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三猿霊媒師  作者: うさぎ
おまけ2
22/26

7.鵺

 鬼夜はクロの話を、静かにきいていた。その青黒い瞳から、こらえきれずに流れ落ちた涙が枕元を濡らす。クロの悲恋にますます心を傷めた鬼夜は、どう声をかけて良いのやらわからずに、ただ泣き続けるしかなかった。

 今日は泣いてばかりだねと、しばらくしてから鬼夜はクロの額にひとつ口付けると、「ありがとう」と言って出て行って、それきり戻っては来なかった。

 そのことにようやく気づいたクロは、慌てて外に出てあたりを捜し回ったが、結局見つからなかった。鬼夜は本当に行ってしまったらしかった。

 心なし、乾いた笑い声が虚しく漏れる。鬼夜は娘同然だった。いつしか、夕との間に生まれて来られなかった子どもの、生まれ変わりのように思っていた。


 ふと視線を感じて振り向くと、見知らぬ男がじっとクロを見つめていた。闇の中で、その男は不気味に浮き上がっているようだった。


「こんばんは」


 男は真意が読めない薄ら笑いを浮かべながら、そう挨拶してきた。


「こんばんは。ここらへんを異国風の女が通らなかったか?」

「さぁ? どうだろうか。お前さん、名前は?」

「……クロだ」

「へぇ、クロってくろがねのクロかい?」


 やけに怪しいので、ますます警戒態勢に入るクロにかまわず、男は続けた。


「いや……」

「そうかい。わたしはてっきり……いつも金臭いからな」

「何の話だ」


 男の眉根が片方上がる。


「お前さんは金臭いんだよ。一体、あと何人残っている? 鬼部を全員殺す気なんだろう」

「あんた、何者だ?」

「あえて名乗るなら、ぬえだ」


 鵺。得体の知れない存在か……もはや怪しい以外の何者でもなかった。


「去れ。二度と現れるな」

「おや、ずいぶんな物言いだね。せっかく人が助け舟を出そうとしているのに……」

「余計なお世話だ」


 クロは自ら去ろうときびすを返した。すると、鵺は静かだが鋭い声を発した。


「鬼夜も鬼部の仲間だよ」


 身体中の血液が凍りついて、そのまま逆流しているような錯覚が生じた。こいつは何をほざいているのだ。


「覚えていないのかい? お前さんの愛しい夕が殺される瞬間を。あまりに辛過ぎて記憶が欠如したのかね、可哀想に……」

「……何が言いたい」

「赤髪に青目のやつがいただろう、あの中に」


 必死になって記憶をたどる。あの日、あのとき、あの瞬間、あの場にいた全員の顔を思い出す。忘れないようにずっと目に焼き付けた、憎いやつらの顔を……そうして、愕然とした。

 あぁ、たしかにいた。そんな異国風の容姿のやつが。まさか、まさか……


「そいつの娘が、お前さんの拾ったお子だよ。おそらく口減らしで捨てられたんだろう。世の中は厳しいからね」


 鵺はへらへら笑いながらさらに続けた。


「でも、血はちゃんと流れているよ。昼間見ただろう? あの殺気立った目を。自分の執着したものは、どんな手段を使ってでも必ず手に入れようとする」

「違う! あいつはそんなんじゃない!」

「どうかな。血は争えないよ」


 いつの間にか、鵺はクロのすぐ隣に音もなく立っていて、その乾いたような瞳にクロは思わずたじろいだ。


「ほうっておいたら、また犠牲が出るかもしれない。どうする?」


 ――鬼は異性に化けて誘惑することもあるよ。気をつけなね。


 なぜ今そんな言葉を思い出すのか。これではまるで……


「まぁ、すべてはお前さん次第だがね」


 そう言って鵺は忽然と姿を消し、あとに残されたクロはその場に呆然と立ち尽くしていた。

 彼の中で、音を立てて何かが崩れ落ちていくようだった。


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