3.成長
「おーい、クロ! こっち、こっち! 席取っといたよ、ここ座って。何食べる? ねぇ、何にする?」
待ち合わせた宿屋の食堂で、大衆の前にも関わらず大きく手を振りながら大声を出す鬼夜。年の頃はだいたい十五、六歳だろうか。異国の雰囲気をあちこちに醸し出し、町中を歩けば声をかけられるような美人に成長しはしたが、中身はまだ子ども染みている。その子ども染みた元気で、近寄ってきた男共を、得意の並外れた怪力で潔く蹴散らす様子は見ていて楽しいのだが。
「クロ。今日はまた派手にやったらしいね? 岡っ引きの親分もたじたじだったよ。あーおかしい! ざまぁみろだ!」
まるで、ガキ大将がするみたいな顔をしながら焼き魚にかぶりつくと、「あっちー」と顔をしかめている。あたりからは残念なものを見るような眼差しが向けられているが、当の本人はまったく気づいていないのか、意に介さずだ。一体どこで育て方を間違えたのだろう、いや、最初からかとクロはひっそり胸を痛める。
「岡っ引きの親分には前回にも増して申し訳ないことをしたな……今度お詫びに何か持って行かないと」
「えー? 気にしなくていいよそんなの! だいたい今回の事件だって、親分たちがいなくても、クロだけで何とかなったし!」
まるで自分の手柄のように喜ぶ鬼夜の頭を軽く叩いた。むっとした顔を向けてきた鬼夜は、べぇと舌を出して飯をかき込む。鬼夜の見せる様々な表情に、心が温まっていく気がした。
「もっときれいに食べなさい。ますます嫁に行き遅れるぞ」
何の気なしにそんなことを言ったあとに、自分も年を取ったもんだなと思った。ふと、急に静かになった彼女のほうを見やると、何とも言えないような表情をしながら半片を噛んでいた。噛み切った半片が口からぽろんと落ちる。
「そんなことわかってるよ……」




