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黒戦記   作者: 子音
1章
14/47

5章 談話の後ⅰ

 沈黙が落ちた。

 しかしそれは一瞬で、男性の声が再び響く。

 「ここまでが、私達が公言出来る内容だ。

 さて次は貴殿の番だ。何があったのか。何故私達の領域へと侵入したのか、だ」

 蓮華は河原からのあらましを二人に話した。

 気付けば見知らぬ土地に居たこと。黒い鎧の兵士からただ走ってこの地へ逃げてきたこと。兄と離ればなれになったこと。何となく言うのが(はばか)れて、金色の女性のことは言えずに終わった。

「なるほど……。

 にわかには信じられんが、おおよその流れは分かった。

 それで貴殿達への今後の対処だが……」

 男性がそこで言葉を一旦区切る。

 しかし、蓮華には漠然と予想がついた。

 「明日(みょうじつ)、ここを出ていってもらう」

 大体予想通りのその言葉に、ベッドの端に座っていた樹莉は立ち上がった。

 「そんな!!」

 樹莉の反応とは対極的に連華は落ち着き払っていた。

 「……それは、やっぱり私達が信用出来ないから?」

 そう推測したのは、会話の最初にあるべき一連の流れがないからだ。

 蓮華達は、自己紹介を済ませていなかった。

 「……そうだ。もう私達には他国に麦一粒でも与える余裕はない。何せムスペルとニヴルの同時侵攻を受けているのだからな。

 ここで情報が洩れれば、確実にヨーツンは崩壊する」

 そんなにここの旗色は悪いのか。

 それを口にすることも躊躇(ためら)われて、蓮華はやむなく承諾した。

 「そういうことなら仕方ないか……。

 分かった、大人しく従う。

 どちらにせよ兄さんを探さなきゃいけないし」

 樹莉はまだ逡巡(しゅんじゅん)した様子だったが、その言葉を受けて続けた。

 「……そっか、そうだね。

 ……分かりました。

 私も従います」

 二人の承諾を認めた男性が告げる。

 「……明日の正午まではここへの滞在を許可する。

 市街に出ると言うのならば、スタークという男を貴殿達の見張り兼護衛に当たらせる。

 後は何かあるか」

 もうすぐ会話が終わろうとしているのを見越して、蓮華は言った。

 「一つだけ」

 「何だ」

 「その、……貴殿っていうのやめてもらえないかな。

 正直、何度か笑いそうになっちゃった」

 言った後で、もっと早く言えば良かった、と少し後悔した。



 

 「それにしても、随分と寛大な処置をなされましたね」

 医務室を出て開口一番のパンタの台詞にコーグルが応じた。

 「……何だ。

 私があの二人を拷問にでもかけて、もっと情報を引きずり出そうと躍起(やっき)になる、とでも考えていたのか」

 それにパンタが笑う。

 「いえ、まさかそんな無意味なこと。

 そうではなく、街へ降りるのを許可したことです。

 コーグル様もお年頃ですからね。やはり若い女性には甘いのかなー、と思いまして」

 尚もからかう口調で言葉を重ねた。それにコーグルはいつも辟易(へきえき)する。

 パンタが続ける。

 「でも、姉の方は少しニフを彷彿(ほうふつ)とさせましたね」

 「……それは私も感じた」

 執務室に戻るにつれ、人がまばらになる。

 そこで、パンタは瞬時に顔を切り替えた。

 「虚偽を、語っていると思いましたか」

 目的地へ向かう足を少し緩め、コーグルがそれに返す。

 「……可能性は低いな。

 諜報員として来るならもっとましな嘘をつくだろう。荒唐無稽ではあったが……、一応話の前後に破綻(はたん)は見受けられなかった。

 それに何より」

 コーグルは声のトーンを落とす。

 「国境付近に、ムスペルの兵士が居た、という情報をあえてこちらに伝える意図が分からない」

 「やはりそうですか」

 「しかしそれが事実だった場合、憶測は現実のものになったと見てほぼ間違いないだろう。

 ……最悪な事態だな」

 その呟きと共にコーグルが目の前の扉を開く。

 活路もこの扉のよう簡単に見出せないものか。コーグルは思案した。

 パンタの声が静かに告げた。

 「はい。まさか……

 ムスペルとニヴルが、手を結ぶなんて」


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