉莉花よ。よろしくね、アスカに……シャルロットでいいかしら」

「ええ、どちらでも構いません」

 自己紹介を終えるとアスカは、女の子の方を向いて、「大丈夫?」と声をかける。しかし女の子は、アスカをじーっと見つめてくるだけであった。

「どうしたの? どこか怪我した?」

 女の子はそれでも見つめてくるだけだった。

「…………」

「…………」

 にらめっこ状態となっている。

 しかし、沈黙は長く続かなかった。女の子が、その重たい口を開き、

「お兄ちゃん……」

 と言った。

「「お兄ちゃん!?」」

 アスカとマツリカは同時に叫んだ。

「兄様? どこでこんな可愛らしい妹を拾ってきたんですか? ねえ? 兄様? 聞いてますか?」

「しゃ、シャル、どうして折角後ろで結んだ髪をポニーテールにしようとしているのかな。ちょっま、お、落ち着こう。話し合おう、いや、お願いします、俺の話を聞いてくれるかな、いや、聞いてください、頼みます、頼むから刀抜かないでください、洒落になってないなってないなってないからー!」

 じりじりと下がるアスカに対し、じりじりと迫るシャル。

 その様子を見ていた女の子が、

「あ、ご……ごめんなさい」

 と頭を下げる。

「あの……以前、お会いした人に、雰囲気がよく似ていたもので……」

「へー、そんなに似ているの?」

 マツリカが聞くと、

「はい、でも顔立ちは少し似ているだけです。それにわたしの知っている方は、もう昔に亡くなっています」

 と顔を伏せ言った。

「あ、ごめんね……」

「いえ、大丈夫です」

「ところで、この子がアヤカシなのですか?」

 少し重い空気になったところに、シャルがマツリカに尋ねた。するとマツリカが答えようとする前に、

「はい、わたしは座敷童です」

 と女の子は言った。

「座敷童……?」

 アスカは、驚きを隠せずつぶやく。

「そうよ、この子は座敷童。長い間、今井家に富を得るために閉じ込められていたアヤカシよ」

 マツリカがそう言うと、三人の端末が鳴る。


 ピコンピコン。


 どうやらグループ通話のようだ。アスカが端末に出ると、フレイヤの声がした。

「そろそろ終わったかしら? あなたがマツリカちゃんね。よろしくねー」

「え……なんで長官が?」

 マツリカの疑問に、アスカが「身内です」と答える。

「そうそう、アスカくんとシャルちゃんは家族なのよー」

 マツリカはぽかーんとするしかなかった。

「まあ、それは置いておいて、座敷童ちゃんは無事かなー」

「うん、大丈夫」

 アスカは、端末のカメラを座敷童に向ける。

「あらあらあらあら、可愛い子!」

 座敷童は、端末を不思議そうな顔で見ている。

「あの……皆様はどうしてその箱のようなものと話しているのですか」

「まあ、無理もないわねー。二〇〇年振りに外に出るんだから。このカラクリは、電話と言って離れた人と話す物よー」

「離れた人と話ができるのですか! すごいです!」

 座敷童は目をらんらんに輝かせながら言った。

「可愛いわあ……シャルちゃんに匹敵するくらい可愛いわあ……」

「フレイヤ、いいから続きを」

 シャルがうざったそうな顔で言う。

「もう……まあ、いいわー。とりあえずー、その子は保護対象ではあるんだけど、庁舎も受け入れ体制ができてないのー。なのでー、受け入れ体制が整うまで、うちで預かることにしましたー」

「は?」

 アスカが目を丸くする。

「いやね、陰陽庁設立してから保護対象のアヤカシって初めてなのよー。だからー、これからどうするかって決めなきゃ行けないんだけど、泊めるところがあるわけでもないし。それならうちで預かろうとー」

「いや、また狙われるんじゃ?」

「うんー、狙ってくるだろうけど、ほらー、陰陽師三人もいるし、しばらく屋敷の周りは封鎖するしー、それに長官の屋敷を襲ったら、さすがに財閥とはいえ、隠ぺい工作は通用しないわー」

「まあ、そうだろうけど……って三人?」

「そうよー。アスカくん、シャルちゃん、そしてマツリカちゃん」

「あたし!?」

 突然の名指しに驚く。

「今井財閥の本邸に潜入したんだから、あなたも狙われる可能性あるしー、当然だと思うわよ。あなたもしばらく、うちに泊まりなさい」

「あ……」

 日本最大の財閥にけんかを売って、確かに無事で済むはずがなかった。

「まさか、あの財閥に単身突入して、さらに虎の子の座敷童まで救出するなんてねー。評判通りの偵察能力よー」

「そしたら着替えを取りに行ったら、向かいますよ」

「え? あなたの家はもうないわよー」

「へ……?」

「あなたの住んでいたマンションは、攻撃ヘリで蜂の巣になった後にー、ヘルファイアで焼け落ちたわー」

「ローンが残ってるのに……」

 マツリカはへなへなと座り込んでしまった。

「まあ、着替えは私のを――って胸の部分がゆるゆるになりそうね……」

「!?」

 ショックなところにさらに小ぶりな胸を指摘され、追い打ちをかけるフレイヤであった。

「とりあえず、商店街にでも寄って、スーパー銭湯に行ってから、生活用品買って帰ってきなさい。そのままじゃ、風邪引いちゃうわよ。あ、それと座敷童ちゃんの服も買うの忘れないでねー。シャルちゃんの服じゃ、だぼだぼな上に、やっぱり胸の部分がねー。それじゃよろしくー」

 プツンと通話が切れる。アスカは、座敷童と目線を合わせるためにかがむ。

「というわけで、君は俺の家に来ることになった」

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 座敷童はぺこっとお辞儀をする。

「そういえば、名前を聞いてなかったね」

「あ、昔はあったのですが、今は特に名前は……」

「そうか……じゃあ、キリはどうだろう」

「え!」

 座敷童は驚いた。

「あ、気に入らなかった?」

「いえ! キリで……キリでお願いします!」

 座敷童は、目に涙を溜めながら頷いた。

「どこか痛む?」

 アスカは、涙の理由がわからず戸惑った。

「いえ、だ、大丈夫です。ありがとうございます」

 座敷童は、そんなアスカに笑顔を向けたのであった。

「じゃあ、行こうか」

 アスカは、座敷童に手を差し出すと座敷童はその手を握った。

「むう……」

 するとシャルが、むくれたように座敷童と反対の腕に抱きつく。

「はははは……」

 アスカは乾いた笑いをし、投げ捨てた傘を拾ってから商店街に向かうのであった。

「ローンが……それに胸は……」

 そしてマツリカの嘆きは、誰にも届かず雨の音に霧散していった。

に、二週間振りになってしまいました……遅筆で申し訳なく……

来月中には完結させたいと思っているので、ペース早めるつもりです。つもりなのです。つもりでいたい。


さて、今幕はシャルたちと座敷童の邂逅です。

銃撃戦をうまく表現する力が欲しいと常々思っています。

迫力がある描写ってどうやって書くのだろうかと悶々しながら書きました。


文章力が欲しいと願いつつ、文章力を養うには書くしかなく、そして文章が下手だなあと嘆く繰り返し。

マゾですかね、私。


さて、次回は幕間です。

早めに! アップ! できるよう! がんばります!


少しでも楽しんで読んでいただければ、幸いでございます。それではまた次回もお願いいたします。

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