5章 談話の後ⅲ
樹莉の言った通り、スタークは確かに美貌の青年だった。背は高いが、どちらかというと女性的な顔立ちで、これで髪を伸ばしていたら本当に間違えるだろう。
「初めまして、俺がスタークです。今日一日、よろしく」
「私は蓮華。こちらこそよろしく」
嫌みのない爽やかな態度に好感を持った。金色の髪に青い瞳。前出会った金色の女性は幻想的な美しさだったが、こちらは人形のような可愛らしさを持っている。敬語はどうやら標準らしい。
「それでレンガ、どこへ行きますか」
外に向かうため彼の後ろを付いていくと、振り向きざまにそう聞かれた。
「あ、どこか食事できるところあるかな。
私お腹ペコペコで……」
蓮華のその言葉にスタークは分かりました、と返事をする。
蓮華は周りを確認しながら歩を進めた。どうやらここは相当の広さのようだ。時々「突撃、用意!」の掛け声やら、鉄のぶつかり合う音が微かに聞こえてくる。
「ところで、レンガは随分辺境の閉鎖された村から来たそうですね。何か、分からないことはありますか?」
……ああ、なるほど。そういうことになっているのか。確かに、違う星から来た、というのはだれかれ構わず触れ回ることではないかもしれない。
樹莉の立ち回りの良さを褒め称えたくなる。
「ううん、大丈夫。大体の事情はここのリーダーに聞いたから」
「リーダー?」
スタークが不思議そうな声を出す。
この言葉は存在しないのか。言葉を濁す。
「あ、えっと。……私達の村では一番偉い人のことを、そう呼ぶことがあるんだ。……駄目かな」
少し言い方がラフすぎたかもしれない。蓮華は反省した。
「いいえ、そんなことは。
面白い響きですね」
スタークはその言葉にもにこやかに応じる。
何というイケメン。
「……ん?」
そこで蓮華は通り過ぎた場所が気になって、思わず後ろ歩きになり覗き込んだ。
閑散とした部屋だった。だが中央には台座のようなものが置かれ、その上には琥珀色の透き通った大きなしずく型の石が祀ってある。扉がなく、床には大理石が敷き詰められていた。ここは一体。
「この部屋が気になりますか?」
「あ……、ごめん、勝手に立ち止まって」
蓮華の言葉にスタークは軽くかぶりを振る。
「いいえ。……ここは、かのメシャスを祀った祭壇です」
「メシャス?」
聞き覚えのないその言葉に、頭を捻った。
「古代語で『救世主』の意を表します。賢人戦争の話はご存じですか?」
首を縦に振った。どうしても、金色の女性が思い浮かぶ。
「彼女が最後に腰を下ろした地が、ここスリュムだそうです。そして亡くなる際に祭壇の『石』に『魔法』の力全てを封じ込めた、と言われています。何のためにそんなことをしたのかは分かっていませんが」
「なるほど……」
確かに石は彼女を彷彿とさせた。
しかし気になることが増えた。
「封じ込めたって……、そんなこと出来るの?」
初耳だった。
「はい。ただ『石』にもよりますが。
『石』の大きさと純度が高ければ高いほど、注入量と放出できる魔力が増えます。
多分これほどの『石』は大陸全土回ってもこれ一つでしょうね」
「ふぅん」
そういって蓮華は腕輪の石を見た。確かに、祭壇のものより遥かに小さく、純度は低い。
だが、パンタが魔力を入れてくれてあるのかもしれないと考えが及んで、腕輪を撫でた。
「では、そろそろ行きましょうか」
「あ、うん」
何となく、その場に名残惜しい気持ちを抱いて、連華はもう一度振り返った。