表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/129

始まりの街にて(1)

「お邪魔する」

「はいな、いらっしゃいませー」

 入店して周囲を見回すと、ギルドを兼ねていると言う酒場は空っぽであった。

「皆、ちょうど出張でばってましてなぁ。愉快な連中ですさかい、顔合わしてもらいたかったんやけど……」

「お気遣い感謝する。だが、そうだな。挨拶あいさつ代わりに驚いてもらうか」

 いつもの悪戯心を起こしてにやりと笑んだスゴロクは、『物置』と呼ばれる空間から剣を取り出す。

 ヒマな時間だったはずである。「……来るがいい!」

 床に転移術の紋章が描かれた。約束どおり丁寧に着飾った側近が姿を見せる。

「お呼びでしょうか」

「うむ。足労であった。こちらは……」

「やーん、かわいぃぃ~!」

 言葉をさえぎって、女将は側近を抱きかかえた。「にゃっ!?」

 娘は驚いて、されるがままに頭や耳を触られてあたふたする。大人しく真面目な性格上引っ掻いたりはしないものの、必死で魔王に助けを求め、まなざしを送る。

「お気持ちは分かるし余としても嬉しいが、そのくらいにしてやって欲しい」

「ああ、すんまへん、大変に失礼しました」

 女将は抱えていた娘を椅子に座らせ、自らも深呼吸をして心を落ち着かせた。

「こちらこそ失礼致しました。お名前をお伺いできますでしょうか?」

「ヴィエネッタ=ハルウミどす」

「あるじがお世話になっております。ロデル=カッツェと申します。お見知りおきください、ハルウミ様」

 どこかの国で『赤』を意味する語をもじってつけてくれた、彼女にとっては宝物のような名前だった。

「あるじ、ゆーたら……ご夫婦ちゅう解釈でええんかいな。スゴロクはんもスミに置けまへんなぁ」

「婚約は済ませている。余の国ではその際に誓ったことを実行せねば、妻をめとる資格がないという事になっている。余も男の端くれ、あまり待たせぬうちに済ませたいと思っているところさ」

「差し支えなかったら教えてくれはります? なんか、どえらい事やってくれそうやけど」

 嫣然えんぜんと笑まれるが、まさか『世界征服』だ、などとは言えない。半獣の地位も上がっているというのが本当なら、厳密には魔王スゴロクにとっての大義は失われたことになるのだし。

「余は――この世界の果てを知りたいのだ。少なくとも余の治める国に於いては、それを記した書物も地図も見つかっていない故に」

「国王さん自ら旅に出てきたわけですな。はて、ウチらに出来る言うたらば……せや!」

 ヴィエネッタは手をポンと打った。

「冒険者さんなら、旅の途中で色んなおもろいモンを見つけなさるはずよって。それをこのギルドで買わしてもらう言うんはどうでっしゃろ?」

「相分かった。出来うる限り質の高い品を卸させてもらおう」

「ひとつよろしゅうに。何かのみはります?」

「甘いワインを頼む。妻を労わねば」

「あらあら、ごちそうさんですなぁ」

 魔王の視線の先では、真面目な側近が顔を赤らめ、静かに微笑んでいる。

2015年 07月25日 11時46分 公開

2015年 07月27日 16時16分 誤字修正

2015年 07月29日 11時02分 誤字修正

2016年 04月28日 14時31分 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