6章 スリュムⅱ
「……じゃあ、食べていい?」
「もちろんですよ、どうぞ」
店を数件回った結果、何故かオマケにより荷物がビル程の高さになってしまったため、結局噴水の周りに二人は腰を落ち着けた。半刻にも満たないはずの時間は、連華の空腹に拍車をかけていた。
蓮華はもう我慢出来ないとばかりに紙袋の中身にかぶりついた。
「どれも俺のいきつけの店なんです。
どうですか?」
スタークが聞く。
その言葉に蓮華は呆然と呟いた。
「……おいしい」
「そ、そうですか。……あの、無理はしなくていいんですよ?」
あまりの感想の少なさに、スタークが気を回してくる。
……違う。美味しすぎるのだ。
何で私の世界にはこれが存在しない! と叫びたくなるほど。
ホクホクのマッシュポテトのようなそれは、コンソメとたまねぎを甘辛く煮つけたような味で、それに加え時々あるシャキシャキ感が堪らない。
ああ、生きててよかった。
ここに来て、蓮華は初めてその感想を持った。
その後一心不乱に食べ続け、山のように貰ったオマケはお土産にちょうどいい量に収まったのだった。
蓮華は、ぱぁんと両手を顔の前に合わせた。
「ごちそうさまでした!」
満足満足。
「……本当にお腹が空いていたんですね……。びっくりしました。あ、お茶どうぞ」
蓮華は礼を言って石の器を受け取った。
そういえば、スタークが食べている所を見てないような。
……ま、いいか。
蓮華とスタークが同時に茶をすすり、ほぅ、と余韻に浸る。
「それで、この後はどうしますか?」
「うーん、そうだなぁ……」
そこで蓮華は、はっとなった。つい観光気分で浮かれていたが、そんな場合ではないのだ。明日には街を出ていく。必要なものを買い揃えておかねば。
「あ、あの、日持ちする食糧を売ってるお店ってあるかな。後は衣服とか」
借りたこの服一着だけでは心許ない。
蓮華の意図を読み取ったのか、スタークの顔が若干引き締められる。
「……そうですね。
分かりました。俺が知ってる店でよければ案内しますよ」
二人で立ち上がって後ろをはたく。
……藁兄さんは、今頃、ちゃんと食べれているだろうか。
そんな思いがふと頭をよぎった。