4章 リータルⅰ
樹莉は蓮華が三日眠り続けている間に様々な場所で情報収集に務めた。
熟考を経て辿り着いたのが、ここは地球ではないかもしれない、という結論だったという。
樹利が姉に説明する時間をもらっていいか、と尋ねると二人はそれに快く応じた。女性が紙と鉛筆を差し出す。よく気が利く人だな、と蓮華は思った。
「えっと、まずはね」
そう言って樹莉は紙に歪んだ六角形を書いた。その中心に小さな円を描く。
それに三本線を引いて、北側、東側、西側に三分割した。
「この世界の名前はリータル。それでこの六角形が、この世界で唯一大陸と呼べるものなんだって。
それで私達が今居るのは、ここ」
樹莉は鉛筆で西側の四角形を指した。それから上へと鉛筆を滑らせる。
「北側がニヴル。
えっと、確かクハリャ神だったかな、を崇めている宗教国家。後で説明するけど、『魔法』が一番活発に使用されてる国らしいよ。
それから東側がムスペル。
ここは身体能力が優れている人が多いんだって。軍事組織が発展していて、三つの役割を持った軍隊が国を守ってる。
最後がここ、西側ヨーツン。
三つの中だと歴史が一番浅いんだって。
理由が、何千年も昔はムスペルとニヴルしか国がなかったんだけど、戦争があまりに多過ぎて、逃げてきた人がここに国を作って領土を広げてきたって。そういう理由からか、国民主権国家で、一番日本に近いものがあるかもね。
『魔法』を扱える人がちょうど三国の平均くらい。
後は、そうだなぁ。二つの国に比べて人口が一・五倍くらい多い、とか。
ここまでで何かある?」
……確かこの子は小学生のはずなんだけど。
あまりに流暢な説明に蓮華は瞠目した。
しかし、それ以上にどうしても馴染みのない単語が気になってしまう。
「樹莉、魔法って……、魔法?」
樹莉はやっぱそこか、と困ったように笑った。
「魔法は、魔法だねぇ」
「……漫画とかアニメとか小説とかの、あの、魔法?」
「……私も最初は信じられなかったよ。
でも、お姉ちゃん。
これ何だと思う?」
樹莉はそう言って、自らの左腕を蓮華に向けた。そこには、蓮華の腕輪と同じものが填まっている。
それに蓮華は訝しる。
「……これが何?」
「ちょっと外してみて」
蓮華はその言葉に従い、意外と簡単に外れたそれを木棚の上に置く。
すると樹莉は今まで静聴していた二人組に向き合う。
「あの、姉に何か話しかけてみてくれますか」
次の瞬間、蓮華の耳を信じられない出来事が襲う。
「:*+△? $“□#@」「=◎^~¥。&▼“_」
蓮華は固まった顔のまま、すさまじい速さで腕輪を取り、填めた。
「……今度は、分かるか?」
腕輪を填めたのを確認して男性が言うと、蓮華は首をコクコクと縦に振った。
「え、何、これどういう仕組み」
ようやく出た声で蓮華は疑問符を並べる。
「これも、『魔法』の一種なんだって。
説明よろしくお願いします」
樹莉は女性に説明を譲渡した。