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逆転の可能性

修正による追加話です

 真っ黒に染まった悪魔のようなカタストロフィ・ゲンガー。

 それは先程までいたカタストロフィ・ゲンガーを一瞬で食い潰した。

 この<ドッペルゲンガー>は、<カタストロフィ>に化けている、などの種明かしなどいらない。分かってしまうのだ、この圧倒的な実力差が。

 紛れもない、この<ドッペルゲンガー>を化けた人物こそ、本物であると容易に推測が出来てしまう。


 そこに佇むカタストロフィ・ゲンガーは、動かない。

 そして私達も動かない。いや、()()()()

 隣で脱力したようにその場にへたり込んだ中学生位のプレイヤー。自らを<カタストロフィ>と名乗り、自らの分身とも言える<ドッペルゲンガー>と共に私と巫女を相手に互角に渡り合った。


 そのカタストロフィ・ゲンガーを、あたかも雑魚を相手にしたかのように瞬殺したということは、私が戦っても勝ち目は無いに等しい事が証明されてしまった訳だ。

 無論、勝てる確率は0とは言い切れない。

 奇跡的に相手の<スキル>が発動しなかったり、システムのバグが発生したりするかもしれない。

 しかし、それは『奇跡的な確率』だ。『奇跡』は何度も起きないからこそ、『奇跡』と呼ばれるのだ。

 ならばどうする、どうする!?


 苦虫を噛み潰したような表情になっているのが自分でもよく分かる。

 今現在、この『終焉』ステージに何人残っているか分からない。


 現状、ここでカタストロフィ・ゲンガーと戦ってしまえば、このカタストロフィ・ゲンガーの後に控える<カタストロフィ>との戦いを前に退場してしまう事になる。

 それだけは避けたい。なぜなら私は、<カタストロフィ>に今まで起こした戦争の意義を問うために<天剣聖祭ソードエンペラー・フェスティバル>に参加したのだから。


 ならばどうする?

 二人を囮に使って逃げるか?

 それとも共闘して倒すか?


 グルグル回る思考の中、定時連絡を知らせるアラームと共に目の前に<地図(map)>が表示された。そこに記される点滅は全部で四つ。どれも一カ所に固まっていた。

 私と巫女と中学生と、そのカタストロフィ・ゲンガーだけだった。


「なっ……!!」


 あのカタストロフィ・ゲンガーの主が<カタストロフィ>であることはほぼ間違いないはず。

 では、何故その真の主が<地図(map)>に存在しないのか。


「まさか……」


 それは、<カタストロフィ>は、この<天剣聖祭ソードエンペラー・フェスティバル>の最終戦の『終焉』において、何者かに敗北した?


 あの最強の<カタストロフィ>が?


「いや、あり得ない事じゃない……!」


 <カタストロフィ>。それは『最強の代名詞』として誰からも憧れ、模倣犯すらでるほどDream・Box・On-lineに深く根付いた。

 しかし、いくら『一騎当千』と称された過去の英傑ですら、戦場で散ったのだ。


 ならば、ここには腕の立つ二人と私。対する敵はカタストロフィ・ゲンガーのみ。

 更に、先ほど叩き潰されたのは、全く意思の無い、ただ戦闘行動ばかりを組み込まれたプログラムの塊<ドッペルゲンガー>だ。

 生きた人間は、プログラムには無い力がある。そこが大きく勝敗を分ける事もある。

 ならば。ならば、だ。


「勝機は、……ある!」


 先ほどの例で示した通り、『私』なら勝てる見込みは低いかもしれない。

 それでも。

 それでも、『私達』なら話は違ってくるのではないか?


 『勝てない相手ではない』。それは、既にこの最終戦で散ったプレイヤーの誰かが証明してくれた。

 僅かな希望が見え始め、淀んだ思考が少しずつクリアになってくるのが分かる。

 どれだけ強かろうと、数の暴力には勝つことが出来ない!


