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ー第5話 京子ママ




ー第5話京子ママ



理彩が知り合いの個人タクシーを呼んだ。

十三駅の近くで3人はタクシーを降りて、理彩について行った。理彩は一階建ての木の扉を開けて、愛と正義を促した。



妙なのは、入ってすぐが廊下になっていて2〜3m先にカウンターとボックスが有った。さらに、その先にカーテンの下がった奥の部屋の入口が見える。

京子ママは、タイトスカートの紺のスーツで、髪をアップにした東南アジア系美人と、愛は見た。

店に客の姿は無く、京子ママは笑顔で3人を迎えた。

「理彩ママ!いらっしゃーい!。どうぞ〜」

愛は京子ママの目が、素早く正義と愛を見切るのを感じた。それは、水商売のそれではなく、敵味方を識別する必要が有る人々の目の動きだった。

「何にします?」

カウンターにおしぼりを置きながら、視線は鋭く動いている。

「ターキーは?」

理彩が言う。

「ありますよ〜水割りでよろしかったです?」

「良いよね?」

愛と正義はうなずいた。

手早くワンフィンガーの水割りが3っカウンターに並んだ。



「こちらの方…失礼ですけど、高宮愛さんですか?」

「そうです」

京子ママは両手を合わせて、喜んだ。

「凄い!お会い出来て嬉しいです。本は全部持ってるんですよ!」

「ありがとうございます」

愛は笑って見せた。

「それで…お隣の方は?」

理彩が答えた。

「愛さんの彼よ!イケメンでしょ?」

「あら?素敵な彼じゃない…おつきあいは長いの?」

正義が答える。

「5年目に入りました」

「あら?じゃあもうそろそろ?」

「正義くんの言葉待ちよね?愛さん?」

ー理彩め余計な事を…

愛は思いながら、正義を盗み見た。

「僕が不甲斐ないんで、まだまだです」

「そんな事関係なしに言っちゃいなさい!言えない理由なんか一生なくならないんだから」

正義は笑ってやり過ごした。

「愛さんからプレッシャーかけないと、男は思い切れないよ。元オトコのニューハーフが言ってるんだから信じなさい!」

愛は、あいまいにうなずいて笑った。正義は、このタイミングで取材に突入した。

「京子ママさんは、どこの方なんですか?」

「父親の仕事の関係で、3才から25までタイに居たんです。向こうで、女の子になってバーで働いてて、日本に戻ってきたんですよ」

「なるほど…タイは本場ですね。京子ママさんは、福嶋哲ふくしまてつさんをご存知ですか?」

一瞬京子ママは、沈黙したが、すぐに表情を戻した。

「良く知ってます。タイのお店の常連さんで、良くしてもらいました。福嶋さんのお知り合い?」

「はい。2年前に、チベットで仕事をした時にお世話になりまして…タイで去年行方不明になった時に、タオユアン村まで知り合いのジャーナリストが消息を突き止めたんですが、その先はまったく駄目で…」

京子ママの顔が柔らかくなった。警戒心が緩んだ。愛は、正義の腕前に感心した。

「そうですか…探して下さったんですね。私もタオユアンまで行きました。福嶋さんが何をしてたかはご存知です?」

「戦場カメラマンとして、何かを追ってたらしいぐらいしか…」

「村長が内緒で教えてくれました」

「えっ!判ったんですか?」

「タオユアン村に、タイ国王暗殺を任務とした、中国特務部隊が潜んでいたんです」

3人とも言葉をなくした。

「福嶋さんは、その部隊の中に、内戦内乱専門のスペシャリストとしてアジアで最も危険な男として知られる…」

正義が詰まった京子ママの後を続けた。

「トウ キンポウ特務大尉…要人暗殺を対立勢力の仕業に見せかけ、内戦内乱を勃発させるのが特徴の工作員…が居るのを発見した?ですか?」

「…それを、村の無線でタイ政府に通報中に、連れ去られたそうです。特務部隊は撤退し、作戦は失敗…中国のタイ掌握は失敗…福嶋さんが生きている可能性は無いとタイ政府に言われました」

愛は思わずつぶやいた。

「ひどい…」

「福嶋さんは、戦場カメラマンですから、危険は承知でした。でも、奥さんとお子さんの事を思うと…涙が出ます」

「その為に、日本に?」

「それも有ります。たまたま支援して下さる方と巡り会えましたので…ごめんなさい!こんな話。話題を変えましょう。…そうだ!タイのニューハーフ事情に興味有るんじゃない?高宮さん?」

「それはまぁ…」

「僕も聞きたいです!」

正義は、目的は達したようで目から鋭さが消えていた。



1時間程して愛は酔っ払っていた。京子ママは、明らかに福嶋さんを愛していたのだ。愛する人の家族を守り、そしてその意志を継ぐ為に、タリバンの和平派と何かをしている。悲壮なまでのけなげさを思うと、愛はつい飲み過ぎた。

気づいた理彩が言った。

「京子ママ。チェックして」

「あら?もう?」

「愛さんがヤバくなってるから…多分足に来てるから、正義くん支えてあげて!」

正義が態勢を整える前に、愛はイスを降りようとした。

正義の腕は間に合わず、愛はふらつきながら歩いて行ってしまった。そこに、入ってきたお客さんとぶつかった。慌てた正義と理彩が愛を支えに行った。

「すいません!ごめんなさい!」

京子ママも交えて、4人が謝りの言葉を交錯させた。お客の男は何故か

「あぁ…いや」

とだけ唸って、イスにサッサと座った。また京子ママの目に緊張が走った。

「じゃあ京子ママ、おやすみなさい!」

愛を両脇で支えて、3人はブリリアント ローゼズを出た。

愛は、タクシーに担ぎ込まれた後…記憶を失った。




ー次話!

ー第6話焼失の理由






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