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黒戦記   作者: 子音
1章
13/47

4章 リータルⅲ

 女性の話が一段落ついたのを見計らって、男性が口を開いた。

 「さて、私達の世界の解説を大体終わらせたところで……。

 本題に入ろう。

 今、リータルでは、大規模な全面戦争に突入している」

 蓮華が息を呑む。

 それは、前々から鎧や兵士と言った点で、何となく予想していたことだった。

 「……何か理由は、あるの?」

 男性が頷く。

 「ある。むしろそのせいで、激化しているといっても良い。

 後三年、収まらないことは確実だ」

 それが長いのか短いのか、戦争がある国に育っていない蓮華には分からなかった。

 「先程解説した『魔法』だが……、人一人使用出来る『魔法』などたかが知れている。大規模な災害を起こしたり、多数の体に影響を及ぼす魔法など、論外だ。

 しかし、およそ千年前、それを行うことが出来る種族が居た、と伝承にある」

 彼は確認するかのように、手持ちの古ぼけた本を開いた。

 「私達は、その種族を『賢人』と名付けた。

 彼らは眉目秀麗な容姿と体一部位に入れ墨のような模様を持ち、長寿だったと伝えられている。

 リータルにおける数は、人類の十分の一にも満たなかったらしい」

 連華は違和感を感じて、それを口にした。

 「さっきから聞いてると、らしい、らしいって……。

 今は居ないの?」

 その問いに男性は続ける。

 「まぁ聞け。

 彼らはその特化した『魔法』故に、私達人間を見下したそうだ。両者の不満が火種として積もったのだろうな。 遂に人間と賢人の間で戦争が起きた。

 この時ばかりは、三国が手を結んだらしい。皮肉なことだ。

 後に『賢人戦争』と名付けられたそれは、最初は、まあ一方的の一言に尽きる。

 賢人の『魔法』による蹂躙(じゅうりん)が行われた。

 人類は疲弊し、降伏寸前まで追い込まれる。

 ……だが、そこで救世主が現れた」

 お決まりなその展開に蓮華は本を読みきかされている気分だった。

 しかし次の言葉に耳を疑うことになる。


 「それは美しい黄金の髪と眼を持つ少女だったそうだ」

 「!」

 それは、蓮華が河原で出会った女性の外見と一致していた。

 急にベッドから身を乗り出した蓮華に、男性が尋ねる。

 「……どうした」

 「あ……、ごめん。続けて」

 その様子を不審に思いつつも、男性の話は尚止まらない。

 「……少女の『魔法』は他を圧倒した。そうして徐々に人間が優勢側に付き、遂に戦いに勝利した。

 敗北した賢人は、『魔法』で作り出した空間へ消えていったと言う」

 「普通にハッピーエンドだね……。

 でもそれが今の戦争と何の」

 蓮華の言葉を男性が遮る。

 「ここまではいい。

 だが、戦争が終焉を迎え、賢人がこの地を離れる時、こう告げたそうだ。

 『我らは戦に敗れた。

 しかし、疲弊(ひへい)しきった我らでは、到底対価を支払うことは出来ない。

 千年の後、我らは最後の地へと降り立とう。

 そこで我らが魔の力で、一つだけ、お前たちの望みを成就せしめる』

 とな。

 ちなみに最後の地、とは決戦が行われた、先程貴殿の妹が書いた円、中心のギンヌ湖に浮かぶ孤島の神殿だと言われている」

 蓮華は絶句した。

 つまり、話をまとめると、その『願い』まで後三年で千年を迎える、ということになるのだろうか。

 そして、その『願い』を巡って世界大戦が行われていると、そういうことだろうか。

 だが、しかし。

 「そんなの、人間同士を潰し合わせる罠に決まってるじゃない」

 蓮華は茫然と呟いた。

 それに男性は静かに述べる。

 「……そうだな。誰もがそう思った。

 当初は、三国とも、無視を決め込もうとしたようだ。

 だが、千年は、長い。

 もし、本当に願いが叶うのなら。非現実が現実となるのなら。そんな思いは徐々に大陸を(むしば)み――」

 後は言わなくても分かる。

 蓮華は汗ばむ手でシーツを握りしめた。

 「十四年前に起こった、ムスペル第一王子のニヴルによる暗殺。

 それが引き金だ」


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