6章 スリュムⅰ
「……わぁ……」
出口の扉が開くと、眼前には市場が広がっていた。人が集まって商売するのはどこの世界でも一緒らしい。
「詰所を出ると、座って食べる場所というのはあまりなくて。立ち食いでもいいですか」
「うん、じゃあそれで」
今すぐ胃に食べ物を入れたい蓮華としてはありがたい話だったが、この爽やかな青年に立ち食いという言葉は似合わない。蓮華は笑いを噛み殺した。
人混みを掻き分け進むと、他よりやや天幕が薄汚れた、小さな店に辿り着いた。
恰幅のいい女性が声を張り上げている。
「いらっしゃい! いらっしゃい! スリュム名物サータブルはいらんかねー! って、あらスタークちゃ……」
そこで女性がスターク達に気付く。すると蓮華を目にした瞬間、絶望的な顔色になり、崩れ落ちた。
「な、何。どーしたのおばさん」
蓮華の言葉には応えず、座り込んだ女性はそのまま遠くを見つめる。
「そう……スタークちゃんにもとうとう……。
良かったわね、スタークちゃん。何だか美人さんな子だし……。
だが呪われろ小娘」
何だかとんでもない勘違いをされているようだ。蓮華がひっと一歩引くと、すかさずスタークが前に歩み出る。
「あはは、違いますよセルジャさん。彼女は今日スリュムに来たばかりで俺が案内役になっただけです。あ、サータブル二つ」
何だか慣れている。後何気に台詞には捏造が入っている。
「ああ! なるほどね! やだ、そうだったの! ごめんなさいねぇ、この年になると想像力が広がっちゃって……。お詫びにサービスしとくわね」
途端に目に輝きが戻った女性が鼻歌まじりに商品を紙袋に詰めていく。気のせいか、十は余裕で入りそうな袋がぎゅうぎゅうになっている。連華は微笑みを絶やさない青年を、じとりと見た。
「ちょっとちょっと、あんた」
紙袋を抱えて去ろうとした時、声を掛けられた。
「……何?えっと、セルジャさん、だっけ」
こそこそと話し始める。
「ほんとはあんた、スタークちゃんとはどこまでいってるの?」
「どこまでも何も……今日出会ったばっかだよ」
「……あら、そうなの……。でも、もし! 万が一にでもそうなりそう、もしくはそういう奴が居たら逐一報告しなさいよね! 『井戸端アイドルを愛でよう』会員ナンバー2が黙っちゃいないよ!」
私、明日この街を出てくんですが。
そうとは言えず、蓮華は、はぁ、とだけ頷いた。
その後出店を幾つか回ることになるが、その度に連華は同じような目に会うのだった。
……何という、マダムキラー。