「それじゃ、連携を……」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 と言い掛けたその時背後から大声が聞こえた。慌てて振り返ると、そこに血走った目をして今まさに隣をすり駆け抜けて突撃をしようとしていた中学生がいた。

 この無鉄砲な特攻はあっさり虐げられる。

 そう直感が囁いた。


「ダメっ!」


 中学生の進む進行路を塞ぐように、レイピアを構えて目の前に躍り出る。


「どけぇぇぇぇぇぇ!! ≪六連舞シックス・シークエンス≫!!」

「くっ……」


 放たれた六つの斬撃のいくつかを弾いたが、至近距離で受けた上、後ろに引けないためにほとんどをストレートに浴びてしまう。HPが痛々しく減少したが、それでも道を譲らずに立ち往生した。


「貴方が特攻しても、負けるだけ。勝ちたいなら、少し待って」

「うぅ……」


 その言葉を聞いて、ようやく中学生の足は止まった。

 『勝ちたいなら』

 この言葉に反応して、瞳に涙をためて今にもこぼしそうな顔で頷いた。

 それを確認すると、次は私達よりも近い距離でカタストロフィ・ゲンガーと正面からにらみ合っている巫女に向けて声を張り上げた。


「巫女さん! 撤退して、合流しましょう!」


 その言葉に、顔はカタストロフィ・ゲンガーの方へと固定させたまま、巫女は僅かに頷く。

 カタストロフィ・ゲンガーとの距離を測るように後退し、一定の距離を取った瞬間、此方に向けて走り出した。勿論、それを見逃すカタストロフィ・ゲンガーではない。その背を追うように背後に尾く。


「速い」


 短く、巫女が感想を漏らす。

 巫女を追いかけるカタストロフィ・ゲンガーの方が格段に速く、開いていた距離が一気に詰められる。

 背を振り向いて応戦しようか悩む素振りを見せる巫女に対して、私は叫んだ。


「私が……!」


 それを聞いて巫女は小さく頷くと、こちらに向けて疾走を続けた。

 その間に私は、巫女ごと照準を合わせて、レイピアを構えた。

 私達諸共葬ろうとしたのか大きく振りかぶって飛び上がったカタストロフィ・ゲンガーを狙って、巫女が私の真横を通り過ぎた瞬間に<スキル>を放つ。


『閃光(lightning)』


 切っ先から飛び出した光の斬撃が空中を飛ぶカタストロフィ・ゲンガーに向けて輝くレイピアとなって一直線に突き進む。


キンッ!


 しかし、滞空中の状態からですら、カタストロフィ・ゲンガーには放った<スキル>は弾かれた。

 余りの芸当に思わず舌を巻く。

 あの攻撃で倒れてくれれば一番楽だったのだが、それは希望的観測過ぎたようだ。

 しかし、問題ない。むしろ、『閃光(lightning)』を放った真の目的は次にあるのだから。

 私達はそこでカタストロフィ・ゲンガーから目を逸らすと、背を向けて走り出した。


 直後、光の斬撃が弾かれた瞬間に光を纏ったかと思うと、強く煌めいた。その光が漆黒のステージ、『終焉』を純白に染め上げる。


「今の内……ッ!!」


 全力で足を動かしていた時、足に僅かな痛みを感じた。視界の隅のHPは僅かに減少している。

 まさか。


「飛来系<スキル>をあの体勢から放った……!?」


 既に曲芸の域に達する。<カタストロフィ>という存在は、どこまでこんな無茶苦茶な事が出来てしまうのだろうか。

 思わず止まりかけた思考を無理矢理動かして、余計な事を頭から振り払う。この目眩ましの閃光も僅か一瞬の事だ。今直ぐに、この場から一センチでも遠くへと離脱しなければならない。


「貴方、名前は?」


 走ってる途中で、巫女に名前を聞かれた。思わずビックリして体が硬直しそうになるが、細々と「セナ」と名乗った。

もう一人の<カタストロフィ>を語っていた中学生は、人形と名乗る。


「そう。私は九十九」


 既に光は消えかけて、もうしばらくすればカタストロフィ・ゲンガーは私達の捜索を始めるだろう。


「作戦は?」


 九十九が主語だけで聞いてきた。


「私は、あの、<カタストロフィ>を語る奴を倒せるって聞いて付いてきたんです。嘘だったら背中から刺しますからね」


 根に持つように人形は言う。

 目が本気なのが恐ろしい。


「大丈夫。作戦はある」


 私達は話し合いをするため、近くの陰に身を潜めた。














 その<天剣聖祭ソードエンペラー・フェスティバル>の中継はリアルにも放送されていた。

 それを眺める一人の男。無精髭に気持ちの悪い笑みを浮かべたこの男は、こう言った。


「素晴らしぃ。完璧ですよぉ、<カタストロフィ>さぁん。『計画』も順調で、良かったですねぇ」


 カタストロフィ・ゲンガーに拍手を送りながら、男は席を立った。

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