獣共の戦い
「うぉぉぉぉ!!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
遠くから二人が悲鳴を上げながらこちらに走り寄ってきた。
その背後には、先程の<七尾・黒狐>より一回り大きい<八尾・白銀狐>と、それよりと更に巨大な<九尾・天狐>が控えている。
<八尾・白銀狐>の額には輪廻模様が描かれている。
「ちょ!? ジェシカさん! それってMPKっていうんですけど?!」
亜黒が疲れたように叫ぶ。
「仕方がないでしょう!? <六尾・青狐>を狩ってたら二匹同時に乱入してきたんだから!」
二人は、こちらになんとか合流した。
背後には、漆黒に身を染める狂犬<神喰い>。神を殺す犬に相応しい、威風堂々とした姿だった。
「オイオイ。なんだって、そっちは犬共を連れてきてんだ!?」
「知りませんよ、千羽鶴さんこそはち合わせてはいけない二匹を、まさかの同時に連れてくるなんて異常でしょう!?」
千羽鶴と闇小夜が言い合う。
「グルルルルゥゥゥゥ……」
「コーン……」
「なにか、始まる?」
双方は睨み合う。
後方には<神喰い>率いる狼・犬。
前方には<九尾・天狐>率いる尾を持つ狐。
「待てよ。確か、『霊域・ハクレイ』と『山域・トウホウ』で、狐と犬が喧嘩するんだっけか」
「あぁ! 僕も思い出しましたよ! 片方のパワーバランスが崩れた時、何かが起きるって公式が書いてあったはずです」
「つまり、私たちが<六尾・青狐>や<七尾・黒狐>を倒しちゃったから、『山域・トウホウ』から犬共が狐共を襲いに来たってことね」
二種の怪物達は、五人を真ん中に挟んで睨み合う。
「って、待ちやがれ! このままだとこいつらの喧嘩に巻き込まれるぞ!?」
「皆、逃げるよ!」
ジェシカの号令で、その場を離れるように歩き出そうとした瞬間。
「ガラァァァァァ!!!!」
「キュイーーーーン!!!」
両方が動き始めた。
「冗談じゃねぇ」
「セナさんを助けてくれたから、犬達は味方だと勝手に思ってました!!」
「私たちまで巻き込むのね」
「あぁ、もう面倒ね!」
<八尾・白銀狐>が吼える。それに呼応して、<神喰い>が吠えた。そのまま両者は激突する。
「こーゆーのは、遠くから観覧したかったわ」
「全くをもって同意です!」
どうやら私たちは、狐・犬の両方から敵視されているらしく、包囲されつつある。
「ワンッ!」
一匹の<レッド・ウルフ>が飛びかかってきた。それを千羽鶴が大剣で切り下ろす。
次は、<一尾・黄狐>が三匹噛みつきに来た。
「よっと」
それらを闇小夜のメイスで討ち取った。
「どれだけ出てくりゃ気が済むんだ」
「逃げられない……」
後から後から犬と狐があふれ出て、逃げる隙など寸分もない。
だが、狐と犬の戦いは熾烈を極めていた。
<神喰い>が<八尾・白銀狐>の喉元に食らいつこうと襲いかかった。しかし<八尾・白銀狐>は間一髪で回避する。
すると、驚くべきことに<神喰い>の肉体が隆起し始め、人型へと近付いていく。
それを黙ってみている、<八尾・白銀狐>ではない。<魔法>を使って、白い結晶を口元へ集約させていく。
≪絶対零度≫が光線のように変形中の<神喰い>を襲う。しかし、<神喰い>の方が僅かに早く終わり、咄嗟に回避をとった。
「ギャゥ!?」
それでも僅かに肩を掠める。それだけでその肩は凍り付いている。
「グルルルルゥゥゥ!!」
≪絶対零度≫を撃った反動でか、その場で動きを止めていた<八尾・白銀狐>に向けて、鋭く尖った爪を顔面に叩き込んだ。
「ギュイーーー!!!」
絶叫を上げて、のたうち回る<八尾・白銀狐>。それに馬乗りになるように<神喰い>は覆い被さり、その顔に数撃与える。ベチャビチャと痛々しい音になったその時、<八尾・白銀狐>の口元が白く輝いた。
≪絶対零度≫。
先程、掠めただけで凍らせたその威力。それを今度は余すことなく<神喰い>にぶつけた。
「ギャルゥゥゥガァァァァ!!!」
胸辺りに入り込んだ光線は、そのまま骨を砕き、反対側の皮膚を突き破った。
氷柱が立ち、それに支えられる形で動きを止めた。そして爆散。
直後、私の体を激しい悪寒が走る。
≪絶対零度≫。
あれは……人間の受けていいものではない。
恐らく。
恐らくあれは……。
「即死攻撃、か」
千羽鶴も同じ感想を抱いたのか口から同じフレーズがこぼれる。
「キャゥン!」「ワォーン! ワンワンッ!!」
犬達は私達への攻撃を止め、空に向かって狂ったように鳴き声を上げた。
「キュイーーーーン!!!」「コンコン!!」
狐達は勝ち誇ったように空へ雄叫びを上げた。
ヨロヨロとした感じで<八尾・白銀狐>は起き上がり、額を輝かせた。
「ま、まずい!? アイツ、こっちに放つつもりだぞ!?」
いち早く危険に気付いた千羽鶴が、逃げ出そうとする。しかし、既に砲口はこちらに照準を合わせてあるようだ。そもそも、プレイヤーには手の届かない程のHPを持つ<神喰い>すらも一撃で絶命せしめた≪絶対零度≫に、人間に抗う術は無い。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
闇小夜が悲鳴を上げる。
そして。
誰もが死を直感した。
そして。
そして。
死は……訪れない。
代わりに、ズドンと音が響く。
それは。
今まさに≪絶対零度≫を放とうとしていた<八尾・白銀狐>を押しつぶすように現れたそれは。
目を開いたその先に。奴は現れた。
カーソルを合わせた。
<犬神・天狗>。
そう、表示された。




