望む夢まで
好きです。大好き。
そうだ、手紙を書こう。
大きな声で叫ぼう。
気付いてもらおう。
僕を見てもらおう。
伝えよう。伝えよう。
あなたが大好きだと。
できる限りに......。
いつもみたいに、僕はショーウィンドウ越しに外を眺めていた。
外は何も変わらない。
ただたまに、雲が空を覆ったり、雨が音をたてて落ちてくるだけだ。
外は何も変わらない。
きっと誰も、僕には気付いてくれないだろう...。
そんなことを思っていたら、一人の女の人が、お店に入ってきた。
黒いハイヒールの音を小さくたてながら。
背は、少し高いくらいで、髪の毛は短かった。顔立ちも整っていて、遠くからじゃ、女の人とわからないかもしれないくらいだ。
女の人は、店内を少しぐるぐるとした後、僕の方を向いた。
そして、僕をそっと手に取った。
僕は、買われたのだと思った。
ビニール袋の中は、息苦しかった。
でも、これから何を目の当たりにするのかと思うと、何だかわくわくした。
道路、街灯、それから、綺麗な、限りなく真っ青な空。
雲が、薄く延びて、まるでペンキ塗り立てのような空に描かれているようで。
人は、いつもこんな景色をみているのだろうか。
地球は丸いという。
凄く、大きいとも、聞いたことがある。
人はいいな。
手と足というものがあって。自由に身体を動かすことができる。
こんなに気持ち良い空の下を、当たり前に歩いているのだから。
とっても、羨ましい。
そんなことを考えている内に、女の人は足を止めていた。
そこは、[小尾目中学校]と書いてある、門の前だった。
学校は、人の子供が勉強をする場所だというのは、ちゃんと勉強済みだ。
僕はまだ小さいけど、ちゃんと勉強をしたから、この世界のこと、ちゃんと知ってる。
だから、きっとこの女の人が、先生なんだということもわかった。
女の人が[職員室]という部屋に入ると、いろんな大人の人が、女の人のことを、巳原先生と読んで挨拶をした。
「おはようございます。」
巳原先生の声は、落ち着いていて、見た目よりも女性という感じがした。
「それ、どうしたんですか?」
巳原先生と同じくらいの身長で、スーツに眼鏡姿で、ゆったりとした低めの声の男の先生が、僕を指差して言った。
「駅前の花屋に売っていて、ちょっと教室に飾ろうとおもって」
「あー。良いですね。植物を置くと、生徒が教室を走り回る回数も減りそうで」
「ええ」
暫くしてから、巳原先生はジャージに着替え、僕を持って上の階に向かった。
何だか、いろんな人がいるんだなとおもった。僕がいたところは、人は皆同じような人ばかりだった。
先生は[1-4]と表示された教室に入った。
僕は、黒板の隣にある、白い多なの上に置かれた。
そよ風が暖かい、町に色合いがついてきた頃、僕はこの教室で生活を始める。