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黒戦記   作者: 子音
1章
1/47

プロローグ

 空が青いな。

 首筋でまとめられた長い一つ縛りの黒髪をだらりと地べたに向けながら、一条蓮華(れんが)はぼんやりと空を見上げた。しかしずっとこうしてはいられない。

 何せ、今は『授業中』なのだから。

 目の前約三メートルの範囲に、約二十人の生徒と黒板に眼鏡をかけた教師というありきたりな光景が存在していた。青空教室は蓮華にとって珍しいものではあったが、風景としては、まぁ、見慣れたものだ。しかし、だがしかし。到底ついていけるものではない。

 根本から脳が拒絶を示している最中、教師は一人の生徒を指し、言った。

「きみ、『魔法』の基本について述べてみたまえ」

 その問いにうら若き兵士は、はきはきと、勇壮活発、やる気満々に答えた。

「はい! 

 『魔法』とは我々の世界『リータル』において、適性を示した人間だけが使用出来るものです! 

 また大きく分けて二種類存在すると言われています! 

 一つは『補助魔法』――これは筋力の増強により、腕力や走る速度を向上させることが出来ます! また人間本来が持つ自然治癒力も高めることが可能なため、医療班にはこの種の魔法を持つものが回されます! 

 もう一つは『攻撃魔法』――これは火や水といった無機物に働きかけ、自然界の脅威、水害や震災というものを人為的に引き起こすことが可能です! 前線に回されます! 

 以上で私の回答を終了させて頂きます!」

 お見事。よく息切れしなかった。そんな蓮華の感想をよそに、ふむよろしいと教師は回答者に地面への体育座りを許可した。

「さて諸君、今の回答だが……、概ねよろしい。だが、核心が抜け落ちていたな」

 今度は答えを求める訳ではなく、自らがそれを言う為に教師はぐるりと百八十度首を横に回した。ほんの少し、蓮華は自分に視線を感じた。

「補助魔法と攻撃魔法は基本的に両魔法の使用は、不可能である。

 以上。今日の講義はここまでとする」

 蓮華は核心とやらを頭で何度か反芻(はんすう)させながら考えた。

 しかし考えを口には出すことはなかった。

 結局一言も発さず、今日の授業もお終いだ。

 ――空が青い。

 ほんと、私の世界より、真っ青。



 講義を終えて自室に戻るために長い渡り廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。おや、あなたは先ほどの肺活量抜群の兵士さん。

「何か?」

 走って追いかけてきたのだろうが、そこは普段訓練しているだけあってか息一つ乱さず、また一息に質問された。

「本日は貴方のような方と陪席(ばいせき)出来たことに深く感銘を受けております! しかし何故我々見習い兵士の一般講義に毎回ご足労頂いているのでありましょうか! 無礼は重々承知ではありますが、ここ最近食事も喉を通らない程に不思議でありまして、何卒ご返答頂けないでしょうか!」

 おぉそんなにか、それは良くない。彼の食欲不振を早く解くべく、応援団よろしくの姿勢に向き合う。

「うーん、何というか……」

 何と言おう。しかし目の前の期待は私の答えに催促をかけている。

「えっと……皆の授業態度を見るため……とか?」

 私は先輩兵士然とするため大嘘をついた。まぁこれで真面目に答えたら電波女へとイメージ崩壊の一途を辿るだろうし。

 ごめんね。

 私はあなた達の日常の知識には、この世界で一番、(うと)いのですよ。


 蓮華がその場を立ち去ってからも、屈強な体を持ったうら若き兵士は感動に身を震わせていた。そこへ彼よりは幾らか小柄な同僚が声をかける。

「よう、話は聞けたか?」

「あぁ……、見聞広く、我々下っ端にも気軽に接して下さる、女神のような方だった……」

「……そうか」

 また無駄に想像力を働かせたなこいつ、と体に似合わずロマンチストな体躯に言葉を続けた。

「でもなぁ、『女神』はある意味あの人にとっては不名誉なんじゃないのか?」

 そ、そういうものなのか、と隣で体全体が狼狽しているのを尻目に、渡り廊下の先を見つめた。人の姿が見受けられないのを確かめて、細身の兵士は言った。


「だって、あの人は……我らが国ヨーツンの英雄にして、『黒の魔女』の異名をとる、軍随一の大魔法使いなんだから」




「なるほど……。ふむ、大分名が知られるようになって良かったじゃないか」

「それが感想って、そんなお気楽ごとじゃないから。

 何というか、すっっっごい罪悪感が……」

 蓮華はげんなりと目の前の男にのたまった。

「まぁこれから先もついて回る話だ。少しは慣れておけ。……で、どうだ。

 少しは我々の世界へのご理解は深まったかな、異星人さん?」

 蓮華はじろりと男を見た。

 薄い栗色のショートに深緑の目、中背中肉とは言い難い痩身(そうしん)だが、橈骨(とうこつ)に沿った筋肉が華奢(きゃしゃ)なイメージを払拭させる。年は見た目二十代前後ほどだろうか。

 蓮華がこの地、ヨーツン国の副首都スリュムに身を寄せた当初、信じられない項目の一つにこんな優男がまさかの騎士団総司令だったことが挙げられる。

 あまりに信じられなさすぎて様付けすることがためらわれ、『リーダー』呼びをしたらこの世界には存在しない語彙(ごい)らしく、響きがいいからとその呼び方が採用されてしまった。

 まあ本人が気に入ってるみたいだからいいか、と蓮華は自分を納得させた。

 ちなみに忘れがちになるのだが、本名はコーヌングル・ウォーデンと大層立派な名前をしている。

 そんな紆余曲折を経ての呼称に、蓮華は異星人呼ばわりされた恨みを込めた。

「リーダー……、まだ信じてないね?」

「このご時世に国境をずかずか踏み越えてきた奴を捕らえてみれば、違う世界から来ました、ときた。一か月そこらで信用しろというのは、一人の兵を敵百人から守るより無理難題だな」

 至極ごもっとも。

 しかし蓮華は突っ込みと共に、別の思いを巡らせた。

「一か月……。

 ……そっか、あれからもう……」

 石垣の窓から見える、十数年見てきた眺めとは程遠い景色を一瞥(いちべつ)した。

 思い出す。

 世界『リータル』に来る前の自分を。

 そして、訳も分からず英雄となってしまった、あの日を。


 はじめまして。自分は小説を書くのも投稿するのも初めてでビクビクしながらの掲載になります。

 少しでも楽しいと思ってくれる方がいたら、幸いです。

 それでは、どこまで続くか自分にとっても未知の世界ですが、これからよろしくお願いします。

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